日本公衆衛生看護学会誌
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活動報告
発達要支援児の1歳6か月児健康診査問診項目の検討
伊丹 恵子武本 昌子石井 陽子富田 早苗
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2017 年 6 巻 2 号 p. 178-186

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Abstract

目的:発達要支援児の適切な発見と早期支援のため,3歳児健康診査(以下,3健)の結果から支援が必要な児の1歳6か月児健康診査(以下,1.6健)の特徴を明らかにし,親子にとって有効な問診項目を検討することである.

方法:A市で2010~2013年度,1.6健と3健両方を受診した児385名を対象に,発達に関連する問診票55項目を用いて分析を行った.

結果:1.6健は異常なしであったが3健で発達要支援となった児は6.8%,1.6健で発達要支援,3健で異常なしとなった児は17.8%であった.問診項目を異常なし児と発達要支援児に分け検討した結果,見落としと考えられる項目はなく,拾いすぎと考えられた項目が「たえず動き回る」「食事の心配がある」等7項目あった.

考察:見落とし項目はなく,1.6健問診項目の一定の評価ができたと考える.拾いすぎと考えられた項目は,表現の工夫と整理を行い,今後も健診場面での親子の様子,他の問診項目の判断と併せて評価する必要があろう.

I. はじめに

2005年に発達障害者支援法が施行され,市町村は母子保健法第12条および第13条に規定する健康診査を行うにあたり,発達障害の早期発見に十分留意しなければならないとされた.発達障害は早期発見のみでなく,早期に発達支援が受けられるよう適切な対応が求められている.

発達が気になる児の把握年齢について,2007年に実施した村田らの特別支援学校等に通う小・中学生の養育者を対象とした調査では,養育者が子どもの特性に気づいた平均年齢は1.9±1.3歳であったと報告している(村田ら,2010).また,発達障害児を持つ親は気づきとともに不安を覚えることが報告されており(平岡,2011),このことからも1歳6か月児健康診査(以下,1.6健)での発達障害の早期発見の重要性がわかる.

2013年度の1.6健の受診率は全国で94.9%(厚生労働省,2013),A市においても94.4%であり,市町村のほとんどの幼児を確認できる1.6健は,支援の必要な発達要支援児を早期に発見できる重要な機会であり,早期発見により,幼児に少しでも早く働きかけ,言語・社会性などの発達を促すことができる.また,保護者の不安や育児の困難さに寄り添うなど,親子支援へつながると考える.

支援の必要な発達要支援児の早期発見・早期支援を切れ目なく行っていくため,A市では1.6健に加え3歳児健康診査(以下,3健)の問診票について,2007年度および2010年度に先進地の他県2か所を参考に,問診票の改訂を行い,発達障害に関する問診項目を追加・変更した.さらにA市では,従来歯科診察を中心に実施していた2歳6か月児歯科健康診査(以下,2.6健)についても,1.6健と3健の間に発達を確認できる機会と捉え,1.6健と3健に共通する発達障害に関する問診項目を盛り込み実施している.

これらの発達障害に関する問診項目は,現在,A市の1.6健の問診項目数64項目のうち33項目と多い.熊本県内の45市区町村を対象とした調査では,1.6健の問診項目数は31~40項目が最も多く,61項目以上の市区町村は僅か5.8%であった.また発達障害に関する問診項目は16~20項目が41.1%と最も多く,26項目以上の市区町村は8.8%と1割未満であることが報告されている(小堀,2014).これらの結果からも,A市の問診項目数は多く,記入する保護者の負担,待ち時間の長さによる受診者の負担も危惧された.さらに,1.6健後の要フォロー率は,33.8%と約3人に1人が支援の必要な発達要支援児となっており,拾いすぎの課題も考えられた.平岩は,疑いや診断とともに,どのような対応方法があるのか一緒に伝える必要があるとし,対応策がない時に疑いや診断を伝えることは「早期診断=早期絶望」になりかねないと警告している(母子衛生研究会,2015).これら問診項目の課題を明らかにするため,3健の結果から1.6健で適切に支援の必要な発達要支援児と判断できていたか,また,逆に拾いすぎにより必要以上に保護者に不安を与えていないか,1.6健と3健の両方を受診した児の問診票を検討し,評価していくことが必要と考えた.

