日本公衆衛生看護学会誌
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研究
大学生の薬物乱用防止教育へのニーズの検討―薬物乱用リスクによる相違
高橋 佐和子荒木田 美香子
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2017 年 6 巻 2 号 p. 141-149

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Abstract

目的:本研究の目的は,大学生の薬物使用に関するリスクによる薬物乱用防止教育へのニーズの違いを明らかにし,大学生の薬物乱用防止教育への示唆を得ることである.

方法:全国17大学の大学2年生を対象とした,留め置きによる自記式質問紙調査による横断的研究である.分析対象数は1,477名であった.

結果:大学生の薬物乱用防止教育への意欲や関心は低いことが明らかになった.大学生が好んだ教育は,「学外講師が授業時間内に集団に対して入学時のみ」の実施であった.薬物乱用経験のある群はより充実した教育を好む傾向がある等,薬物乱用リスクによって教育的ニーズに違いがあった.

結論:大学生の薬物乱用防止教育は,全体に向けた興味関心を高める講義に加え,学生をよく知る教員がディスカッションなどを取り入れつつ行う選択科目を開講するなど,学生の意欲・意識に合わせて学習形態や回数等を選択できるプログラムが効果的であろう.

I. 緒言

2008年,大学生の大麻使用が相次いで報道され,大学生と違法薬物との関係の深さは,社会に大きな衝撃を与えた.その後,大学生の大麻関連の事犯は減少傾向にあったが2014年から再び増加に転じている.さらに危険ドラッグの若者への広がりも懸念されており,その検挙者の3分の1以上は30歳未満が占めている(警察庁,2016).

国の薬物乱用対策推進本部は2008年,「第三次薬物乱用防止五か年戦略」の中で,初めて大学生を対象とした薬物乱用防止に言及した(薬物乱用対策推進本部,2008).これを受け,多くの大学で薬物乱用防止に関する何らかの取り組みが始まり(独立行政法人日本学生支援機構,2010),この大学生への薬物乱用防止教育推進の方針は2013年の「第四次薬物乱用防止五か年戦略」に引き継がれている(薬物乱用対策推進会議,2013).

わが国の薬物乱用防止教育は1989年の学習指導要領改訂以降,小・中・高等学校での実施が制度化され,研究や教育実践も進んでいる(勝野,2001).しかし,大学生への薬物乱用防止教育はまだ歴史が浅く,実施は定着しつつあるものの,その内容や方法は試行錯誤の中にあるのが実態である(高橋ら,2013).

大学新入生を対象とした研究では,薬物使用リスクが高いグループほど生活習慣に乱れがあり,イッキ飲み等の危険飲酒や喫煙,反社会的問題行動の経験を持つ傾向が示されているものの(嶋根ら,2009),薬物乱用防止教育に求められる内容や方法は明らかにされていない.そこで本研究では,大学生の薬物使用に関するリスクによる薬物乱用防止教育へのニーズ,受けたい教育の違いを明らかにし,大学生を対象とした薬物乱用防止教育への示唆を得ることを目的とする.教育へのニーズを検討するにあたってはソーシャル・マーケティングの考え方(松本,2004)を参考にした.

なお,本研究で対象とした薬物は,青少年の間での乱用が多いとされる,覚せい剤・有機溶剤・大麻・3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA)・危険ドラッグ(調査当時は名称の選定前であったたため,違法ドラッグの名称で調査)等の違法薬物である.

