日本公衆衛生看護学会誌
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研究
脂肪肝有所見男性と非有所見男性の比較
―職域の定期健康診断の結果から―
伊澤 貴美子呉 珠響斉藤 恵美子
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2015 年 4 巻 2 号 p. 112-120

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Abstract

目的:本研究は,職域の定期健康診断の腹部超音波検査による脂肪肝有所見男性と非有所見男性の検査値,自覚症状,生活習慣等を比較し,脂肪肝有所見男性の特徴を明らかにすることを目的とした.

方法:都内の一事業所の定期健康診断で腹部超音波検査を受けた男性216人を対象に,脂肪肝有所見者群(114人)と非有所見者群(102人)の2群間で検査値と生活習慣等を比較した.

結果:脂肪肝有所見者群は非有所見者群と比較して,BMI,腹囲,血液検査の有所見の人の割合が統計的に有意に多く,20歳からの体重増減を自覚している人の割合が有意に多く,1回30分週2回以上の運動を1年以上実施している人の割合が有意に少なかった.また,脂肪肝有所見者群の中で特定保健指導の情報提供対象者は31人(31.6%)であった.

考察:脂肪肝有所見者への保健指導として,健診結果の検査値を対象者と確認すること,対象者が生活の中で運動習慣を身につけることを支援することの重要性が示唆された.また,特定保健指導の情報提供対象者についても,脂肪肝有所見の場合には個別や集団での保健指導の必要性が示唆された.

I. はじめに

職域で実施されている定期健康診断(以下,定期健診とする)は,労働安全衛生規則第44条により「常時使用する労働者について,1年以内ごとに1回実施」と定められており,労働者の健康管理のために,最も重要な事項の一つである.定期健診有所見率の過去10年間の推移は,1999年の43.0%から,2008年の51.0%に増加している(厚生労働省,2010).また,2008年4月からメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)に着目した特定健康診査(以下,特定健診)と特定保健指導が開始された.特定健診・特定保健指導の実施状況(厚生労働省,2013)は,特定健診実施率45.0%,特定保健指導の対象者になった者の割合17.8%,特定保健指導を終了した者の割合15.9%と,いずれも低い傾向であった.特定保健指導対象者は,積極的支援,動機付け支援,情報提供の3種類に区分されている.情報提供としての支援はリーフレットの配布のみでよいことになっているが,その対象者の中には,血糖,脂質,血圧の検査値が正常範囲外の対象者も混在しており,保健指導対象者の選定については課題があるという見解もある(大塚ら,2011).

定期健診や特定健診で定められている検査項目以外に,職域では,腹部超音波検査等の検査項目を独自に追加している場合もある.腹部超音波検査は,がんの早期発見の目的で実施されているが,脂肪肝の有所見が多いことが報告されている(岡上ら,2006).脂肪肝の定義は,全ての肝小葉の1/3以上の領域にわたって肝細胞に著明な脂肪滴の蓄積性変化がみられ,その他に顕著な形態学的異常を認めないものとされている(日本消化器病学会,1979).脂肪肝は脂肪が肝臓に蓄積した状態であり,メタボリックシンドロームの肝臓の表現型とも報告されている(岡上ら,2006高木ら,2010).

健康診断での脂肪肝の有所見率は,25~30%で,経年的にも増加傾向にあることが報告されている(高木ら,2010).特に男性に多く,女性は閉経以降に増加するが,男性では30~40歳代の壮年期,働き盛りの年齢に多い(岡上ら,2006佐藤ら,2006).また,職域では,脂肪肝は肝機能障害の中で最も高頻度にみられる疾患であることが報告されている(伊藤ら,2007).

