目的:依存症とともにある女性の回復支援施設の利用を通した体験を明らかにすることを目的とした.
方法:女性専用の依存症回復支援施設に通う女性9名に半構造化面接を行い,質的記述的に分析した.
結果:依存症とともにある女性は,回復支援施設の利用を通して,《女性の仲間が鏡となり自身の内面を直視する》等の【女性の仲間が鏡となり自己への気づきを得る】体験と《女性同士の仲間と共に自分らしさを取り戻し人生をやり直す》等の【女性のみの安心できる場で支えがあることを実感する】体験により,【一人の女性としての新たな目標が生まれる】体験をしていた.
考察:本研究では,依存症と向き合いながら一人の女性として成長するプロセスに寄り添い,依存症の女性が自身を大切に考え地域において肯定的な支えを実感できるよう,自治体や専門医療機関,回復支援施設等が連携し,継続的に支える重要性が示唆された.
Objective: This study aimed to clarify the experiences of women with addiction attending recovery support facilities.
Methods: Semi-structured interviews were conducted with nine women attending an addiction recovery support facility. The collected data were analyzed qualitatively and descriptively.
Results: By attending recovery support facilities, women with addiction experienced “self-awareness,” through “looking directly at one’s inner self by mirroring female peers” and “realization of being supported in a safe place only for women,” thereby “reclaiming one’s identity and restarting one’s life together with female peers.” These experiences have led to “the emergence of new goals for women.”
Discussion: These results suggest the importance of collaboration and support among local governments, professional medical organizations, and recovery support facilities to accompany the process of personal growth of women confronting addiction, so that women with addiction value themselves and experience positive support within the community.
我が国の精神疾患の総患者数は,2020年に614万人を超え,精神科医療に対する需要は多様化しており(厚生労働省,2023a),依存症患者数は,2016年以降増加傾向である(厚生労働省,2023b).2019年の依存症患者数の内訳は,アルコール依存症の外来患者数は102,086人,入院患者数は28,998人,薬物依存症の外来患者数は13,083人,入院患者数は3,081人,ギャンブル依存症の外来患者数は3,527人,入院患者数は384人と報告されている(厚生労働省,2023b).また,依存症者は性別でみると,男性が多い傾向にあるが,女性の増加も課題となっている(厚生労働省,2023b).依存症対策として「依存症対策総合支援事業」が厚生労働省により推進され,都道府県及び指定都市は,依存症専門医療機関の選定,相談拠点の設置,Serigaya Methamphetamine Relapse Prevention Program(SMRPP)等の依存症の治療や民間団体への活動支援等を実施している(厚生労働省,2017,p. 2).依存症は,適切な治療とその後の支援により回復可能な疾患である一方で,本人やその家族が依存症という認識を持ちにくい特性や,偏見・差別等により適切な治療や相談支援に結びついていないという課題があり,潜在的な患者数と実際の受診者数に乖離があることが指摘されている(厚生労働省,2017,p. 1).したがって,支援者は,依存症の特性を理解した上で,早期に包括的支援に繋げることが重要である.さらに,依存症とともにある人々が生活の質を高め回復状態を維持しながら,その人らしい暮らしができる地域づくりの推進が急務であると考える.
近年我が国では,30代を中心に女性の飲酒率が増加傾向であり,それに伴い若い世代の新規の女性アルコール依存症者(金城ら,2018;山下ら,2015)や薬物依存症者(松本,2020)等の依存症者数の増加が社会的な問題となっている.女性依存症者の特徴として,依存形成が早く,重篤になりやすい傾向があり,摂食障害等の重複障害をもつ者が多い(真栄里ら,2015)が,女性の治療体制が追いついていないという課題が指摘されている(一柳ら,2018).また依存症の女性は,虐待や親の依存症等の生育歴を有する者が多く(山下ら,2015),幼児期における被虐待経験と薬物依存症(一柳ら,2018)や,子へのネグレクト(田中ら,2004)との関連が報告されていることから,同時に複合的な問題を抱えているケースが多いと考えられる.さらに,依存症の女性は,回復過程で役割葛藤を抱えていることが示されており(片丸ら,2008),様々な生きづらさが明らかとなっている.しかし,このような背景に対して,女性の依存症回復支援施設は,男性と比較して全国的に少なく,相談窓口や母子への支援という視点で回復支援が十分ではないことが指摘されており(上岡ら,2003),女性が回復に向けた支援に繋がりにくい要因と考えられる.その一方で,Alcoholics Anonymous(AA)の女性ミーティングによる女性同士の共感と語りの共有の場は,安心して自分を取り戻すことができ,依存症から離れる力を得る場となったと報告があり(河村ら,2015),女性同士の共感の場は,依存症の女性の回復過程に重要であると考えられる.