II. 研究方法

1. 対象および時期

大学の薬物乱用防止教育に関する学生への全国規模の調査は本研究開始時点でなされていなかったため,全国の大学746校への調査を試みた.本調査に先駆け,2012年6月,大学の薬物乱用防止教育担当者を対象とした調査を全国の大学746校で実施した(高橋ら,2013).そのうち本調査に協力の得られた174校の大学(国立22校・公立26校・私立126校)へ,2012年12月,調査の目的等についての説明文書を送付し,1大学に付き1学部の大学2年生を対象とした質問紙調査の協力依頼を行った.その結果,承諾書の返送があった大学32校(国立3校・公立3校・私立26校)に請求のあった部数(計3,543部)の質問紙を送付した(2012年2月).大学が選んだ1学部の2年生が集まる授業の終了後,質問紙を配付し,事務室等に設けた回収ボックスで回収するよう説明書で依頼したところ,28校(国立3校・公立2校・私立23校)から2,009通(国立66通・公立56通・私立1,887通)の回答が得られた.このうち,2年生の回答は,1,672通であった.

大学2年生を対象としたのは,1年生に比べ大学生活に慣れており,3・4年生に比べ実習や就職活動の影響が少ないと考えたためである.

各大学の回答数は2–438通,回答率は1.0–100.0%と差があったため,標本としての信頼性を確保するため,1校あたりの回答数が30通以上かつ,回答率50%以上の大学のデータを分析対象とすることとした.

その結果,本研究で分析対象としたのは,17校1,477通(国立1校32通,私立16校1,445通)であり,学部の内訳は,保健が8校,教育が4校,社会科学が2校,人文科学が1校,家政が1校,工学が1校であった(表1).

表1  分析対象者
地域 大学 国立/私立 学部 配付数 回答数 回答率(%)
A地域 a 私立 教育 71​ 43​ 60.6
b 私立 保健 55​ 33​ 60.0
B地域 c 私立 家政 137​ 122​ 89.1
d 私立 保健 206​ 149​ 72.3
e 私立 教育 127​ 120​ 94.5
C地域 f 私立 保健 158​ 131​ 82.9
D地域 g 私立 保健 75​ 67​ 89.3
h 私立 保健 102​ 85​ 83.3
i 私立 社会科学 66​ 63​ 95.5
j 私立 社会科学 69​ 56​ 81.2
k 私立 教育 59​ 59​ 100.0
l 私立 人文科学 199​ 199​ 100.0
m 国立 工学 42​ 32​ 76.2
E地域 n 私立 保健 60​ 54​ 90.0
o 私立 教育 62​ 59​ 95.2
F地域 p 私立 保健 97​ 69​ 71.1
q 私立 保健 200​ 136​ 68.0
合計 1,785​ 1,477​ 82.7

2. 倫理的配慮

調査は,説明書に沿って実施するよう依頼した.質問紙には,調査目的と学術的使用および協力は自由意志であることを記載した学生用説明書を添付した.質問紙は,無記名とし,学生が個別に封筒に入れ,封をした状態で回収ボックスに提出し,提出をもって調査協力に同意したとみなした.大学には,開封せずまとめて郵送するよう依頼した.これらの手続きについては,国際医療福祉大学倫理委員会の承認を得た(承認番号12-145,2012年11月14日).

3. 調査項目

1) 薬物使用リスク

薬物使用経験のあるものは非常に少ないことが予想されたため,「違法でないものも含む何らかの薬の乱用経験」(呉ら,1998)に加え,先行研究で薬物使用の予測の有効性が確認されている計画的行動理論(Icek, 1991Glanz et al., 2002)及びP/Wモデル(Gibbons et al., 1998)を参考に,薬物使用に対する本人の認識(意図・意欲・予想)を「薬物使用リスク」とした.

計画的行動理論では,「意図」が行動の前提であり,P/Wモデルでは,「意欲」と「予想」の高まりが行動に繋がるとしている.そこで本研究では,行動の可能性を高めるリスクとして「意図・意欲・予想」を項目に含めた.「意図」は結果の考慮を含む内容の「体に害が少ないとしたら,違法薬物を使ってみたい」と「逮捕されないとしたら,違法薬物を使ってみたい」の2項目とし(松本,2002),「意欲」は危険な行動への衝動的な関与を含む「あなたの目の前に違法薬物があったら試してみたいと思いますか」,「予想」は将来の使用行動への予測を含む「一生のうち一度くらいは違法薬物を使用するかもしれない」の各1項目で尋ねた(Pomery et al., 2009).