これまで,脂肪肝は良性の肝疾患として放置されることが多かったが,非アルコール性脂肪肝(Non-Alcoholic Fatty Liver Disease,以下NAFLDとする)の中に,肝硬変,肝がんに進行する非アルコール性脂肪性肝炎(Non-Alcoholic Steatohepatitis,以下NASHとする)の発症が関連している場合があることが明らかとなり,継続した治療の必要性があることで注目されている(佐藤ら,2006).NASHは,NAFLDと比較して,メタボリックシンドローム合併頻度が高く,空腹時高血糖,高血圧,高脂血症の全ての診断基準を満たす者の頻度も高いという報告がある(内田ら,2008).さらに,脂肪肝は,生活習慣病(宮下ら,2006)や複数の生活習慣病を合併した状態であるメタボリックシンドローム(石井ら,2009武田ら,2009内田ら,2008渡辺ら,2007)との関連や,これらに関係する肥満(松崎,2007宮川ら,2010)や耐糖能異常(宮川ら,2010)との関連についても報告されている.加えて,勤労者を対象とした肥満と生活習慣,メタボリックシンドロームと脂肪肝の関連についての研究は散見するが,脂肪肝有所見者の生活習慣の実態に関する研究はほとんどない.

以上のことより,腹部超音波検査を実施している職域での脂肪肝有所見者の健診結果や生活習慣の把握,また保健指導の充実が必要と考える.そこで,本研究は,職域の定期健康診断の腹部超音波検査による脂肪肝有所見男性と非有所見男性の検査値,自覚症状,生活習慣等を比較し,脂肪肝有所見男性の特徴を明らかにすることを目的とした.

II. 研究方法

1. 調査方法

調査対象は,都内の一事業所の定期健診で腹部超音波検査の受診対象者のうち,全男性216人のデータとした.対象とした事業所では,年1回の定期健診時には独自に,35歳以上の従業員に腹部超音波検査を実施している.この事業所は,都内の電機関連企業の本社であり,従業員数は約400人,その男女比は6対1であった.また,従業員は事務職,営業職,管理職が中心である.この事業所で2011年9月から12月に実施された調査対象者の定期健診のデータを,2012年10月~11月に収集した.

2. 調査項目

1) 対象者の属性

対象者の属性の調査項目は,年齢,職種,勤務形態,服薬(血圧,脂質,糖尿病)の有無,既往歴とした.

2) 定期健診の検査値と腹部超音波検査結果

項目は,身長,体重,Body Mass Index(以下,BMIとする),腹囲,最高血圧,最低血圧,総コレステロール(以下,TCとする),中性脂肪(以下,TGとする),HDLコレステロール(以下,HDL-Cとする),LDLコレステロール(以下,LDL-Cとする),グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(以下,GOTとする),グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(以下,GPTとする),γグルタミルトランスペプチダーゼ(以下,γ-GTPとする),空腹時血糖(以下,FBSとする),ヘモグロビンA1c(以下,HbA1cとする)の検査値15項目と,腹部超音波検査結果とした.各検査項目の正常範囲は,健康診査実施機関の基準に基づいて判断し,正常範囲外の場合を有所見とした.また,40歳以上の特定保健指導の対象者の選定については,厚生労働省が示している判定基準により,積極的支援,動機付け支援,情報提供とした.

3) 自覚症状と生活習慣

事業所の定期健診自記式問診票から,対象者の自覚症状と生活習慣を調査項目とした.

自覚症状については,体重の変化に関する3項目とした.生活習慣については,食生活(10項目),喫煙(3項目),飲酒,休養・睡眠(2項目),運動(3項目),生活習慣の改善意向,保健指導利用の意思の計21項目とした.

3. 分析方法

脂肪肝の有所見者群と非有所見者群の2群に分類し,定期健診の検査値と自覚症状,生活習慣の項目について比較した.2群間の比較では,連続変数はStudent’s t検定,名義変数はχ2検定,またはFisherの正確確率検定を行った.分析には,統計パッケージSPSS Statistics version 19Jを用い,有意水準は5%とした.