しかしながら,依存症の女性の回復過程では,子育て時の孤独や家族関係の悪化,トラウマ体験の直面等の報告があり(片丸ら,2008;Yamashita et al., 2022),依存症の女性には,自身の回復と同時に妊娠,出産,子育てといった課題にも取り組まなければならない困難を抱えている人も多いと考えられる.したがって,女性という特性をふまえた,当事者に寄り添った回復支援の確立が必要であると考える.しかし,自助グループや医療機関における女性依存症者の回復過程の特徴や回復資源につながる過程を述べている先行研究はあるが(一柳ら,2018;片丸ら,2008;河村ら,2015;真栄里ら,2015),女性同士の体験による回復プログラムのある回復支援施設において,依存症とともにある女性の回復支援施設の利用を通した体験を明らかにした研究は少ない状況にある.
そこで,本研究は,当事者の語りから,依存症とともにある女性の回復支援施設の利用を通した体験を明らかにし,生涯,依存症と向き合いながら生きる女性たちの思いや生き方への理解を深め,回復状態を維持しながらその人らしい暮らしを支援するための示唆を得ることを目的とした.
質的記述的研究
2. 研究参加者の概要関東圏の女性専用の回復支援施設に通う,通所期間が6ヶ月以上で,自由意思による本人からの同意が文書で取得可能である者を対象とした.ただし,現在通院中の場合は,医師の了承を得られた者とした.通所期間は,薬物依存症者及びアルコール依存症者の断酒・断薬期間が半年以降には生活面のニーズが生まれること(Laudet et al., 2010),対象施設において,回復プログラムの中で再使用せずに5ヶ月経過できれば,6ヶ月から就労支援へ進むことを原則としていたことを根拠に選定基準とした.
3. 研究対象の回復支援施設の概要関東圏の女性専用の回復支援施設に焦点を当て,障害者総合支援法に基づく障害福祉サービス事業所が1施設,自治体が助成する地域活動支援センターが2施設,計3施設とした.これらの施設は,依存症の当事者を主体とするグループミーティングを中心とした活動を行っており,女性のみを受け入れ,施設長及び全職員が女性であった.
4. 用語の定義「回復」とは,依存しない状態にむけて,又はその状態の維持のために自らの生きづらさに気づき,生き方の方向性を変えていくプロセスと定義した(江藤,2003).
5. データ収集方法関東圏の依存症の回復支援施設の中で,事前にフィールドワークにより事業内容を把握し,女性専用の回復支援を担う3施設に対し施設長に了解を得た.研究参加者は,自らの体験を語ることができ自由意思により協力の同意が得られる者を募集し,個別に半構造化面接を実施した.面接はインタビューガイドを基にし,依存症とともにある女性が回復支援施設の利用を通して生じた体験を明らかにするため,施設に通所して感じたこと,継続した通所に繋がっていること,及び自分にとっての回復とは何かとした.インタビュー内容は,研究参加者の承諾を得てICレコーダーに録音した.データ収集期間は2022年4月から8月であった.
6. データ分析方法インタビュー内容は逐語録を作成してデータとし,回復支援施設の利用を通した体験が読み取れる文脈を単位としコードとした.コードは,研究参加者の言葉を可能な限りそのまま使用した.コードの意味内容の類似性と相違性に着目し,比較検討を繰り返しながら,小カテゴリーを生成,中カテゴリー,大カテゴリーへと抽象度を上げた.分析過程では,常に逐語録に戻り分類と命名を吟味し再考した.分析は,真実性と信用性を確保するために,質的研究の経験をもつ研究者のスーパーバイズを受けた.真実性を確保するために,研究参加者に対し,分析結果は自身の経験や周りの人の経験を加味して考えたときに真実を示しているかどうか,対面にてメンバーチェッキングを実施した.