そこで,支援の必要な発達要支援児を適切に捉え,早期に支援していくため,本調査は,3健の結果から支援が必要な児は1.6健でどのような特徴があったのかを明らかにすること,さらに,3健の結果,異常なしとした児の1.6健の問診項目の特徴を明らかにし,親子にとって有効な問診項目について検討することを目的とした.

II. 方法

1. A市の概要

A市はB県の県南部に位置し,人口は36,114人,年間出生数237人,高齢化率30.1%である(総務省統計局,2010).

2. A市の発達要支援児の子育て相談体制

A市の発達要支援児の子育て相談体制を図1に示した.幼児健康診査のうち,1.6健・2.6健では,児童指導員と発達障害支援コーディネーターが,3健では,臨床心理士と発達障害支援コーディネーターが精神発達相談を実施し,個別相談ができる機会を設けている.また,健康診査(以下,健診)以外にも,育児相談やより専門的な相談が身近で出来る児童相談所特別相談,保健所主催の子どもの発達支援相談を定期的に実施している.発達障害支援コーディネーターは,A市に2012年度から1名配置され,幼児から成人までの発達障害に関する総合相談・関係機関との調整を行っている.

図1 

A市の発達要支援児の子育て相談体制

3. 用語の定議

異常なし児,要支援児,発達要支援児の最終判断は,健診後のカンファレンスで従事者が,過去の健診結果,問診,問診場面での親の訴えや保健師などによる観察,そして健診場面での子どもの様子や親の心配ごとなどを総合的に捉え行っている.

1) 異常なし児(ohne befunde,略して「o」とする.)

1.6健・3健の結果,異常がないと判断された児をいう.

2) 要支援児

1.6健・3健の結果,言語や行動,体格,内科診察所見など,何らかの理由で要経過観察となった児をいう.

3) 発達要支援児(follow,略して「f」とする.)

要支援児のうち,体格や内科診察所見を除き言語,行動,寝つきが悪いなどの生活リズム,過敏などの児の特性など,発達に関して要経過観察となった児をいう.

4) 見落とし項目

発達要支援児を適切に把握するため必要と考えられるが見落とされていた項目をいう.

5) 拾いすぎ項目

発達要支援児を必要以上に把握していると考えられた項目をいう.

4. 調査対象者

2008年9月1日から2010年8月31日までに出生した児で,2010年度から2013年度にかけて,1.6健と3健の両方を受診した児385名を対象とした.

5. 調査内容

保護者が事前に記入した「基本属性」と「問診項目」,保健師が問診時に用いた「簡易発達検査」,健診当日に行った「歯科診察」の問診票の55項目を用いた.

「基本属性」は性別,出生順位の2項目を用いた.出生順位は,第1子と第2子以上の2つに分類した.問診項目は1.6健の64項目のうち,疾病やけがの既往を問う1項目,発達障害に関する問診項目として,既知の知見や既存の文献などをもとに研究者間で検討し抽出した項目33項目(言語,行動,生活リズム,児の特性),食生活に関する問診項目5項目,保育状況に関する問診項目7項目の計46項目を用いた.テレビやビデオの時間は,見せていない・1時間以内・1~2時間・3時間以上・つけっぱなしの5択で尋ね,3時間未満か3時間以上の2つに分類した.おやつの時間については,あげている者のみを対象とした.児によく話しかけているかは,はい・いいえ~どちらともいえないの2つに分類した.その他の項目は,あり・なし,または,はい・いいえの2択で尋ねた.

「簡易発達検査」は,視線・積み木の塔・絵カード単語・絵カード指差しの4項目を用いた.「視線」は,話しかけると目を合わすなどの児の行動を示す.「積み木の塔」は,色のついた積み木の積み上げ個数であり,3個以上を「積み上げができた」とした.「絵カード単語」は,A4サイズのカード両面に6つずつ描かれている絵を保健師が指差しながら「これは何」と質問し,児が言葉で答えた数を記入したものである.「絵カード指差し」は,言葉で3個以上答えられない場合に「~はどれ」と質問し,指差しで答えた数を記入し,3個以上で「できた」とした.