何らかの薬物乱用経験は「ある・なし」,薬物使用に対する本人の認識(意図・意欲・予想)の項目は,「とてもそう思う=1」から「全く思わない=6」の6段階スケールで回答を得た.薬物乱用経験に「なし」,薬物使用に対する本人の認識の項目に5または6と回答したものをリスク「なし群」とし,薬物乱用経験に「あり」,薬物使用の認識の項目に1から4と回答したものをリスク「あり群」として分析に用いた.

2) 大学の薬物乱用防止教育の実施状況

実際に行われている薬物乱用防止教育と学生のニーズとの差の有無を明らかにするため,調査協力大学に2011年度の薬物乱用防止の取り組み実施状況を尋ねた.学生の回答と照合するため,本調査を各大学で取りまとめている薬物乱用防止教育担当者に対しても,取り組み実施状況についての質問に回答を依頼し,学生の質問紙と一緒に回収した.

3) 大学生の薬物乱用防止教育へのニーズ(受けてみたい教育)

大学生の薬物乱用防止教育へのニーズを把握するために,国内外で健康教育プログラムに応用されているソーシャル・マーケティングの考え方を用い(松本,2004),大学生が受けてみたい薬物乱用防止教育についてはコンジョイント分析を行った.実際に大学で行われている教育を参考に(同志社大学教育開発センター,2011高橋,2008中西,2007),「講師」,「展開方法」,「学習形態」,「回数」の4条件についてそれぞれ2から3種類の水準を設定した(表2).これらは,本研究に先行して実施した大学の薬物乱用防止教育担当者への調査の条件と同じである(高橋ら,2013).ソーシャル・マーケティングの戦略を決める4要素(Product:製品,Price:コスト,Place:アクセスしやすさ,Promotion:宣伝)のうち,PriceとPlaceにあたる受講者の時間や労力に注目して作成した.宣伝は,教育への参加を促す広告等であるが,大学生を対象とした薬物乱用教育は,全員が受講することが前提であることから調査項目から除外した.製品に当たる教育の内容については学部の特徴(医療・薬学部など)や大学の状況(立地条件や過去の薬物事件の有無)によって大きく左右されると考えたため調査項目から外した.項目数を必要最小限にするため,統計ソフトによって作成した直交計画により11パターンの組み合わせを設定した(表3).これらのパターンについて「あなたの大学で違法薬物防止教育の受講が新たに義務づけられたら」と仮定した上で「ぜひ受けてみたい」から「受けたくない」の5段階で評価するよう依頼した.