7. 倫理的配慮本研究は,国際医療福祉大学倫理審査委員会の承認を得て実施した(2022年4月11日,承認番号:21-Ig-237-2).研究対象者及び施設長に研究の主旨を説明し,研究の任意性と撤回の自由を伝え同意を得た.データは分析や結果公表の際に個人が特定されないように処理,研究目的以外の閲覧や使用は行わないこととした.インタビューは普段面談に用いる施設内個室でプライバシーに配慮して実施した.インタビューが影響を及ぼす可能性への対応は,事前に医師の了承を得て,身体的・精神的負担の軽減のため,実施中の体調の確認,参加者に合わせて休憩を確保した.
研究参加者は,20代から40代の女性9名であった.回復支援施設への通所期間は,平均2.9年(標準偏差1.9),期間の範囲は8ヶ月~6年11ヶ月であった.依存症の主な種別は,アルコール依存症4名,薬物依存症3名,ギャンブル依存症3名,性依存症1名,買い物依存症1名であり,2種類以上の依存症を併存していた者は3名であった.併存疾患は,摂食障害6名,軽症うつ病及び双極性障害,そして解離性障害が各1名であり,全ての者が他の依存症及び他の精神障害を併存していた.家族構成は,独身者5名,既婚者3名,未婚の母親1名であり,既婚者は夫婦で同居,既婚者以外は施設入所又は独居であった.研究参加者の家族との連絡は,回復プログラムの中で個別に対応されていた.障害福祉サービス事業所に通う参加者は,障害者総合支援法の自立支援給付に必要な情報共有が行政保健師によりされていた.
以下,大カテゴリーは【 】,中カテゴリーは《 》,小カテゴリーは〈 〉で示し,代表的な語りデータは『斜体』で記した.また,斜体内の( )は補足事項を示した.
2. 依存症とともにある女性の回復支援施設の利用を通した体験(表1)依存症とともにある女性は,回復支援施設の利用を通して,【女性の仲間が鏡となり自己への気づきを得る】体験と【女性のみの安心できる場で支えがあることを実感する】体験によって,【一人の女性としての新たな目標が生まれる】体験をしていた.
依存症とともにある女性の回復支援施設の利用を通した体験
大カテゴリー | 中カテゴリー | 小カテゴリー |
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女性の仲間が鏡となり自己への気づきを得る | 自身の存在に関心を向けられありのままでいいと気づく | どんな小さいことでも相談できる存在に出会い安心する |
自分の悩みやありのままの気持ちを人に伝えていいとわかる | ||
自身の存在に関心を向けてくれる施設長や仲間に出会い希望になる | ||
言葉にならない生きづらさを仲間と共感する | ||
女性の仲間が鏡となり自身の内面を直視する | 女性の仲間が鏡となり自分の悪い面を教えてもらう | |
依存を他のものに変え自分をごまかしていると気づく | ||
自身の内面を直視できず紛らわしたり逃げていると気づく | ||
変わるのは自分であると気づく | ||
自分にとって心地よい距離や人数がある | ||
依存症という病気を舐めている自身に気づく | 元々孤立感が強いのにもっと孤立する病気と気づく | |
病気である依存症を舐めていると気づく | ||
依存の必要のない生き方に自分を変えなくてはならないと気づく | 依存の必要のない生き方に自分を変えなくてはならない | |
自分には帰る場所がここしかなく禊の期間である | ||
回復を支えてくれる人を思い薬や酒の再使用を思いとどまる | 一人で薬を使いたくなった時こそ人を頼らなければならない | |
回復を支えてくれる人の顔がよぎり薬を使うことを思いとどまる | ||
信頼できるようになった人や仲間の気持ちを思う | ||
過去を振り返り家族への思いを客観的に捉える | ||
女性のみの安心できる場で支えがあることを実感する | 女性同士の仲間と共に自分らしさを取り戻し人生をやり直す | 家族に甘えたい気持ちを仲間との間で満たす |
仲間と食べる喜び生きる喜びを感じ人間らしく生きる | ||
仲間との活動は生きる糧になり自信がもてる | ||
同じ病気だからこそ仲間と乗り越え喜び合える | ||
本気で向き合ってくれる女性施設長の存在に支えられる | 見守ってくれる女性施設長の存在は病気と向き合う力になる | |
社会に出ていくために安心してチャレンジできる環境をつくってくれる | ||