4. 倫理的配慮

研究者が事業所の総務課長,および社長への研究協力の同意を得て,事業所の「従業員健康情報使用基準」に従って,事業所内の手続きを行った.定期健診の検査値や問診票からのデータについては,個人が特定できないデータとして使用することとし,事業所内の労働安全衛生委員会の了承を得た.また,得られた結果は,今後の事業所内の保健指導に役立てることを担当課に説明した.従業員の定期健診の検査値と問診票の項目は,個人が特定できない連結不可能匿名化データとして,事業所から受け取った.データは全て記号化して電子データとして保存し,検査項目名等が特定されないように配慮した.なお,本研究は,平成24年度首都大学東京荒川キャンパス研究安全倫理委員会(受理番号12040,承認日2012年8月28日)の承認を得て実施した.

III. 結果

1. 対象者の特徴について

対象者の属性と定期健診の検査値について,表1,表2に示す.対象者の平均年齢は47.7歳(標準偏差7.4)であった.職種は,営業職・販売職が64人(29.6%)と最も多く,事務職60人(27.8%),管理職は58人(26.9%)であった.服薬は血圧が36人(16.7%)と最も多かった.既往歴は心臓病が6人(2.8%)と最も多かった.

腹部超音波検査による脂肪肝有所見者は,114人(52.8%)であり,そのうち,脂肪肝のみの有所見者は30人(13.9%),脂肪肝とその他の有所見は84人(38.9%)であった.その他の有所見には,腹部超音波検査結果として腎臓,肝臓,胆のう,膵臓,脾臓の有所見が含まれていた.脂肪肝非有所見者は102人(47.2%)であり,そのうち,腹部超音波検査で異常なしは38人(17.6%)とその他の有所見64人(29.6%)であった.また,40歳以上(181人)の特定保健指導の階層化の区分では,情報提供95人(52.5%)が最も多かった.

表1  対象者の属性(N=216)
項目 %
年齢(歳) 平均年齢 47.7(標準偏差7.4) (範囲35–64)
年代 35~39 35 16.2
40~44 48 22.2
45~49 45 20.8
50~54 41 19.0
55~59 35 16.2
60~64 12 5.6
職種 営業職・販売職 64 29.6
事務職 60 27.8
管理職 58 26.9
専門職・技能職 33 15.3
保安員・警備 1 0.5
勤務形態 日勤のみ 207 95.8
日勤と夜勤 2 0.9
無回答 7 3.2
服薬 血圧 あり 36 16.7
脂質 あり 14 6.5
血糖 あり 8 3.7
既往歴 心臓病 6 2.8
脳卒中 3 1.4
貧血 3 1.4
肝臓病 2 0.9
その他 68 31.5
表2  対象者の定期健診検査値有所見者の割合(N=216)
項目 基準値 %
BMI <25.0 78 36.1
腹囲(cm) <85.0 115 53.2
最高血圧(mmHg) ≦​140 30 13.9
最低血圧(mmHg) ≦​90 24 11.1
TC(mg/dl) 130–219 65 30.1
TG(mg/dl) 51–150 70 32.4
HDL-C(mg/dl) 40–99 11 5.1
GOT(IU/l) 0–35 21 9.7
GPT(IU/l) 7–40 42 19.4
γ-GTP(IU/l) 0–55 31 14.4
FBS(mg/dl) 60–109 29 13.4
HbA1c(%) 0.0–5.8 17 7.9
脂肪肝有所見 114 52.8
 脂肪肝のみ 30 13.9
 脂肪肝と他有所見 84 38.9
脂肪肝非有所見 102 47.2
 異常なし 38 17.6
 他有所見 64 29.6
特定保健指導の階層化1)(n=181)
 積極的支援 74 40.9
 動機付け支援 12 6.6
 情報提供 95 52.5

1)特定保健指導の階層化の人数は,40歳以上のため181人で算出

2. 脂肪肝有所見者群と非有所見者群の比較

脂肪肝有所見者群と非有所見者群の2群で,定期健診の検査値と生活習慣等を比較した結果を表3-13-23-3に示す.検査値の有所見者数の比較では,脂肪肝有所見者群の方が脂肪肝非有所見者群に比較して,BMI 25.0以上(<0.001),腹囲85.0cm以上(<0.001),TG(<0.001),HDL-C(p=0.048),GOT(p=0.006),GPT(<0.001),γ-GTP(p=0.010),FBS(<0.001),HbA1c(p=0.011)の有所見の人の割合が統計的に有意に多かった.また,40歳以上(181人)での特定保健指導の階層化では,脂肪肝有所見者群の方が脂肪肝非有所見者群と比較して,積極的支援(58.2%)と動機付け支援(10.2%)の人の割合が統計的に有意に多く,情報提供(31.6%)の人の割合が有意に少なかった(<0.001).