表2  大学の薬物乱用防止教育の条件と水準
条件 水準 水準の説明
講師(教育を行う講師) 学内教員 特に指示なし
学外講師
展開方法(教育の位置づけ) 授業時間内 「授業時間内」の場合は,単位の一部として認められる
授業時間外
学習形態(教育を行う方法および対象人数) e-learningによる個別学習 大学にはe-learningの設備が既にあるものとする
大講義や講演会による集団学習 集団学習は1回に50人以上の大人数で実施する
ワークショップや討議によるグループ学習 グループワークでは学生同士が意見交換をする
回数(大学入学後に教育を実施する回数) 入学時のみ 特に指示なし
毎学年1回
毎学年2回以上
表3  薬物乱用防止教育の条件の組み合わせ(11パターン)と学生の回答
パターン 講師 展開方法 学習形態 回数 ぜひ受けてみたい(%) 受けてもかまわない(%) どちらともいえない(%) できれば受けたくない(%) 受けたくない(%) 無回答(%)
パターン① 学外講師 授業時間内 集 団 毎学年2回以上 67(4.5) 466(31.6) 440(29.8) 207(14.0) 183(12.4) 114(7.7)
パターン② 学外講師 授業時間内 e-learning 毎学年1回 38(2.6) 400(27.1) 473(32.0) 234(15.8) 216(14.6) 116(7.9)
パターン③ 学内教員 授業時間内 グループ 毎学年1回 95(6.4) 469(31.8) 420(28.4) 194(13.1) 187(12.7) 112(7.6)
パターン④ 学外講師 授業時間外 グループ 入学時のみ 51(3.5) 326(22.1) 430(29.1) 268(18.1) 289(19.6) 113(7.7)
パターン⑤ 学内教員 授業時間内 集 団 入学時のみ 132(8.9) 600(40.6) 380(25.7) 112(7.6) 143(9.7) 110(7.4)
パターン⑥ 学内教員 授業時間外 e-learning 毎学年2回以上 28(1.9) 196(13.3) 448(30.3) 345(23.4) 345(23.4) 115(7.8)
パターン⑦ 学外講師 授業時間外 集 団 毎学年1回 39(2.6) 302(20.4) 444(30.1) 289(19.6) 289(19.6) 114(7.7)
パターン⑧ 学外講師 授業時間内 e-learning 入学時のみ 54(3.7) 416(28.2) 480(32.5) 203(13.7) 210(14.2) 114(7.7)
パターン⑨ 学外講師 授業時間内 グループ 毎学年2回以上 51(3.5) 371(25.1) 467(31.6) 238(16.1) 235(15.9) 115(7.8)
パターン⑩ 学外講師 授業時間内 グループ 入学時のみ 75(5.1) 485(32.8) 438(29.7) 175(11.8) 190(12.9) 114(7.7)
パターン⑪ 学内教員 授業時間外 グループ 入学時のみ 55(3.7) 309(20.9) 444(30.1) 269(18.2) 287(19.4) 113(7.7)

4. 分析方法

2011年度の取り組み実施状況について,大学側が実施したと回答した大学の全学生のうち,実施したと回答した学生の割合を「学生の認知度」とした.

大学生の薬物乱用防止教育へのニーズについては,学生全体と薬物使用リスク項目それぞれでコンジョイント分析による検討を行った.コンジョイント分析とは,マーケティングリサーチの手法のひとつであり,商品やサービスの持つ複数の要素について顧客が価値を置いている点や顧客に最も好かれるような要素の組み合わせ(選好)を統計的に検討できるものである(真城,2001).

コンジョイント分析の結果,各条件の水準ごとの部分効用値と各条件の平均重要度得点,定数が算出される.部分効用値は,嗜好度が高いほど大きくなる.平均重要度得点は,各条件の相対的な重要度を示すものである.本研究では,大学生はどんな薬物乱用防止教育を受けたいと思っているか,そのニーズを明らかにするために用いた.学生のニーズにあった教育を提供することは,レディネスに大きく影響するため,学習効果を高める上で重要である.

以上の統計的分析には,統計ソフトIBMSPSS Statistics 19を用いた.

III. 研究結果

1. 対象者の基本属性

分析対象とした大学生1,477名のうち,男性は493名(33.4%),女性は978名(66.2%),性別無記入6名(0.4%)で女性が男性より多かった.年齢は20歳が1,039名(70.3%)で最も多く,平均は20.1歳(SD1.4)であった.回答者の所属学部は,保健724名,教育281名,社会科学119名,人文科学199名,家政122名,工学32名であった.