家族の存在を再認識することで支えと感じる | 家族へありがとうと伝えることができる | |
女性の仲間から家族に対する捉え方を豊かにしてもらえる | ||
真剣に回復のために行動している姿勢によって家族も変わる | ||
自分の問題と家族の問題を分けて考えることで家族との関係性が変わる | ||
一人の女性としての新たな目標が生まれる | 死ぬまで依存症である自分の生き方を変えていく | 死ぬまで依存症なので自分の生き方を変えていく努力をする |
自分を大切にし信頼のおける人へこれからも相談する | 自分の体を振り返ることができ関心を向ける | |
主治医に相談し生活や精神面の改善ができる | ||
自分だけで抱え込まず信頼できる人に相談する | ||
施設の仲間や信頼できる人と繋がり続ける | ||
修了した仲間を目標として新しい仲間の力になる | 修了した仲間を目標や希望にして頑張る | |
恩返しの意味で施設スタッフとして信頼関係を築き仕事を続ける | ||
新しい仲間の手助けをして力になりたい | ||
新しい仲間との出会いの場が引きこもりを防ぎ情緒の安定になる | ||
大事な家族を悲しませないよう再使用せずに居続ける | 結婚した相手の家族を悲しませないように再使用せずに居続ける | |
家族とは居心地がいい関係を保ち安心して過ごせる | ||
人に迷惑をかけず自分の夢を追いかける子どもに育てたい | ||
自分を受け入れてくれる職場で自立して生きられるようになる | 自分を受け入れてくれる場で仕事をして自立する | |
新しい職場でお互いに労い合って仕事が続けられる | ||
経済的に自立して普通に生きられるようになりたい | ||
いつかは一緒に暮らせるパートナーや家族を持ちたい | 結婚は考えられなかったができれば家族を持ちたい | |
精神疾患や依存症をもちながらもいつかはパートナーや家族と一緒に暮らしたい |
依存症とともにある女性は,女性の仲間や施設長と出会い,自身の存在に関心を向けられありのままでいいと気づく体験をしていた.女性同士の仲間と生きづらさを共感する体験を通して,自身の内面を直視するようになり,依存症という病気を軽視している自身に気づいていった.そして,大切な人を思い薬や酒に手を出すことを思いとどまるという【女性の仲間が鏡となり自己への気づきを得る】体験をしていた.さらに,女性の仲間とともに自分らしさを取り戻し人生をやり直し始める機会を得て,女性施設長の支えを実感していた.このような【女性のみの安心できる場で支えがあることを実感する】体験を通して,家族の存在を再認識し家族を支えと感じることができるようになっていった.このような体験により,依存症に向き合い続ける中で,新たな自身の姿として,自立して生きることや再度家族を持ちたいという【一人の女性としての新たな目標が生まれる】体験をしていた.
1) 【女性の仲間が鏡となり自己への気づきを得る】体験【女性の仲間が鏡となり自己への気づきを得る】体験では,施設長や仲間と出会い,《自身の存在に関心を向けられありのままでいいと気づく》ことができ,《女性の仲間が鏡となり自身の内面を直視する》ようになっていった .そして,生死に関わる経験をしてきた《依存症という病気を舐めている自身に気づく》ことができ,《依存の必要のない生き方に自分を変えなくてはならないと気づく》ことが生じていった.これらの体験を通して,《回復を支えてくれる人を思い薬や酒の再使用を思いとどまる》ことができるようになっていった.
《自身の存在に関心を向けられありのままでいいと気づく》体験では,これまでは,自分の不安な気持ちを人に相談できないと考えていたが,施設長に気持ちを伝え安心できたという体験から〈どんな小さいことでも相談できる存在に出会い安心する〉ことに気づいていった.また,施設のルールを守らず失敗した経験を経て〈自分の悩みやありのままの気持ちを人に伝えていいとわかる〉ようになっていった.
『(施設長には)初めてこういうことが嫌だとか話すことができた.自分の気持ちを話していいんだと気づけた.』
そして,自分の進むべき道や方向を示し,〈自身の存在に関心を向けてくれる施設長や仲間に出会い希望になる〉ことを実感していった.
『私の存在に関心を持ち続けてくれることに飢えていた.誰かから愛されたい,関心を持ってくれる人ができた.』
さらに,これまで抱えてきた〈言葉にならない生きづらさを仲間と共感する〉ようになっていった.
