2024 年 13 巻 3 号 p. 186-195
目的:相談支援事業に携わる精神障害をもつピアサポーターが経験する困難とピアサポーターの活動を支える要因を明らかにすることである.
方法:ピアサポーター9名に半構造化面接を行い質的記述的に分析した.
結果:ピアサポーターが経験する困難には【支援者としての力不足を感じる】,【当事者である自分がピアサポーターとして活動する自信が持てない】等があり,【ピアサポーターの立ち位置が定まらない】ことに繋がっていた.活動を支える要因には【支援に力を発揮できるように自己管理する】,【ピアサポーターの存在意義が認められる環境で働く】等があり,【ピアサポーターの存在意義を自覚する】ことに繋がっていた.さらに,活動の中で【利用者との相互作用による癒しの経験を得る】ことであった.
考察:協働する専門職や職場が,ピアサポーターの専門性やそれを発揮できる職場環境を理解することが,立ち位置の定まらなさの改善に必要と考えられる.
Purpose: This study aimed to clarify the difficulties experienced by peer supporters with mental disorders in consultation support services and factors supporting peer supporter activities.
Methods: Semi-structured interviews were conducted in nine peer supporters. The results were analyzed qualitatively and descriptively.
Results: The difficulties experienced by peer supporters included “feeling inadequate as a supporter” and “lack of confidence in an individual with a mental disorder as a peer supporter,” which led to “uncertainty about the position of peer supporters.” Factors that supported peer supporter activities included “self-management enabling expected performance” and “working in an environment that recognizes the significance of peer supporters,” leading to “awareness of the significance of peer supporters.” Additionally, “healing their emotional wounds” through consultation support services worked positively for the participants.
Discussion: These findings suggest that professionals should understand the expertise of peer supporters in the workplace and importance of providing a work environment in which peer supporters can demonstrate their expertise in clarifying their position.
我が国では2004年の精神保健医療福祉の改革ビジョンにおいて「入院医療中心から地域生活中心へ」という理念が示され,精神科病院の長期入院者の地域移行が推進されている.その中で,「障害のある人生に直面し,同じ立場や課題を経験してきたことを活かして仲間として支えること」(岩崎ら,2017)を意味するピアサポートの活用が進められてきた.先行研究では,ピアサポーターによる支援の有効性について示されてきた(小砂ら,2017;松本ら,2013;日本公衆衛生協会,2020).しかし,ピアサポーターが働くための課題として,雇用の不安定さや不明確な採用方法,一人職場の多さ等が挙げられてきた(相川,2013;大島ら,2019).そのような中,精神障害者にも対応した地域包括ケアシステムの構築推進事業において,保健所と相談支援事業所は協働し,地域移行・地域定着の個別支援を担えるピアサポーターの養成,雇用体制づくりを推進している(日本公衆衛生協会,2019).また,障害者総合支援法及び児童福祉法に基づく2021年度の障害福祉サービス等報酬改定では,利用者に対するピアサポートの効果が特に高いとされる相談支援事業等において,ピアサポート体制加算が導入された.そのため,今後ピアサポーターを雇用する事業所が増えることや,ピアサポーターの更なる活躍が期待される.
一方で,ピアサポーターの働き方の課題に加え,ピアサポーターが雇用関係となることによって生じる困難が,継続的な就労や専門性を発揮して働くことを妨げる可能性が推察される.しかし,ピアサポーター体制加算が施行されて間もない時期にあり,雇用されているピアサポーター自身が語る困難とピアサポーターの活動を支える要因については明らかになっていない.
そこで,本研究は,雇用され相談支援事業に携わる精神障害をもつピアサポーターが経験する困難とピアサポーターの活動を支える要因について明らかにすることを目的とした.このことは,ピアサポーターの継続的な就労や専門性を発揮して働くための効果的な支援に繋がり,精神障害者の地域移行・地域定着の推進や地域生活支援の質向上,精神障害者が暮らしやすい地域づくりを行う公衆衛生看護活動の一助となる.
本研究は,質的記述的研究デザインを用いた.
2. 用語の定義本研究では,ピアサポーターを「ピアサポートの活用を促進するための事業者向けガイドライン」(社会福祉法人豊芯会,2018)を参考に「自らも精神障害や精神疾患等の経験をもち,それらの経験を活かしながら,対人援助の現場等で働き,障害や疾病等の中にある仲間(ピア)のために支援やサービスを提供する者」とした.