自覚症状の項目では,脂肪肝有所見者群の方が脂肪肝非有所見者群と比較して,20歳からの体重増減あり(<0.001)と1年間で体重3㎏増加(p=0.007)と回答した人の割合が統計的に有意に多かった.

生活習慣の項目では,脂肪肝有所見者群の方が脂肪肝非有所見者群と比較して,「1回30分週2回以上の運動を,1年以上実施しているか」に「はい」と回答した人の割合が有意に少なかった(p=0.002).

なお,脂肪肝有所見者群の中には脂肪肝だけでなく,他の有所見者も含まれており,脂肪肝非有所見者群にも他の有所見者が含まれていたため,それぞれを除外した分析を行ったが,除外せずに分析した結果と同様の結果であった.

表3-1  脂肪肝有所見者群と非有所見者群の比較(N=216)
項目 有所見者群 N=114 非有所見者群 N=102 P値1)
年齢(歳) (人,%) 35~39 16 14.0 19 18.6 0.122
40~44 29 25.4 19 18.6
45~49 17 14.9 28 27.5
50~54 26 22.8 15 14.7
55~59 18 15.8 17 16.7
60~64 8 7.0 4 3.9
平均年齢(平均値,標準偏差) 48.1(7.5)  47.4(7.3)  0.477
職種2) (人,%) 専門職・技術職 19 16.7 14 13.7 0.355
管理職 35 30.7 23 22.5
事務職 30 26.3 30 29.4
営業職・販売職 29 25.4 35 34.3
検査値(有所見者の割合)(人,%)
 BMI 25.0以上 60 52.6 18 17.6 <0.001
 腹囲85.0 cm以上 83 72.8 32 31.4 <0.001
 最高血圧 ≦140(mmHg) 18 15.8 12 11.8 0.393
 最低血圧 ≦90(mmHg) 17 14.9 7 6.9 0.060
 TC 130–219(mg/dl) 36 31.6 29 28.4 0.615
 TG 51–150(mg/dl) 51 44.7 19 18.6 <0.001
 HDL-C 40–99(mg/dl) 9 7.9 2 2.0 0.048
 GOT 0–35(IU/l) 17 14.9 4 3.9 0.006
 GPT 7–40(IU/l) 38 33.3 4 3.9 <0.001
 γ-GTP 0–55(IU/l) 23 20.2 8 7.8 0.010
 FBS 60–109(mg/dl) 27 23.7 2 2.0 <0.001
 HbA1c 0.0–5.8(%) 14 12.3 3 2.9 0.011
特定保健指導の階層化(n=181)3)
 積極的支援 57 58.2 17 20.5 <0.001
 動機付け支援 10 10.2 2 2.4
 情報提供 31 31.6 64 77.1