『依存よりも以前に,人として埋まらないようなもどかしさを抱えながら生きてきたことに共感できた.』
《女性の仲間が鏡となり自身の内面を直視する》体験では,〈女性の仲間が鏡となり自分の悪い面を教えてもらう〉ことにより,〈依存を他のものに変え自分をごまかしていると気づく〉ことや,〈自身の内面を直視できず紛らわしたり逃げていると気づく〉ことが生じていた.これまで他人と比べたり他人に意識が向き囚われていたが〈変わるのは自分であると気づく〉ことができ,内面を直視していった.
『自分を変えるってそうだなと思う.私が苦手だったり嫌だと思う人を作ってた,ずっと誰かしらに囚われてた.』
そして,〈自分にとって心地よい距離や人数がある〉ことにも気づいていった.
《依存症という病気を舐めている自身に気づく》体験では,これまで多くの人が離れていった過去を振り返り〈元々孤立感が強いのにもっと孤立する病気と気づく〉ようになっていった.
『今ここで使ったら,多分ここにも来れない,AAにも行かないと思うし,孤立していくんだろうな.』
そして,生死に関わる経験をした自身を直視し〈病気である依存症を舐めていると気づく〉ことができていった.
《依存の必要のない生き方に自分を変えなくてはならないと気づく》体験では,酒や薬なしに生きていけなかった過去を振り返り,〈依存の必要のない生き方に自分を変えなくてはならない〉と気づき,自分の居場所は生き方を変えていくこの施設以外ないと〈自分には帰る場所がここしかなく禊の期間である〉ことを受け入れていった.
『他に行くとこもないし,自分がやったことの償いっていうんですかね.懺悔というか禊の期間だからと思って.』
《回復を支えてくれる人を思い薬や酒の再使用を思いとどまる》体験では,施設に通っている意味を考え〈一人で薬を使いたくなった時こそ人を頼らなければならない〉と頼ることができていった.自己を支える存在として〈回復を支えてくれる人の顔がよぎり薬を使うことを思いとどまる〉ことや〈信頼できるようになった人や仲間の気持ちを思う〉ようになっていった.
『一人で決断したら,多分私は(薬を)使っていたと思います.仲間の顔とかよぎりますよね.』
これらの存在に気づき,自己の内面と向き合うことで,これまで家族に対して恨みしかなかったが,再び悲しませるわけにはいかないと〈過去を振り返り家族への思いを客観的に捉える〉ことができるようになっていった.
2) 【女性のみの安心できる場で支えがあることを実感する】体験【女性のみの安心できる場で支えがあることを実感する】体験では,新たな人間関係の中で,《女性同士の仲間と共に自分らしさを取り戻し人生をやり直す》機会を得ていった.そして,《本気で向き合ってくれる女性施設長の存在に支えられる》ことを実感していった.このような場で,真剣に回復のために行動する姿勢によって,家族との関係性にも変化が生じ《家族の存在を再認識することで支えと感じる》ようになっていった.
《女性同士の仲間と共に自分らしさを取り戻し人生をやり直す》体験では,仲間との交流を通し,子どもの頃から得られなかった自身へ関心を向けられ,〈家族に甘えたい気持ちを仲間との間で満たす〉ことを実感していた.
『子どもの頃から一番欲しかったものは,母の関心だった.父のアルコール問題でそれどころじゃなかった.母との関係の中でやりたかったことを(仲間から)もらった.』
そして,〈仲間と食べる喜び生きる喜びを感じ人間らしく生きる〉ことを実感していた.
『野菜を育てた達成感は生きる喜びとなって,今迄なかった病気や酒に向き合い,人間らしさを教えてもらった.』
このように〈仲間との活動は生きる糧になり自信がもてる〉ようになり,〈同じ病気だからこそ仲間と乗り越え喜び合える〉ことだと実感していた.
《本気で向き合ってくれる女性施設長の存在に支えられる》体験では,何度も施設のルール違反をしても見放されることなく〈見守ってくれる女性施設長の存在は病気と向き合う力になる〉ことを実感していた.
『最初は施設長の言うことも私を嫌っているからだろうみたいな,でも施設長さんは泣きながら怒るんです.』
また,〈社会に出ていくために安心してチャレンジできる環境をつくってくれる〉施設長の支えを実感していた.