3. 研究参加者障害者総合支援法の相談支援事業に携わるピアサポーターとして,1年以上雇用されている者を対象とした.
対象者の選定は,精神保健医療福祉領域のピアサポート活用を推進する専門職から紹介を受けた事業所管理者の推薦,及び研究参加者から紹介を受ける機縁法で行った.研究参加依頼は,候補者に文書及び口頭で行い研究参加への同意が得られたピアサポーターを対象とした.
4. データ収集方法研究参加者に対し,インタビューガイドを用いた半構造化面接を行った.面接は1人60分程度とし,研究参加者の希望に合わせた時間と場所とした.面接内容は,研究参加者の了解を得てICレコーダーに録音した.面接では,ピアサポーターとして活動するきっかけや経緯,業務内容,ピアサポーターの活動の中でやりがいや喜びを感じること,大切にしていること,辛かったこと,困難を乗り越えるために行ったこと,必要なサポートや望ましい職場環境について,自由に語ってもらった.
研究参加者の基本属性を把握するため,面接開始前に,性別,年代,基礎疾患,ピアサポーターの活動年数,相談支援事業に携わっている年数,雇用形態について基本属性シートに記入してもらった.データ収集期間は,2021年8月から10月であった.
5. データ分析方法研究参加者が語った面接内容から逐語録を作成し,文脈の意味内容について繰り返し読み込んだ.次に,ピアサポーターが経験する困難と,ピアサポーターの活動を支える要因に着目して,文脈の意味内容ごとに区切った上で意味づけコード化し,各コードの相違点や類似点について比較検討し類似しているものをまとめ,共通して内在する意味を抽出しサブカテゴリー,カテゴリーとした.その際,ピアサポーターの特徴的な語りに着目し,データから離れないよう注意し意味づけした.分析の際は,信用性を確保するため質的研究に精通した研究者のスーパーバイズを受けながら行った.また,研究参加者の理解を深め分析の質を高めるため,ピアサポーターに関する勉強会やピアサポーターと専門職で行う事例検討会に参加した.
6. 倫理的配慮研究参加者へ,文書と口頭にて研究目的と方法,研究参加は自由意思であり同意撤回が可能であること,プライバシーの保護,個人情報の保護,得られた情報を本研究以外の目的で使用しないこと,研究に関する情報公開の方法,利益相反について説明し書面で同意を得た.面接内容は,研究参加者の許可を得た上で録音した.なお,本研究は,国際医療福祉大学倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:20-Ig-170,2021年5月18日).
研究参加者は,関東圏域の事業所7か所に所属する9名(男性7名,女性2名)であり,年代は40代から50代であった.ピアサポーターがもつ精神疾患は,統合失調症が4名,その他,うつ病,不安障害等であった.ピアサポーターの活動年数は,平均8.5(1.5~13.7)年であり,相談支援事業に携わっている年数は平均6.0(1.5~13.0)年であった.常勤が7名,非常勤が2名であり,相談支援事業所に所属している者が6名,地域活動支援センター等に所属しながら法人内の相談支援事業所と連携している者が3名であった.ピアサポーターとして現職場に雇用される前に,利用者として支援を受ける立場で所属していた者は3名いた.
2. 相談支援事業に携わる精神障害をもつピアサポーターが経験する困難とピアサポーターの活動を支える要因 1) ピアサポーターが経験する困難ピアサポーターが経験する困難について,38コードから11のサブカテゴリー,4つのカテゴリーが生成された(表1).以下,カテゴリーは【 】,サブカテゴリーは『 』,コードは《 》,研究参加者の語りは斜字体「 」で表記した.また,相談支援事業に携わる精神障害をもつピアサポーターをピアサポーターと表記した.