1)χ2検定,Fisherの正確確率検定,t検定 2)非該当(n=1)は分析から除外 3)40歳以上のため181人で算出

表3-2  脂肪肝有所見者群と非有所見者群の比較(つづき)(N=216)
項目 有所見者群 N=114 非有所見者群 N=102 P値1)
服薬(人,%)
 血圧 あり 24 21.1 12 11.8 0.067
なし 90 78.9 90 88.2
 脂質 あり 9 7.9 5 4.9 0.372
なし 105 92.1 97 95.1
 血糖 あり 7 6.1 1 1.0 0.069
なし 107 93.9 101 99.0
既往歴(人,%)
 心臓病 あり 1 0.9 5 4.9 0.103
なし 113 99.1 97 95.1
 脳卒中 あり 2 1.8 1 1.0 1.000
なし 112 98.2 101 99.0
 貧血 あり 0 0 3 2.9 0,104
なし 114 100 99 97.1
 肝臓病 あり 1 0.9 1 1.0 1.000
なし 113 99.1 101 99.0
 その他 あり 38 33.3 30 27.8 0.536
なし 76 66.6 72 70.5
自覚症状(人,%)
 20歳からの体重の増減 あり 78 68.4 30 29.4 <0.001
なし 36 31.6 72 70.6
 1年間で体重3㎏増加 あり 27 23.7 10 9.8 0.007
なし 87 76.3 92 90.2
 減量せず体重3㎏減少2) あり 1 0.9 5 4.9 0.104
なし 111 97.4 96 94.1
生活習慣(人,%)
 朝食を抜く(週3回以上)3) はい 30 26.3 21 20.6 0.342
いいえ 84 73.7 80 79.2
 遅い夕食(就寝前2時間以内) はい 69 60.5 55 53.9 0.327
いいえ 45 39.5 47 46.1
 夕食後の間食(週3回以上)4) はい 14 12.3 10 9.8 0.643
いいえ 100 87.7 88 86.3
 塩分を控えている いいえ 24 21.1 20 19.6 0.792
どちらでもない,はい 90 77.9 82 80.4

1)χ2検定,Fisherの正確確率検定 2)無回答(n=3)は分析から除外 3)無回答(n=1)は分析から除外 4)無回答(n=4)は分析から除外

表3-3  脂肪肝有所見者群と非有所見者群の比較(表3つづき)(N=216)
項目 有所見者群   非有所見者群  P値1)
N=114   N=102   
生活習慣(人,%)
 食べる速度2) 早い 37 32.5 31 30.4 0.714
遅い,普通 75 65.8 70 68.6
 油っぽい料理の頻度3) よく食べる 18 15.8 19 18.6 0.558
時々食べる,ほとんど食べない 96 84.2 82 80.4
 乳製品の頻度4) 食べない 12 10.5 16 15.7 0.248
時々食べる,毎日 102 89.5 85 83.3
 野菜の量やバランス5) 意識していない 17 14.9 17 16.7 0.745
意識している,何とも言えない 96 84.2 85 83.3
 イライラするとつい食べ過ぎる6) はい 21 18.4 12 11.8 0.175
いいえ,何とも言えない 92 80.7 90 88.2
 糖分入り飲料の頻度7) ほぼ毎日 37 32.5 45 44.1 0.086
週2~3回,ほとんど飲まない 76 66.7 57 55.9
 喫煙(n=84)8) 吸う 42 36.8 42 41.2 0.514
吸わない,禁煙した 72 63.2 60 58.8
  1日本数 10本未満 2 4.8 4 9.5 0.676
10本以上 40 95.2 38 90.5
  喫煙年数 10年未満 1 2.4 1 2.4 1.000
10年以上 41 97.6 41 97.6
  喫煙者の禁煙の意思9) 取り組むつもりはない 15 35.7 9 21.4 0.128
いずれ取り組むつもり,1か月以内に取り組むつもり 26 61.9 33 78.6
 飲酒 毎日,週平均1回以上 82 71.9 76 74.5 0.669
あまり飲まない,飲まない 32 28.1 26 25.5
 1日の飲酒量 3合未満 72 87.8 75 98.7 0.078
3合以上 14 17.1 6 7.9
 十分な休養10) いいえ 50 43.9 39 38.2 0.404
はい 63 55.3 62 60.8
 睡眠時間11) 6時間未満 47 41.2 36 35.3 0.317
6時間以上 65 57.0 66 64.7
 1回30分週2回の運動,1年以上 いいえ 104 91.2 77 75.5 0.002
はい 10 8.8 25 24.5
 1日1時間以上歩く12) いいえ 87 76.3 72 70.6 0.285
はい 26 22.8 30 29.4
 歩行速度(同年齢と比較して)13) 遅い 10 8.8 8 7.8 0.790
普通,速い 103 90.4 94 92.2
生活習慣の改善意向(人,%)14)
6か月以内に行動を変えない 34 29.8 24 23.5 0.299
行動を変える,行動を変えた 79 69.3 77 75.5
保健指導利用の意思(人,%)
いいえ 58 50.9 45 44.1 0.383
はい 44 38.6 44 43.1