「歯科診察」は,う歯の有無1項目を用いた.

6. 分析方法

1)1.6健と3健の健診結果を,異常なし児と発達要支援児の4群に分類した.

①1.6健で異常なし児・3健で異常なし児 〈o-o〉群

②1.6健で発達要支援児・3健で異常なし児 〈f-o〉群

③1.6健で異常なし児・3健で発達要支援児 〈o-f〉群

④1.6健で発達要支援児・3健で発達要支援児 〈f-f〉群

2)問診項目の通過状況を分析するため,質的変数の独立性の検定にはχ2検定またはFisherの直接確率法を,4群の検定には一元配置分散分析を用いた.なお,質的変数で有意な関連を示した項目は残差分析を行った.分析にはIBM SPSS ver21.0J for Windowsを使用した.有意水準は5%未満とした.

3)類似した問診項目を整理し,有効な問診項目について,A市の母子保健担当保健師5名,大学教員3名で検討した.

7. 倫理的配慮

A市健康福祉部健康推進課長に研究の概要について口頭と文書「研究の実施に伴う使用データの倫理的配慮について」で説明し同意を得た.資料の分析にあたり情報はコード化し,統計学的に処理したうえで個人が特定されないように配慮した.また,本研究は,川崎医療福祉大学倫理委員会の承認を得て実施した(平成27年2月25日,承認番号14-056).

III. 活動内容

1.6健と3健の両方を受診した児385名のうち,歯科診察を受診していなかった児3名を除く382名(99.2%)を分析対象とした.

1.6健の発達要支援児129名を要支援と判断した内訳(複数該当)は,言語が65.1%で最も多く,次いで行動54.3%,児の特性17.8%,生活リズム13.2%であった.

1. 基本属性および既往歴

382名の1.6健受診時の平均月齢は,19.2±1.0か月で,男児201名(52.6%),女児181名(47.4%),出生順位は,第1子166名(43.5%),第2子以上216名(56.5%)であった.

性別では,1.6健・3健ともに異常なし児は,男児108名(47.6%)・女児119名(52.4%)であったのに対して,1.6健・3健ともに発達要支援児は,男児44名(72.1%)・女児17名(27.9%)であり,男児の割合が有意に多かった.出生順位では,4群に有意差はみられなかった.既往歴も4群に有意差はみられなかった.

2. 1.6健・3健の異常なし児および発達要支援児の分類

1.6健・3健の異常なし児および発達要支援児の分類を表1に示す.

表1  1.6健・3健の異常なし児および発達要支援児の分類(n=382 n(%))
3健
異常なし児 発達要支援児
1.6健 異常なし児 227(59.4) 26(6.8) 253(66.2)
〈o-o〉群 〈o-f〉群
発達要支援児 68(17.8) 61(16.0) 129(33.8)
〈f-o〉群 〈f-f〉群
合計 295(77.2) 87(22.8) 382(100.0)

1.6健・3健ともに異常なし児(〈o-o〉群)は,227名(59.4%)であった.1.6健発達要支援児は129名(33.8%),3健発達要支援児は87名(22.8%)であった.1.6健では異常なしであったが,3健で発達要支援となった児(〈o-f〉群)は26名(6.8%),逆に1.6健で発達要支援であったが,3健で異常なしとなった児(〈f-o〉群)は68名(17.8%)であった.1.6健・3健ともに発達要支援児(〈f-f〉群)は61名(16.0%)であった.

3. 4群別にみた1.6健問診項目と各項目との関連

4群別にみた1.6健問診項目と各項目との関連を表2に示す.