ピアサポーターが経験する困難
カテゴリー | サブカテゴリー | コード |
---|---|---|
支援者としての力不足を感じる | ピアサポーターとしての経験や紡ぐ言葉が足りず支援に苦悩する | 当事者ならではの言葉や感覚を専門職に理解できるように伝えることが難しい |
利用者が抱く苦悩が分かるからこそ利用者に発する言葉を紡ぐことが難しい | ||
実年齢と比較して社会人経験が少ない | ||
不慣れな業務や分からない専門用語が飛び交う環境に戸惑う | ||
求められずとも助言したくなる思いにかられる | ||
相談支援ならではの難しさや負担を感じる | 利用者の人生を背負う感覚がある | |
精神症状が重い利用者の場合が多く関係構築が難しい | ||
精神疾患の適切な自己管理が難しい | ピアサポーターが適切な精神科医療と繋がれていないことによって不調となる | |
精神疾患の症状や内服薬の副作用が活動に影響する | ||
当事者である自分がピアサポーターとして活動する自信が持てない | 自他の精神障害者へのイメージに引け目を感じる | 精神障害を抱える自分への自信のなさや不安がある |
精神障害の経験を差し出すことは恥ずかしい | ||
他のピアサポーターと比較される不安がある | ||
困難が生じていることに対し精神障害者だから仕方ないと片付けられてしまうことが怖い | ||
専門職と比較しては劣等感を抱く | 自分と専門職を比較してしまい劣等感を感じる | |
専門職にピアサポーターはできなくて仕方ないと思われている | ||
ピアサポーターが専門職のように支援することが良いと感じる | ||
ピアサポーターの立ち位置が定まらない | 専門職から協働する仲間として扱われていないと感じる | 専門職からピアサポーターを軽視していると感じる対応を受ける |
専門職から過剰な配慮や特別扱いをされる | ||
一部の専門職はピアサポーターを協働する対象と見ていないと感じる | ||
利用者から支援者として認められていないと感じる | 利用者から攻撃的・拒否的な態度を受ける | |
利用者のセルフスティグマによりピアサポートを拒否される | ||
利用者から担当変更の申し出をされる | ||
雇用されていることに対し利用者から妬みや嫉妬を受ける | ||
利用者から資格がないことを指摘される | ||
ピアサポーターの存在意義を自覚できない | 職場でのピアサポーターの必要性を感じられない | |
ピアサポーターの専門性や効果の実感がない | ||
精神疾患に関連する自身の経験が支援に活かされない | ||
職場から解雇される不安がある | ||
利用者や専門職との適切な距離感が分からない | ピアサポーターと利用者との対等性を保つことが難しい | |
利用者と自分を重ね合わせてしまい利用者の経験が他人事と思えなくなり苦しい | ||
ピアサポーターになり利用者や専門職との関係性が変化し居心地の悪さを感じる | ||
利用者の思いと専門職の意向との板挟みになる | ||
相談できる仲間が不足している | ピアサポーター同士の繋がりが希薄である | ピアサポーターの一人職場であり立場的に寂しさがある |
職場のピアサポーター同士の支え合いが少なく団結感がない | ||
ロールモデルになるようなピアサポーターが職場におらず手探りで働く | ||
専門職の支援に疑問を抱き良好な関係性が構築できない | 利用者が望む支援と専門職が行う支援に解離があると感じる | |
専門職に対し批判的になり関係がうまくいかない | ||
専門職の支援に当事者への寄り添いが足りないと感じる |
ピアサポーターという支援者としての力不足や精神疾患の影響によって利用者への支援がうまくいかず,もどかしく感じる体験であった.
ピアサポーターは,ピアサポーターとして働くまで支援した経験がない中で,当事者と専門職の間に立ち《不慣れな業務や分からない専門用語が飛び交う環境に戸惑う》経験をしていた.また,《当事者ならではの言葉や感覚を専門職に理解できるように伝えることが難しい》ことや,《利用者が抱く苦悩が分かるからこそ利用者に発する言葉を紡ぐことが難しい》ことがあり,支援者であり当事者でもあるピアサポーターならではの困難も生じていた.これらのように『ピアサポーターとしての経験や紡ぐ言葉が足りず支援に苦悩する』ことがあった.
「当事者ならではの言葉ってあるんですよ.それを当事者ではない人に伝えるには,自分の中で相手に伝わるように言葉を変えなくちゃいけないんです.そうすると伝えたいことが伝わらないことが多々あるんですよ.」
さらに,相談支援は《利用者の人生を背負う感覚がある》ことや,《精神症状が重い利用者の場合が多く関係構築が難しい》ことから,『相談支援ならではの難しさや負担を感じる』ことがあった.
また,ピアサポーターがもつ《精神疾患の症状や内服薬の副作用が活動に影響する》ことがあった.特に,《ピアサポーターが適切な精神科医療と繋がれていないことによって不調となる》と,仕事に意識が向けられない等の『精神疾患の適切な自己管理が難しい』状況を引き起こし,自己管理能力が不足していることを感じていた.