2. 薬物使用リスク(表4
表4  薬物使用リスク(意図・意欲・予想)N=1,477(%)
項目 とてもそう思う=1 そう思う=2 まあそう思う=3 あまり思わない=4 そう思わない=5 全く思わない=6 不明
体に害が少ないとしたら,違法薬物を使ってみたい(意図) 17(1.2) 17(1.2) 75(5.1) 154(10.4) 159(10.8) 1,039(70.3) 16(1.1)
逮捕されないとしたら,違法薬物を使ってみたい(意図) 6(0.4) 10(0.7) 28(1.9) 93(6.3) 161(10.9) 1,158(78.4) 21(1.4)
あなたの目の前に違法薬物があったら試してみたいと思いますか(意欲) 9(0.6) 9(0.6) 24(1.6) 85(5.8) 137(9.3) 1,193(80.8) 20(1.4)
一生のうち一度くらいは違法薬物を使用するかもしれない(予想) 8(0.5) 7(0.5) 26(1.8) 92(6.2) 182(12.3) 1,140(77.2) 22(1.5)

薬物乱用経験の質問である「今までに(違法かどうかにかかわらず)何らかの薬を本来の目的や用法以外で使ったことがありますか」に,「あり」と回答した学生は2.1%(n=31)だった.

それ以外の薬物使用リスクの項目の回答は,「そう思わない=6」と「全く思わない=5」を合わせると全ての項目で80%を超え,最もその割合が高かったのは「目の前に違法薬物があったら試してみたい」90.0%(n=1,330),最も低かったのは「体に害が少ないとしたら,違法薬物を使ってみたい」81.1%(n=1,198)であった.

3. 大学生の薬物乱用防止対策の認知度(表5
表5  大学の薬物乱用防止対策の実施状況と学生の認知度
項目 実施した大学数
N=16
実施大学の学生数
N=1,392
認知した学生数
n (%) n (%) n (%)
入学時等におけるガイダンス 14​ (87.5) 1,189​ (85.4) 241​ (20.3)
一般学生に対する研修 1​ (6.3) 67​ (4.8) 0​ (0.0)
学外の機関等と連携した指導会 1​ (6.3) 199​ (14.3) 30​ (15.1)
授業 7​ (43.8) 756​ (54.3) 78​ (10.3)
学内でのポスター等の掲示 5​ (31.3) 565​ (40.6) 131​ (23.2)
学校ホームページへの注意事項やきまりの掲載 14​ (87.5) 1,141​ (82.0) 45​ (3.9)
学生便覧 4​ (25.0) 354​ (25.4) 12​ (3.4)
学生意識調査 9​ (56.3) 679​ (48.8) 33​ (4.9)
刊行物の作成 4​ (25.0) 411​ (29.5) 7​ (1.7)
生活指導担当教員に対する研修 4​ (25.0) 449​ (32.3) 3​ (0.7)
全教職員に対する研修 0​ 0​ 0​
サークルリーダーへの啓発 0​ 0​ 0​
その他 3​ (18.8) 380​ (27.3) 1​ (0.3)

2011年度に実施された取り組みについて,大学側から回答のあった16校の学生と大学側の回答を比較した.実施したと回答した取り組み数では学生の平均値が0.8件(SD1.4),大学側の平均値は4.4件(SD2.5)であった.

取り組み実施の有無について大学側と回答が一致した学生の割合を学生の認知度として算出したところ,最も高かったのは「学内でのポスター等の掲示」(23.2%),次いで「入学時等におけるガイダンス」(20.3%)であった.「学校ホームページへの注意事項やきまりの掲載」は「入学時等におけるガイダンス」と同じく,16校中14校が実施したと回答しており,最も実施率の高い取り組みであったが,認知度は3.9%と低かった.