1)χ2検定,Fisherの正確確率検定 2)無回答(n=3)は分析から除外 3)4)5)6)7)9)12)13)14)無回答(n=1)は分析から除外 8)喫煙で「吸う」と回答した84人で算出 10)11)無回答(n=2)は分析から除外

IV. 考察

1. 対象者の特徴

対象者の属性として,40歳代が約40%,事務職・管理職が約53%,日勤のみが約96%であり,業務としては活動量の少ない対象者が多かった.年代や勤務形態については,事務・管理業務中心の事業所としては一般的な男性勤労者の集団と考えられる(牧野,2010Yamataki et al., 2006).また,脂肪肝有所見者の割合は52.8%であった.腹部超音波検査の脂肪肝の有所見率は約30%との報告(柴田,2006)や,健康診断での脂肪肝有所見率は約25~30%(高木ら,2010)という報告があり,今回の有所見者の割合は,やや高い傾向であったと考えられる.また,生活習慣に関わる検査値の結果では,TCの有所見者割合は30.1%,GOTとGPTの有所見者割合はそれぞれ9.7%と19.4%,γGTPの有所見者割合は14.4%,FBSの有所見者割合は13.4%であった.厚生労働省の定期健診の有所見率の報告(厚生労働省,2010)では,血中脂質検査32.2%,肝機能検査15.6%,血糖検査10.4%であり,同程度の結果であった.次に,特定健診の階層化では,対象となる40歳以上の約47%が積極的支援と動機付け支援に区分されており,特定健康診査・特定保健指導実施状況概況(厚生労働省,2013)での特定保健指導対象者割合の約18%に比較すると,高い割合であった.

2. 脂肪肝有所見者の検査値,生活習慣等の特徴

脂肪肝有所見者群(以下,有所見群)と脂肪肝非有所見者群(以下,非有所見群)の属性を比較すると,年齢と職種では統計的な有意差はなかった.しかし,検査値ではほとんどの項目で,有所見群の方が検査値の有所見者の割合が多かった.先行研究でも,脂肪肝群では,HDL-Cが有意に低値であり,FBS,HDL/TC比,TGは有意に高い値だったとの報告がある(竹田ら,2000).しかし,腹囲正常群でも,男性の1割がBMI 25.0未満の肥満を伴わない脂肪肝を有し,生活習慣病の合併もあるという報告もある(阿部ら,2008).特定保健指導の階層化でも,有所見群の方が非有所見群に比較して,積極的支援や動機付け支援の対象割合が多い結果であったが,情報提供に区分される人の割合も30%以上であったため,情報提供に区分されたリーフレット配布のみの対象者についても,面談等の保健指導が必要ではないかと考える.

生活習慣の項目では,有所見群の方が非有所見群に比較して,1回30分週2回以上の運動を1年以上実施している人の割合が有意に少なかった.国民健康・栄養調査(厚生労働省,2012)によると,運動習慣のある者の割合は,30~50歳代で20%前後であるが,60~69歳で41.9%と急激に増加する.これは,60歳以降の定年後は,運動の時間をとりやすくなり,働く世代ではその時間がとりにくいことも一因と考えられる.働く世代は生活習慣病予防のために,運動の知識や必要性の理解とともに,運動する時間を確保できる生活様式への助言も有用と考えられる.さらに,日常生活の中で活動量を増やすことも有用との報告がある(氏家ら,2006).労働者健康状況調査(厚生労働省,2008)によると,職場での健康保持増進の取り組みとして,職場体操(33.1%)は,健康相談(46.1%)の次に多い割合であった.職場体操については,その内容等に関する報告もある(江口ら,2011).今回の対象も事務業務が中心の勤労者が多くを占めていたが,事務業務は1日のほとんどがデスクワークであり,活動量が少なくなりがちである.日常的な活動量を増やすための保健指導の具体例として,1時間ごとに10分程度の休憩時間をとり軽い体操を行うことや,職場全体でラジオ体操等の運動の機会を持つことを推奨することも考えられる.また,個人の状況に応じて,昼休みの時間を利用したウォーキングや階段の利用方法の工夫等,日常生活の中での具体的な方法を対象者とともに考えることも必要である.