(2) 【当事者である自分がピアサポーターとして活動する自信が持てない】精神障害を抱え,専門職と同じようにできないことに引け目や劣等感があり,そのような自分がピアサポーターとして活動できるのか自信が持てない状況であった.
これまでの経験から《精神障害を抱える自分への自信のなさや不安がある》ことや,《精神障害の経験を差し出すことは恥ずかしい》と感じる等の『自他の精神障害者へのイメージに引け目を感じる』経験をしていた.
「やっぱり精神障害者に対するイメージってあると思うんですよ.ないとは言えないと思うんです.だから『私なんか…』って言うのは私の中にあることなんです.」
また,ピアサポーターは,ピアサポーターにしかできない支援をしたいという思いを持ちながらも,《ピアサポーターが専門職のように支援することが良いと感じる》ことがあった.さらに,専門職と協働する中で自身の支援能力や知識が足りないことを実感し,『専門職と比較しては劣等感を抱く』経験をしていた.
(3) 【ピアサポーターの立ち位置が定まらない】ピアサポーターの存在意義を感じることができず,職場での自身のポジションや利用者や専門職との距離感が分からず,立ち位置が定まらない体験であった.
協働する《専門職からピアサポーターを軽視していると感じる対応を受ける》ことや,《専門職から過剰な配慮や特別扱いをされる》ことから,『専門職から協働する仲間として扱われていないと感じる』ことがあった.
さらに,ピアサポーターは,利用者との関わりの中で,当事者に支援してほしくないと感じる《利用者から攻撃的・拒否的な態度を受ける》ことや,《利用者から担当変更の申し出をされる》等,『利用者から支援者として認められていないと感じる』経験をしていた.
また,職場でのピアサポーターの役割が明確になっていないことや,携わる業務が限られている等,《職場でのピアサポーターの必要性を感じられない》状況から,ピアサポーターは自分が職場のマスコットのように感じ,支援者としてのアイデンティティを持つことが難しくなっていた.また,利用者支援の中で,《ピアサポーターの専門性や効果の実感がない》ことや,《精神疾患に関連する自身の経験が支援に活かされない》ことから,『ピアサポーターの存在意義を自覚できない』という,職場でのポジションが定まらない困難を抱えていた.
「事業所単位でもピアサポートの必要性とか専門性について価値理解や共有がされていた訳ではないですし,評価されていた訳でもないので.こう言っちゃなんですけど,いずれ法人に解雇されると思っていたんです.」
また,利用者との対等性を重視したい思いがあるが,仕事として利用者と関わるため越えられない一線があり,《ピアサポーターと利用者との対等性を保つことが難しい》と感じていた.一方で,利用者の経験や思いが理解できることにより《利用者と自分を重ね合わせてしまい利用者の経験が他人事と思えなくなり苦しい》気持ちを抱えていた.さらに,自分にとって支援者であった専門職が同僚となり,仲間であった利用者が支援の対象となるため,《ピアサポーターになり利用者や専門職との関係性が変化し居心地の悪さを感じる》ことがあった.ピアサポーターの存在意義を自覚できず,利用者や専門職に対する自身の振る舞いや関わり方が定まらない状況は,ピアサポーターになることによって生じる『利用者や専門職との適切な距離感が分からない』困難となっていた.
(4) 【相談できる仲間が不足している】ピアサポーター同士の繋がりがないことや専門職に対する批判的な思いによって,相談できる仲間が不足している状況であった.
ピアサポーターは,《職場のピアサポーター同士の支え合いが少なく団結感がない》環境や,《ロールモデルになるようなピアサポーターが職場におらず手探りで働く》状況から,『ピアサポーター同士の繋がりが希薄である』と感じていた.
「ピアサポーターとして身近にロールモデルになるような先輩のピアサポーターがいないんですよね.〈中略〉どんな風に働いたらいいのかとか,自分でやりながら自分で学ぶしかなかったです.」
また,ピアサポーターとして働く傍ら,自身が利用者として支援を受ける中で,《利用者が望む支援と専門職が行う支援に解離があると感じる》経験があった.そのため,当事者の思いを言語化したいあまりに,《専門職に対し批判的になり関係がうまくいかない》ことがあった.ピアサポーターはそれらの『専門職の支援に疑問を抱き良好な関係性が構築できない』経験をしていた.
2) ピアサポーターの活動を支える要因ピアサポーターの活動を支える要因について,43コードから11のサブカテゴリー,5つのカテゴリーが生成された(表2).