『施設長さんは,失敗してもいい場所だと繰り返し言って下さるので安心をもらってチャレンジしていける.』
《家族の存在を再認識することで支えと感じる》体験では,回復プログラムを通し,今まで傷つけてきた人への埋め合わせとして,〈家族へありがとうと伝えることができる〉と家族の存在に感謝するようになっていた.また過去の事実は一つだが,〈女性の仲間から家族に対する捉え方を豊かにしてもらえる〉ことが生じていた.家族に理解してもらえない苦しさや自分の存在を認めてもらいたい気持ちが再使用へ向かわせていたが,母として子を支えたい思いや,夫との安心した生活を望み,〈真剣に回復のために行動している姿勢によって家族も変わる〉という実感を経て,〈自分の問題と家族の問題を分けて考えることで家族との関係性が変わる〉ことが生じていた.
『自分の問題と相手の問題を分けることとか,家族は健常者だから解らないことも,仲間や施設長に解ってもらえばいいことを教えてもらい,家族からも歩み寄ってくれて.』
3) 【一人の女性としての新たな目標が生まれる】体験【一人の女性としての新たな目標が生まれる】体験では,依存症に対して,《死ぬまで依存症である自分の生き方を変えていく》,《自分を大切にし信頼のおける人へこれからも相談する》という強い志が生じていた.また,自身の大切な存在に対して,《修了した仲間を目標として新しい仲間の力になる》,《大事な家族を悲しませないよう再使用せずに居続ける》ことを決意していた.そして,新たな自身の姿として,《自分を受け入れてくれる職場で自立して生きられるようになる》,《いつかは一緒に暮らせるパートナーや家族を持ちたい》という願いが生じていた.
《死ぬまで依存症である自分の生き方を変えていく》では,自身の生き方として〈死ぬまで依存症なので自分の生き方を変えていく努力をする〉ことを覚悟していた.
『ずっと死ぬまでアルコール依存症者なので,AAのプログラムをやっていくことが一番大事だと思ってます.』
《自分を大切にし信頼のおける人へこれからも相談する》では,ようやく自身の身体を大切に考え〈自分の体を振り返ることができ関心を向ける〉ようになっていた.
『ようやく振り返るというか自分の体のことが見えるようになって,どうしたらいいんだろうというのが出てくる.』
そして,施設修了後にも〈主治医に相談し生活や精神面の改善ができる〉,〈自分だけで抱え込まず信頼できる人に相談する〉ことを決意していた.
『久しぶりに主治医に会って,(中略)今の問題は200%じゃなくて,気負わないことがいいんだよとか話せて.』
施設修了後も回復状態を維持できるよう,〈施設の仲間や信頼できる人と繋がり続ける〉ことを頼りとしていた.
《修了した仲間を目標として新しい仲間の力になる》では,回復モデルとして〈修了した仲間を目標や希望にして頑張る〉ことや,施設への〈恩返しの意味で施設スタッフとして信頼関係を築き仕事を続ける〉,〈新しい仲間の手助けをして力になりたい〉という思いが募っていた.
『このプログラムで回復させてもらったので,お酒を辞めたいと思っている人の力になることがあればやりたい.』
そして,このような〈新しい仲間との出会いの場が引きこもりを防ぎ情緒の安定になる〉ことを心に抱いていた.
《大事な家族を悲しませないよう再使用せずに居続ける》では,家族の存在を再認識し,過去の自分に戻るわけにはいかないと〈結婚した相手の家族を悲しませないように再使用せずに居続ける〉ことが大切と心に決めた.
『結婚相手の家族に初めて会って,ギャンブルしたらこの人たちも悲しませちゃうんだ,大事なものができた.』
〈家族とは居心地がいい関係を保ち安心して過ごせる〉ことや,〈人に迷惑をかけず自分の夢を追いかける子どもに育てたい〉ことを望んでいた.
《自分を受け入れてくれる職場で自立して生きられるようになる》では,女性としてこうありたいと願う姿として,これまでは自分の病気や気持ちを理解されないと考え周囲へ伝えられずにいたが,〈自分を受け入れてくれる場で仕事をして自立する〉ことや,〈新しい職場でお互いに労い合って仕事が続けられる〉,〈経済的に自立して普通に生きられるようになりたい〉という志を抱いていた.
『親にも安心してもらえるような生活,今の職場で頑張って,お疲れ様じゃないですけど言い合えるというか.』
《いつかは一緒に暮らせるパートナーや家族を持ちたい》では,親の依存症や家族との間に問題を抱えていたが,施設の体験を得て〈結婚は考えられなかったができれば家族を持ちたい〉,〈精神疾患や依存症を持ちながらもいつかはパートナーや家族と一緒に暮らしたい〉という願いが生じていった.