自覚症状の項目では,有所見群の方が非有所見群に比較して,20歳からの体重の増減を自覚している人の割合が有意に多かった.脂肪肝は,職域で最も高頻度に発症する疾患であるが,就業制限に進展することはまれで,休業が必要なレベルはほとんどないと報告されている(伊藤ら,2007).また,肝障害を有する脂肪肝は体重の2%以上の減量により,肝障害が改善されたとの報告がある(渡辺ら,2010).体重減少率と各検査値の変化量の研究でも,血圧,脂質,糖質に関する検査値が体重減少率4%から改善傾向を認めるという報告もある(村本ら,2010).さらに,肥満の有無にかかわらずNAFLDを認めた際は,生活習慣病合併頻度の増加等について対象者に注意喚起し,食事や運動療法を基本とした生活様式の変更の重要性を説明し,6%程度の体重減少を目標とさせて脂肪肝改善に向けて指導するという報告もある(相原ら,2010).しかし,先行研究(富永ら,2010)では,肥満の男性は行動変容を開始しやすい傾向にあるものの,減量効果につながる行動変容に至らないものが多いと報告されている.5%以上の体重減少でGPT値の改善が可能となることが報告されているが(Suzuki et al., 2005),減量の効果が表れるまで行動変容を持続することは容易ではない.そこで,肥満傾向にある脂肪肝有所見者には,減量成果が期待できる実行可能な目標や方法を自己決定して,減量についての達成感を自覚できるようにするための保健指導等が有用と考えられる.

3. 研究の限界と今後の課題

本研究では一事業所の限られた対象者を選定しており,結果の解釈は限定的で,一般化には限界がある.また,一時点の横断的な生活習慣の分析であり,特定健診で使用される標準的な問診票からのデータであるため,生活習慣の項目についても限られた情報での分析にとどまっている.以上のような限界があるものの,本研究はこれまでにあまり報告されていない定期健診の腹部超音波検査による脂肪肝有所見男性の属性や生活習慣の特徴を明らかにしており,基礎資料としての意義はあると考える.今後の課題としては,対象者のより詳細な生活習慣に関するデータを収集し,保健指導に役立てることや,従業員への個別の保健指導だけでなく,事業所全体として脂肪肝有所見者を減らすための対策についても検討する必要があると考える.

V. 結論

都内の一事業所の定期健診で腹部超音波検査を受けた男性216人を対象に,脂肪肝有所見者(114人)と非有所見者(102人)の2群間で検査値と自覚症状,生活習慣を比較した.その結果,脂肪肝有所見男性は他の検査項目でも有所見割合が高いこと,体重増加を自覚していること,生活習慣の特徴としては運動習慣がなかったことが明らかとなった.また,有所見者の中で特定保健指導の情報提供対象者は31人(31.6%)であった.これらの結果から,脂肪肝有所見者への保健指導として,健診結果の検査値を対象者と確認すること,対象者が生活の中で運動習慣を身につけることを支援することの重要性が示唆された.また,特定保健指導の情報提供対象者についても,脂肪肝有所見の場合には個別や集団での保健指導の必要性が示唆された.

謝辞

本研究を行うにあたり,ご協力いただきました事業所の関係者の皆様に深く感謝申し上げます.

なお,本研究は,首都大学東京大学院人間健康科学研究科に提出した修士論文の一部を加筆修正したものであり,第2回日本公衆衛生看護学会学術集会で発表した.

文献
 
© 2015 日本公衆衛生看護学会
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