ピアサポーターの活動を支える要因
カテゴリー | サブカテゴリー | コード |
---|---|---|
支援に力を発揮できるように自己管理する | ピアサポーターの支援能力を高める | ピアサポーターの強みや専門性を高める努力をする |
ピアサポーターも専門職のように制度やサービス等の専門知識をつける努力をする | ||
業務の不明点や不安なことは他職員に自分で説明や相談をする | ||
ピアサポーターの強みや専門性を高める研修等の機会がある | ||
ピアサポーターが制度やサービス等の専門知識を得る研修等の機会がある | ||
ピアサポーターの良好な健康状態を保つ | ピアサポーターが適切な精神科医療を受ける | |
ピアサポーターが利用しているサービスの支援者に相談をする | ||
ピアサポーターの存在意義が認められる環境で働く | 特別扱いをされずピアサポーターと専門職が同等に対応される | ピアサポーターと専門職が対等な扱いである |
ピアサポーターへの過剰な配慮や特別扱いをしない | ||
ピアサポーターへの特別な配慮やサポートは不要である | ||
職場や協働する専門職がピアサポーターの専門性や必要性を示している | 職場でのピアサポーターの役割が明確になっているため所属感を持てる | |
職場や協働する専門職がピアサポーターを専門職の一つと捉えている | ||
周囲からピアサポーターの専門性や強みのフィードバックがある | ||
専門職からピアサポートを必要とされる | ||
専門職と相互理解し支え合う意識を持つ | ピアサポーターと専門職がお互いの強みや専門性を相互理解する場がある | |
ピアサポーターと専門職が支え合い一体感を持って働く | ||
ピアサポーターが専門職の考え方や強みを理解できる | ||
ピアサポーターの個性に合った働き方をする | 職場がピアサポーターの強みや障害等の個別性に合った雇用形態・仕事内容の選択をしている | |
職場がピアサポーターの個性を理解している | ||
ピアサポーターが自身の力を発揮できる働き方を職場に交渉する | ||
ピアサポーターの存在意義を自覚する | ピアサポートの必要性を実感する | 利用者の変化からピアサポートの効果を実感する |
自分の経験が他者の役に立つことに気付く | ||
当事者または専門職の立場に拘らずありのままの自分でいる | 当事者または専門職の立場に拘らない | |
自分らしくありのままの自分で支援をする | ||
ピアサポーターであっても利用者との一定の距離感を持って関わる | ||
ピアサポーターである自分にできる支援をする | 当事者ならではの関わり・支援をする | |
当事者ならではの感覚や利用者の思い・経験が理解できる | ||
当事者であることを働くモチベーションにしている | ||
当事者の言葉にならない思いを言語化する | ||
利用者との対等性を重視して関わる | ||
利用者の立場や考えを大切にして関わる | ||
利用者の生活や人生をイメージして相談支援を行う | ||
利用者が気持ちの切り替えができるように関わる | ||
精神障害者への偏見をなくしたいという思いがある | ||
わかり合える仲間がいる | 職場内・外のピアサポーターや専門職との繋がりがあり相談できる | ピアサポーターの一人職場ではない |
職場内のピアサポーター同士の繋がりや相談関係がある | ||
職場外のピアサポーターの繋がりがある | ||
ピアサポーター同士だから理解し合える感覚や苦悩がある | ||
相談やSOSを発信しやすい職場環境である | ||
休暇が取りやすい職場の雰囲気,体制がある | ||
職場外の人との繋がりがある | ||
利用者との相互作用による癒しの経験を得る | 利用者と関わり自身の心の傷が癒えていく | ピアサポーターの活動をして自身の心の傷が癒えた感覚がある |
自分より大変な境遇で生きる利用者の姿から刺激をもらう |
ピアサポーターが支援に力を発揮できるように自己管理をすることが要因にあった.
ピアサポーターは,利用者を支える職場のチームメンバーとして《ピアサポーターの強みや専門性を高める努力をする》ことや,《ピアサポーターも専門職のように制度やサービス等の専門知識をつける努力をする》ことが必要だと感じていた.そのため,日頃の業務の中で学ぶとともに,職場内・外の《ピアサポーターの強みや専門性を高める研修等の機会がある》ことを望み,『ピアサポーターの支援能力を高める』ことを目指していた.