4. 大学生の薬物乱用防止教育へのニーズ(表3・表6
表6  大学生の薬物使用リスク別の教育のニーズ(選好)
条件・水準 全体
(N=1,477)
経験あり
(n=31)
経験なし
(n=1,435)
害意図あり
(n=263)
害意図なし
(n=1,198)
逮捕意図あり
(n=137)
逮捕意図なし
(n=1,319)
目の前意欲あり
(n=127)
目の前意欲なし
(n=1,330)
一生予想あり
(n=133)
一生予想なし
(n=1,322)
平均重要度得点 部分効用値 平均重要度得点 部分効用値 平均重要度得点 部分効用値 平均重要度得点 部分効用値 平均重要度得点 部分効用値 平均重要度得点 部分効用値 平均重要度得点 部分効用値 平均重要度得点 部分効用値 平均重要度得点 部分効用値 平均重要度得点 部分効用値 平均重要度得点 部分効用値
講師
学内教員 13.6 –0.089 20.8 –0.211 13.5 –0.087 14.1 –0.087 13.5 –0.090 11.3 –0.112 13.8 –0.087 13.1 –0.097 13.6 –0.088 14.5 –0.060 13.6 –0.092
学外講師 0.089 0.211 0.087 0.087 0.090 0.112 0.087 0.097 0.088 0.060 0.092
展開方法
授業時間内 27.7 0.322 23.1 0.189 27.8 0.325 30.5 0.354 27.1 0.316 32.5 0.362 27.3 0.319 28.2 0.320 27.7 0.322 24.0 0.331 28.1 0.322
授業時間外 –0.322 –0.189 –0.325 –0.354 –0.316 –0.362 –0.319 –0.320 –0.322 –0.331 –0.322
学習形態
e-learning 31.3 –0.198 31.4 –0.119 31.3 –0.200 29.4 –0.145 31.6 –0.209 30.4 –0.208 31.3 –0.197 29.8 –0.189 31.4 –0.199 37.0 –0.188 30.7 –0.200
集団 0.206 –0.030 0.210 0.158 0.215 0.208 0.205 0.192 0.205 0.202 0.205
グループ –0.007 0.148 –0.010 –0.012 –0.006 0.001 –0.008 –0.004 –0.007 –0.014 –0.005
回数
入学時 26.2 0.185 24.8 0.059 26.2 0.187 25.4 0.162 26.3 0.189 24.4 0.242 26.3 0.180 24.2 0.150 26.3 0.188 23.1 0.197 26.4 0.185
毎学年1回 –0.016 0.015 –0.016 –0.054 –0.008 –0.092 –0.009 –0.041 –0.014 –0.085 –0.010
毎学年2回以上 –0.169 –0.074 –0.171 –0.108 –0.181 –0.150 –0.171 –0.109 –0.174 –0.113 –0.175
定数 2.882 2.970 2.880 2.807 2.897 2.651 2.902 2.728 2.895 2.712 2.897

※コンジョイント分析 ※経験あり・なし:「今までに(違法かどうかにかかわらず)何らかの薬を本来の目的や用法以外で使ったことがありますか」 ※害意図あり・なし:「体に害が少ないとしたら,違法薬物を使ってみたい」 ※目の前意欲あり・なし:「目の前に違法薬物があったら試してみたい」 ※逮捕意図あり・なし:「逮捕されないとしたら,違法薬物を使ってみたい」 ※一生予想あり・なし:「一生のうち一度くらいは違法薬物を使用するかもしれない」

11パターンの教育のうち最も「ぜひ受けてみたい」が多かったのはパターン⑤であり,最も少なかったのはパターン⑥であった.いずれのパターンも最も回答が多かったのは,「受けてもかまわない」または「どちらともいえない」であり,「ぜひ受けてみたい」より「受けたくない」が多かった.

全体を分析対象とした場合のコンジョイント分析の結果で,平均重要度得点が最も高かったのは学習形態(部分効用値31.3)であり,次いで展開方法(27.7)であった.この傾向は,薬物使用リスク項目「目の前に違法薬物があったら試してみたい」(意欲),「一生のうち一度くらいは違法薬物を使用するかもしれない」(予想)の群別の結果においても同様であった.しかし,意図の2項目では,ともにリスク「あり群」で学習形態よりも展開方法の平均重要度得点が最も高くなった.また,薬物乱用経験「あり群」で平均重要度得点が最も高かったのは,全体と同じく学習形態(31.4)であったが,次いで高かったものが回数(24.8)となった.さらに,この群は,学習形態と回数の部分効用値(属性内で0に平均化された母数)に他の群と異なる傾向があり,学習形態では集団(–0.030)を避け,グループ(0.148)を好む傾向が,回数では入学時(0.059)のみでなく,毎学年実施すること(0.015)も好んで選択する傾向があった.