『精神の障害だし,思いやりもなかった.でもいつか恋愛をしてみたいな,一緒に住んでみたいとか,希望します.』
本研究では,依存症の女性は,施設長や仲間から自身の存在に関心を向けられ,ありのままの自身を受容される体験を通して安心感を得ていた.また仲間との鏡映関係を通して,これまでは自分をごまかし逃げていたが,変わるのは自分であると気づき,自己の内面を直視していった.松下(2002)は,自らの病気と出会うことにより自己と対峙し,自己のあり方を問い,真の自己に向かっていくと述べている.本研究の女性も,自己の内面を直視し,孤立の原因となった依存症という病気を認識し,依存を必要としない生き方に向き合っていったと考えられた.そして,薬や酒の再使用を思いとどまる気持ちをもたらす,自己を支える存在にも気づいていった.また仲間と共に生きづらさや抱えてきた体験の共有を得て,心の苦しみや孤立感が軽減したと考えられた.山下ら(2018)は,同じ体験を抱える仲間との共有化はアルコール依存症者のリカバリーの要因となると述べ,Yalom et al.(1985)は,集団療法の効果をもたらす因子として,自分の問題が自分一人のものでなく,他のメンバーと分かち合えるものであるという気づきは安堵感を得る体験と述べている.本研究でも,同じ依存症を抱える女性同士の分かち合いの効果として,相互に生きづらさを共感し孤独感が軽減し,安堵感が生まれ,自己の内面に向き合う力を得ていたと考えられた.さらに,新たな人間関係の中で自分にとって心地よい距離や人数があることに気づいていった.上岡ら(2010)は,女性の薬物依存症者の回復過程の困難さとして,対人関係における安定した距離の取り方がわからないことを述べている.依存症の女性は,新たな対人関係を構築しながら,人との適切な距離の取り方を学んでいったのではないかと考えられた.
【女性の仲間が鏡となり自己への気づきを得る】体験は,女性がありのままを受容され,同じ依存症を抱える女性の仲間との相互交流を通して生じた,自己の内面に向き合う力を共に育む重要な体験であったと考えられた.
2) 【女性のみの安心できる場で支えがあることを実感する】体験本研究では,依存症の女性は,新たな人間関係の中で,家族に甘えたい気持ちを仲間との間で満たし,仲間と共に自分らしさを取り戻し人生をやり直す体験をしていた.そして,仲間との活動から自信が生まれ,女性施設長から本気で向き合ってもらう体験を通し,回復へ向かう力が生まれていた.河村ら(2015)は,女性AAミーティングは,依存症から離れる力を得る場となり,女性同士の共感と語りの共有の場であったと述べ,Rogers(1956)は,無条件の肯定的配慮はひとりの人間として好意と尊重を寄せられているという安全感をもたらすと述べている.本研究においても,女性同士の共感と肯定的な配慮により,回復過程にポジティブな力が生まれ,自己否定から抜け出し,自分を肯定的に見る機会に繋がったと考えられた.さらに,依存症の女性は,夫に理解してもらえない苦しさや自分の存在を認めてもらいたい気持ちが再使用へ向かわせていた.しかし,夫との安心した生活への望みが動機となり,自分の問題と家族の問題を分けて考えることで,家族との関係性が変化していた.そして,家族からも歩み寄るという相互関係が生じていた.また母親として子を支えたいという思いが動機となり,回復のために行動する姿勢により,家族にも変化が生じ,これまで担うことができなかった母として子を支えるという役割が生まれていた.片丸ら(2008)は,回復過程での妻や母親としての役割葛藤は,再飲酒の危険性を高める一方で,断酒の動機にもなると述べている.本研究でも,妻や母親としての役割葛藤や自己受容できないことは,再使用の要因となっていた.しかし,家族との安心できる生活への望みは回復の動機となり,家族との関係性が変化し新たな役割が生まれる体験であったと考えられた.また依存症の女性は,家族との間で問題を抱えてきたが,家族の捉え方が豊かになることにより,家族に対して,過去の事実は変えられないが感謝を伝えることができていた.Subhani et al.(2022)は,依存症の回復過程では大切な人との関係の形成や修復が回復を促すと述べており,本研究では家族の存在が,依存症を誘発する要因から依存症回復のための強力な資源へと変化していく重要な体験であったと考えられた.