「当事者だからできないではなくて,当事者でも仕事はする,お給料もらってる以上できないところを自分で気づいて,どうしたらできるか行動することが大事かな.」
また,ピアサポーターの心身の健康状態が悪化すると利用者支援に力が発揮できないため,《ピアサポーターが適切な精神科医療を受ける》ことや,《ピアサポーターが利用しているサービスの支援者に相談をする》ことで,『ピアサポーターの良好な健康状態を保つ』ことの重要性を感じていた.
(2) 【ピアサポーターの存在意義が認められる環境で働く】職場が,ピアサポーターの専門性や必要性を理解し,専門職と同等な立場で適切な対応をする環境が要因としてあった.
ピアサポーターは,自身の障害に応じた配慮は必要だと考えるが,利用者を支えるチームの一員として,《ピアサポーターと専門職が対等な扱いである》ことを重視していた.そのため,『特別扱いをされずピアサポーターと専門職が同等に対応される』ことを望んでいた.
「一人の戦力として見てほしいという思いがあって,そういう意味でもピアだから,病気の当事者だからって特別扱いはしないでほしいなって,すごく思います.」
さらに,《職場でのピアサポーターの役割が明確になっているため所属感を持てる》ことや,《職場や協働する専門職がピアサポーターを専門職の一つと捉えている》ことを実感していた.それらから,『職場や協働する専門職がピアサポーターの専門性や必要性を示している』と感じていた.
また,《ピアサポーターと専門職が支え合い一体感を持って働く》ため,『専門職と相互理解し支え合う意識を持つ』ことの重要性を感じていた.
それとともに,《職場がピアサポーターの強みや障害等の個別性に合った雇用形態・仕事内容の選択をしている》ことや,ピアサポーターの存在意義が認められるように,《ピアサポーターが自身の力を発揮できる働き方を職場に交渉する》という,『ピアサポーターの個性に合った働き方をする』ことが重要だと考えていた.
(3) 【ピアサポーターの存在意義を自覚する】ピアサポーターの必要性を自覚することで当事者,専門職といった立場にこだわらない,ピアサポーターとしての存在意義を自覚することが要因であった.
ピアサポーターは,《利用者の変化からピアサポートの効果を実感する》ことや,《自分の経験が他者の役に立つことに気付く》ことによって『ピアサポートの必要性を実感する』ことができていた.
「20年間引きこもっていた方に関わっていたんですけど,徐々に活動の幅が広がっていったっていうのがあって.それはなんか助けになったんじゃないかな.」
『ピアサポートの必要性を実感する』ことによって,ピアサポーターとして活動する自信を持つことができ,《当事者または専門職の立場に拘らない》で,自分らしい支援をすることに価値を感じていた.それにより,『当事者または専門職の立場に拘らずありのままの自分でいる』ことができていた.
そして,ピアサポーターは,《当事者ならではの感覚や利用者の思い・経験が理解できる》ことや,《当事者の言葉にならない思いを言語化する》等の強みを活かした『ピアサポーターである自分にできる支援をする』ことを信念として持ちながら,ピアサポーターの活動を行っていた.
(4) 【わかり合える仲間がいる】職場や職種を越えた,相談できる仲間の存在が要因にあった.
《相談やSOSを発信しやすい職場環境である》ことにより,ピアサポーターは,活動で生じた疑問や不安,辛い気持ち等を和らげていた.また,《ピアサポーター同士だから理解し合える感覚や苦悩がある》と感じていた.さらに,職場だけではなく利害関係を気にすることなく気持ちの表出ができる職場外の人との繋がりを持ち,『職場内・外のピアサポーターや専門職との繋がりがあり相談できる』ことが重要と考えていた.
「『調子悪い』っていう一言の中に,ある程度,皆,共通のなんか言葉にすればいろいろあると思うんですけど,『調子悪い』で片付けられる心理っていうか.(中略)なんとなく察するような,そういうのがあるんですよ.」
(5) 【利用者との相互作用による癒しの経験を得る】ピアサポーターは利用者を支援するだけでなく,自身も利用者との関わりを通じて心の傷が癒され,支えられている感覚があった.
ピアサポーターは,《自分より大変な境遇で生きる利用者の姿から刺激をもらう》ことや,自身の経験を利用者に語る中で利用者から共感されることで,過去の辛かった経験や,恥ずかしいと感じる思いが薄れ,『利用者と関わり自身の心の傷が癒えていく』感覚を得ていた.