IV. 考察

1. 大学生の薬物使用の実態

本調査の結果から,違法であるかどうかに関わらず,何らかの薬物乱用経験のある大学生は2.1%存在するという実態が明らかになった.15歳以上の一般市民を対象とした全国調査では,何らかの違法薬物の生涯経験率は2.5%と報告されている(和田ら,2014).今回の質問は違法薬物に限定したものではなかったが,この全国調査と比べて経験率は低かった.しかし,本調査は大学で質問紙配付をしているため違法薬物経験者の中に回答を避けたものがいる可能性もあり,実際の薬物乱用者は,より多いことも考えられる.大学における薬物乱用防止教育では,違法薬物と既に関係している学生が存在する可能性を考慮する必要がある.

2. 大学生の薬物乱用防止教育の認知度

大学で実施された薬物乱用防止の取り組みについて,大学生と大学側の回答を比較したところ,取り組み数,取り組み内容ともに学生の認知度は低く,大学生の薬物乱用防止対策への興味関心の低さが推察された.

「入学時等におけるガイダンス」と「学校ホームページへの注意事項やきまりの掲載」は,16校中14校と多くの大学が実施していると回答した.しかし,学生の認知度は高いとは言えず,特に「学校ホームページ」の認知度はわずか3.9%にとどまった.実施大学が少ない(16校中5校)にも関わらず学生の認知度が高かったのは,「学内でのポスター等の掲示」(23.2%)であった.ホームページ等Webを利用したツールは,入試情報などの大学広報では有用な手段のひとつとなっているが(栗林,2008),薬物乱用防止に関しては,ポスター等の掲示物の方が認知される可能性が示された.しかし,ポスター同様,印刷物である「刊行物」や「学生便覧」の認知度は低かった.ポスターを偶然目にすることはあっても,印刷物を自ら手に取り,薬物に関するページを開くほど関心は高くないということであろう.大学の薬物乱用防止教育では,学生の興味関心をいかに高めることができるかが鍵となる.

3. 大学生が求める薬物乱用防止教育

11パターンの薬物乱用防止教育全てで,「受けたくない」との回答の割合が高く,さらにコンジョイント分析から明らかになった大学生が最も好む教育の条件は,「学外講師が,授業時間内に,集団に対して,入学時のみ」に実施する教育であり,重視された条件から,「基本的に受講したくないが,自ら考えたり発言したりするグループ学習ではなく受け身の姿勢で受講できる集団講義で,自由時間を拘束されず単位を認められる授業時間の中で,入学時だけのできるだけ少ない回数ならば受講してもいい,講師は誰でもいい」という大学生薬物乱用防止教育への受講意欲の低さ,興味関心や期待の低さが見て取れた.中高生に比べ大学生は,薬物の危険性への知識はあるが,規範意識が低い可能性が指摘されている(石川,2013).すでに薬物乱用防止教育を小学生の時から繰り返し受けており,知識もあると感じている大学生の興味関心を引くような展開上の工夫の必要がある.

こうした無関心な相手にメッセージを伝える際のヘルスコミュニケーションの戦略は,メッセージの論拠や真偽による説得ではなく,感情に訴えかけ,その魅力や反復性,信頼性などの周辺的な情報を与えることが効果的であるとされている(蝦名,2013).アメリカではユーモアや音楽,人気俳優等を駆使した禁煙キャンペーンが効果をあげている(Wakefield et al, 2010).これを関心や意識が低い大学生への薬物乱用防止教育に適用した場合,ユーモアやロールプレイを交え,薬物を使用した大学生の悲劇や薬物のない大学の魅力等のメッセージを伝え,大学生のポジティブな感情を引き起こすアプローチを取り入れることも考えられる.