【女性のみの安心できる場で支えがあることを実感する】体験は,肯定的な配慮を得ながら,自身を肯定的に受容できるようになる過程であり,このような自身の変化は家族との関係性にも変化を生み,家族の支えがあることを実感するという体験を生じたと考えられた.本研究では,仲間や支援者,家族との関係性を構築しながら,肯定的な支えを実感することの重要性が示唆された.
3) 【一人の女性としての新たな目標が生まれる】体験依存症とともにある女性は,死ぬまで依存症である故に,生き方を変えていくしかないと覚悟し,自立すること,いつか家族をもつことを願っていた.江藤(2003)は,回復とは,依存しない状態にむけて,またその状態の維持のために自らの生きづらさに気づき,生き方の方向性を変えていく成長プロセスであると述べている.これらより,女性の回復支援施設は,依存症の女性が肯定的な配慮を基盤に自己への気づきを得て自身を取り戻し,新たな自己が生まれる回復のプロセスに重要な役割をもつ場であったと考えられた.
2. 公衆衛生看護実践への示唆地域で生活することは,依存しない状態を維持するために自らの生き方に向き合い続けることを余儀なくされる.支援者は,依存症の女性が地域での生活を再開した時に,新たな生き方の目標を持ち続けられるよう,依存症の女性の回復の困難さを理解し,回復の動機となった思いに寄り添うことが重要である.さらに,女性が仲間と共感する場や信頼できる人と繋がりながら,自己を肯定的に受容し,心の支えを実感できるよう関わる重要性が示された.
また,本研究の依存症の女性は,家族への捉え方が豊かになり,家族からも女性を理解し歩み寄ることが生じていた.支援者は,女性が回復過程で家族と相互に関係性を再構築できるよう支えることが重要である.さらに,家族を尊重し支え,家族の存在が依存症回復の強力な資源となるような支援の重要性が示された.行政保健師は,地区活動の中で依存症者に出会う可能性がある身近な支援者であり,蔭山ら(2013)は,精神障害を持つ母親への支援として,ライフステージの中で一人の女性として健康的な側面を支援する視点の重要性を述べている.支援者は,一人の女性として成長するプロセスに寄り添い,女性の回復過程の特徴を考慮し,地域において肯定的な支えを実感できるよう自治体や主治医等の専門医療機関,回復支援施設等が連携し,継続的に支える重要性が示された.
本研究の依存症の女性は,自分を受け入れてくれる場で自立して生きようとする強い志を抱いていた.しかし,女性は,自身の病気や気持ちを社会や職場に理解されないと考え,伝えられずにいた.このような自らの病気に対するスティグマ故に,自分らしく生活することや相談に繋がりにくいという課題があった.熊谷(2020)は,自己スティグマは,周囲に助けを求められるほど自分には価値がないと援助希求行動に繋がらないことを述べている.支援者は,女性が自らの病気を受容し自分らしく生活できるよう自立への思いに寄り添い,今在る自身の存在意義を見いだせるよう,自尊心を支える支援が重要である.そのことにより,女性が自ら他者を信頼し相談でき,生きる力を育み,社会への理解を得るための発信に繋げていくことが重要であると示唆された.
3. 本研究の限界と今後の課題本研究は,関東圏3施設を対象としており,依存症の種別に関わらず女性のみを受け入れ,全職員が女性である回復支援施設で,女性同士の相互交流により生じた体験である.通所期間は幅広い期間であるため,回復段階に差が生じている可能性が考えられる.今後は,依存症の種別及び通所期間を考慮し,対象地域を広げた回復支援施設の利用の体験の内容を明らかにすることが求められる.また,女性依存症者の回復の促進要因を明らかにした支援方法では,自己承認及びロールモデルとの出会い,そして,過去のトラウマ体験へのケアの必要性が示されている(Yamashita et al.,2022).本研究の女性も,過去に複雑な体験や生きづらさを抱えていたが,女性同士の共感と肯定的な配慮により,自己を肯定的に受容し,回復プロセスが生じる体験が明らかとなった.今後は女性のライフステージを考慮した複雑な課題を抱えた女性への支援方法を探求する必要があると考える.
本研究にご協力頂いた研究参加者の皆様,回復支援施設の職員の方々と施設長様に深く感謝申し上げます.本稿は,国際医療福祉大学大学院医療福祉学研究科修士課程に提出した課題研究論文に一部加筆し修正を加えたものである.第82回日本公衆衛生学会総会で一部を発表した.本研究における利益相反は存在しない.