「(利用者から)お話を聞くうちに皆多かれ少なかれ同じような経験してて,私だけじゃないじゃんって.それを何度も何度もしているうちに癒されちゃうというか.」
本研究の相談支援事業に携わる精神障害をもつピアサポーターは,存在意義を自覚できず【ピアサポーターの立ち位置が定まらない】困難を抱えていた.山川ら(2020)は,ピアサポーターは,支援者の役割を担うことと仲間として存在することの不協和を体験していること,それはピアサポーターとして自分を見出す過程を妨げている可能性があることを指摘しており,本研究の結果とも一致している.
また,本研究の【ピアサポーターの立ち位置が定まらない】困難は,ピアサポーターと事業所の間に雇用関係が成立し,雇用関係のもと対価を得た立場で役割を模索していることが困難の一因だと考える.本研究のピアサポーターは,事業所に雇用されている専門職と同じように利用者支援に力を発揮し,対等な関係であることを重んじていた.しかし,支援者として力不足を感じた経験や,専門職からの過剰な配慮や特別扱いを通して,雇用されているピアサポーターの自負心と現実とのギャップが生じ,それが【ピアサポーターの立ち位置が定まらない】困難の一因となっていたと考える.
本研究のピアサポーターは,自らの強みを活かし『ピアサポーターである自分にできる支援をする』ことを信念として持ちながら支援者として活動をしていた.それに加え,障害を持ちながら支援者として活動するため,また,ピアサポーターとしての強みをより発揮・向上させるためには,周囲のサポートや合理的配慮,周囲の理解を必要としていた.それらのピアサポーターへの支援は,ピアサポーターを雇用する事業所や民間団体だけでなく,精神障害者の地域移行・地域定着の推進や地域生活支援の質向上,精神障害者が暮らしやすい地域づくりを担う自治体保健師等も積極的に行っていくことが必要だと考える.
【ピアサポーターの立ち位置が定まらない】困難を軽減するためには,ピアサポーターや協働する専門職を対象とした研修や,ピアサポーター同士またはピアサポーターと専門職が情報共有・意見交換を行う場の活用が考えられる.現在,ピアサポーターの雇用後のトレーニングやスーパービジョンの必要性が論じられている(大島ら,2019)が,一部の民間団体等による実施にとどまり,トレーニングやスーパービジョンの体制が整えられている職場はまだ少ない(西村ら,2019;大島ら,2019).今後,全国的にピアサポーターの雇用の増加が期待されている状況に併せてピアサポーターの支援能力を向上する機会を拡充していく必要がある.また,事業所がピアサポートの価値を十分に理解せず雇用することにより,ピアサポーターと専門職の対等な立場での協働ができない可能性や,ピアサポーターの強みを活かした働き方ができない可能性がある.そのため,ピアサポーターを雇用する職場や協働する専門職に対しても,ピアサポート配置加算の制度の目的やピアサポーターの専門性や強み,それらを発揮できる職場環境の整備について共有する研修等の機会が必要である.これらの機会を拡充することで,ピアサポーターが【支援に力を発揮できるように自己管理する】環境や,【ピアサポーターの存在意義が認められる環境で働く】ことに繋がる.
さらに,ピアサポーター間の情報共有の場や,事例検討会等のピアサポーターと専門職が意見交換する場を設けていくことも重要である.現在,ピアサポーターの雇用が推進されているが,現状として一人職場のピアサポーターが多く,孤立や早期離職を防ぐことや(西村ら,2019),ピアサポーターを孤立させない仕組みづくりの必要性が述べられている(大島ら,2019).職場に留まらず,ピアサポーター同士や専門職と思いや志を共有できる機会をつくりだすことで,【わかり合える仲間がいる】環境や,【ピアサポーターの存在意義が認められる環境で働く】ことに繋がっていく.また,思春期ピアサポーターを育成支援する保健師は,ピアサポーターが自分自身の活動を振り返る場面を意図的に設定していた(畷,2011).情報共有や意見交換する場は,自分自身の活動を振り返る場となり,『ピアサポーターである自分にできる支援をする』こと,すなわち,ピアサポーターの専門性を再考する機会となる.ピアサポーターの専門性とは,リカバリーの経験の構成要素や過程を言語化し,利用者,組織,地域に有効に伝えることと,ピアサポーターの専門研修テキスト(社会福祉法人豊芯会,2021)に記されている.また,専門性の基盤には,「これまでの人生経験と人柄」,「精神障害からのリカバリーの経験」,「雇用契約に基づく労働を提供できること」があり,専門性を発揮するためには,その基盤を理解し,自分にとってピアサポートとは何かということを考える必要があると述べられている.そのため,ピアサポーターたちは情報共有・意見交換等自分にとってのピアサポートを考える機会をもつことで,ピアサポーターの専門性を深化させ確立させる機会となると考える.そして,それはピアサポーターの存在意義の自覚や,専門職と対等な立場での協働を実現させ,継続的な就労や専門性を発揮して働くことへと繋がる.