我々は,大学の薬物乱用防止教育担当者を対象に薬物乱用防止教育へのニーズを本調査と同じ11パターンで調査している(高橋ら,2013).大学の担当者は「展開方法」は4条件のうち最も重視しておらず,学生とは逆の「授業時間外」を好んでいた.しかし,学生が受講しやすい時間設定をすることは学生の受講意欲を下げないために重要である.また,学生は講師へのこだわりは強くないことも明らかになった.ある大学では,薬物乱用防止を内容に含めた教養科目を実施しており,学生が意欲的に取り組む様子が報告されている(「大学における大麻・薬物問題とその対策」編集委員会,2010).学生の様子がよくわかっている大学の教員が薬物乱用防止教育に積極的に関わり,学生の特徴や興味を踏まえた教育内容・形態を授業時間内に実施することで,学生の関心は高められると考えられる.

今回の調査では,薬物使用リスクによって薬物乱用防止教育へのニーズが異なることが明らかになった.「意図」あり群の学生は,授業時間内の実施を最も重視しており,授業以外の時間を使ってまで薬物乱用防止教育を受けたくないという思いが特に強いことがうかがわれた.教育を軽視するこのグループが最も規範意識が低く,薬物使用の危険性が高いと考えられる.一方,リスクの中でも「薬物使用経験」のある学生は,集団による教育よりもグループ学習による教育や,より回数の多い,毎学年1回の教育も好み,講師の重要度も他より高いなど,教育への意欲が高い傾向があった.実際に薬物の恐ろしさを自覚していることが教育への意欲につながっていると考えられる.これら薬物使用リスク別の特徴から,集団のリスクに合わせたプログラムを学生のニーズに合わせて展開することが効果的であると考える.具体的には,ポピュレーション及びハイリスクストラテジーを組み合わせ(井伊ら,2017),大多数を占める意識の低いグループをターゲットとして興味関心を高めることを意図したプログラムを授業時間内に必修として設定し,一部の薬物乱用防止教育への意欲の高いグループにはディスカッションを取り入れた少人数による複数回のプログラムを選択科目として設けるなどが考えられる.ゼミなどの少人数の選択制のクラスがすでにある大学では取り入れやすいスタイルであろう.

なお,本研究では以下の2点について限界があり,分析結果の解釈に考慮が必要である.まず,標本抽出に関する限界である.調査協力への承諾のあった大学を対象としたため,大学の所在地や規模には偏りがあり,私立大学がほとんどであった.2点めは実施方法による限界である.大学に説明書に従って調査を実施するよう依頼したが,すべての大学で配付や回収の方法が均一であったとは言い切れない.これらの点から,全国の大学生を代表する結果として一般化することは困難である.

V. 結語

大学生が好む薬物乱用防止教育の方法の組み合わせは,「学外講師が,授業時間内に,集団に対し,入学時のみに行う」教育であり,負担が少なく自由時間を拘束されず,できるだけ少ない回数で行われる教育であった.しかし,薬物使用経験のある学生は,ない学生に比べ,教育への期待が高いことがうかがわれた.学生の特徴をよく知る大学教員が薬物乱用防止教育に関わり,授業時間中に,学生の意識にあわせて学習形態や回数および内容を選択できる薬物乱用防止教育プログラムが効果的であると考えられる.

謝辞

本調査にご協力くださいました大学の薬物乱用防止教育担当者様,大学生の皆様に心より感謝申し上げます.

本研究は,独立行政法人日本学術振興会科学研究費補助金の助成を受けて実施している「大学生の薬物乱用防止教育プログラムの開発」(平成23〜25年度)に関する研究の一部である.

文献
 
© 2017 日本公衆衛生看護学会
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