また,研修や情報共有・意見交換の場の活用の他,ピアサポーターの制度や活動の実際を知る機会をつくる等,ピアサポーターを目指す人が増える情報発信を積極的に行っていくこともピアサポーターの一人職場が多いという課題解決の一助となる.さらに,精神障害にも対応した地域包括ケアシステムを構築するためには,精神障害者に対し身近なところで必要なときにピアサポーター等の様々な立場の者から適切な支援が提供される体制が求められる(厚生労働省,2021).そのため,上記のピアサポーター同士やピアサポーターと専門職を繋ぐ支援だけではなく,ピアサポーターとピアサポートを必要とする人を繋ぐ仕組みづくりも必要である.
2. ピアサポーターと専門職の協働松本ら(2013)は,ピアサポーターによる支援は,自身の経験に裏打ちされたものであり専門職では代替できないことを述べており,ピアサポーターと専門職の協働の必要性を示している.また,ピアサポーターが事業所の他職員に与える効果について,職員が障害を持つ同僚と一緒に働くことで,障害者を尊重し理解が深まる効果を示している(社会福祉法人豊芯会,2019).しかし,本研究のピアサポーターは,『専門職から協働する仲間として扱われていないと感じる』経験をしていた.岩崎(2020)は,専門職は社会の差別や偏見を批判しながら,自らの職場に当事者を職員として迎え入れることに抵抗を抱いたり,無意識のうちに排除するような発言をしている自己矛盾があることを指摘している.また,専門職が,ピアサポーターを協働する仲間と認識しにくい要因には,上記に加え,ピアサポーターが専門職と比較しては劣等感を抱く経験をしたように,専門職と異なり,これまでピアサポーターの専門性が資格や加算等の制度の中で評価がされてこなかったことも要因となっている可能性がある.その点において,ピアサポート配置加算の施行によりピアサポートの専門性が報酬上評価されたことで,今後ピアサポーターの認識や活躍の場の拡大が期待できる.それに伴い,ピアサポーターを雇用する事業所や協働する専門職に対し,ピアサポーターの専門性や強み,それらを発揮できる職場環境の整備の必要性について共有する仕組みづくりが求められる.
ピアサポーターは,精神障害をもつ人々に,専門職による支援では得がたい安心感や自己肯定感をもたらす.そのため,ピアサポーターと専門職は,精神障害をもつ人々を支える仲間として理解し合い,支え合い,互いにエンパワメントしていくことで,精神障害者の地域移行・地域定着や,精神障害者にとって暮らしやすい地域,さらには地域共生社会を実現することができると考える.
3. 研究の限界と今後の課題本研究は,関東圏域で活動するピアサポーターを対象としたが,ピアサポーターの数や,ピアサポーターへの支援体制等,ピアサポーターの置かれている環境が地域によって異なる可能性がある.また,ピアサポーター体制加算が施行されたばかりの研究結果であるため,一定期間運用された後,ピアサポーターと協働する専門職や雇用する職場の認識が変化する可能性があるため,再度同様の研究を行うことが求められる.
ピアサポーターは,自身の存在意義を自覚できず立ち位置の定まらなさを抱えていた.その困難を軽減するためには,活動を支える要因である,支援に力を発揮できるように自己管理することや,ピアサポーターの存在意義が認められる環境で働くこと,わかり合える仲間が必要である.それらは,ピアサポーターの存在意義の自覚や,専門職と対等な立場での協働を実現させ,継続的な就労や専門性を発揮して働くことへと繋がる.
本研究にご協力くださいましたピアサポーターの皆様,事業所職員の皆様,ピアサポーターに関する学びの機会をくださった皆様に心より感謝を申し上げます.
本論文は,国際医療福祉大学課題研究(修士)の一部を加筆修正,日本地域看護学会第25回学術集会に一部を演題発表し修正したものである.本研究に開示すべきCOI状態はない.