表2  4群別にみた1.6健問診項目と各項目との関連(n=382)
項目 〈o-o〉群 〈o-f〉群 〈f-o〉群 〈f-f〉群 p値
n=227(59.4) n=26(6.8) n=68(17.8) n=61(16.0)
n % n % n % n %
【基本属性】
性別 男児 108 47.6 17​ 65.4 32​ 47.1 44 72.1 0.003
出生順位 第1子 87​ 38.3 13​ 50.0 31​ 45.6 35​ 57.4 0.050
【発達障害に関する問診項目】
(言語)
絵本を見て指差しをする
はい 227​ 100.0 26​ 100.0 67​ 98.5 54​ 88.5 2.128
有意語を話す
はい 227​ 100.0 25​ 96.2 62​ 91.2 55​ 90.2 9.914
簡単な言葉を理解する
はい 225 99.1 26​ 100.0 66​ 97.1 56 91.8 0.042
(行動)
ひとりで上手に歩く
はい 226​ 99.6 26​ 100.0 66​ 97.1 61​ 100.0 0.258
手をつないで階段を登る
はい 219​ 96.5 25​ 96.2 65​ 95.6 58​ 95.1 0.504
積み木を2個積む
はい 222​ 97.8 24​ 92.3 63​ 92.6 51​ 83.6 9.837
なぐり書きができる
はい 226​ 99.6 26​ 100.0 66​ 97.1 57​ 93.4 0.154
服を自分で脱ごうとする
はい 219 96.5 25​ 96.2 61​ 89.7 53 86.9 0.026
自分でコップを持つ
はい 213 93.8 24​ 92.3 56​ 82.4 48 78.7 0.002
箸を使って食事をする
はい 195​ 85.9 25​ 96.2 61​ 89.7 53​ 86.9 0.506
スプーン・フォークを使って食事をする
はい 218 96.0 25​ 96.2 65​ 95.6 48 78.7 <0.001
箸・スプーン・フォーク以外で食事をする
はい 28 12.3 6​ 23.1 15​ 22.1 20 32.8 0.002
大人のしぐさの真似をする
はい 225​ 99.1 26​ 100.0 68​ 100.0 61​ 100.0 1.000
気になる行動がある
はい 52 22.9 8​ 30.8 38 55.9 39 63.9 <0.001
気になる行動のその他自由記述
あり 7​ 3.1 1​ 3.8 14​ 20.6 10​ 16.4 5.894
気になる行動について個別相談の希望
あり 8 3.5 4​ 15.4 20 29.4 18 29.5 <0.001
(生活リズム)
寝つきが悪い
はい 5 2.2 0​ 0.0 5​ 7.4 6 9.8 0.019
(児の特性)
相手をすると喜ぶ
はい 227​ 100.0 26​ 100.0 68​ 100.0 61​ 100.0 1.000
他児に興味がある
はい 224​ 98.7 26​ 100.0 68​ 100.0 60​ 98.4 0.603
つま先立ちで歩く
はい 2​ 0.9 2​ 7.7 12​ 17.6 5​ 8.2 1.282
ぐるぐる回る
はい 10​ 4.4 0​ 0.0 4​ 5.9 7​ 11.5 0.140
たえず動き回る
はい 10 4.4 1​ 3.8 11 16.2 7​ 11.5 0.007
横目を使って見る
いいえ 227​ 100.0 26​ 100.0 68​ 100.0 59​ 96.7 0.076
頭を床や壁に打ちつける
はい 8 3.5 4​ 15.4 8​ 11.8 12 19.7 <0.001
高い所に上がりたがる
はい 20​ 8.8 2​ 7.7 11​ 16.2 10​ 16.4 0.168
こだわりがある
いいえ 225​ 99.1 26​ 100.0 66​ 97.1 58​ 95.1 0.119
一人遊びに没頭する
いいえ 224​ 98.7 26​ 100.0 67​ 98.5 60​ 98.4 1.000
変わった遊び方をする
いいえ 227​ 100.0 26​ 100.0 68​ 100.0 60​ 98.4 0.228
初めての場所を嫌がる
いいえ 224​ 98.7 26​ 100.0 67​ 98.5 60​ 98.4 1.000
光や音に敏感である
いいえ 225​ 99.1 26​ 100.0 67​ 98.5 60​ 98.4 0.592
大きな音に耳をふさぐ
いいえ 227​ 100.0 26​ 100.0 68​ 100.0 61​ 100.0 1.000
後ろから呼ぶと振り返る
はい 225​ 99.1 26​ 100.0 67​ 98.5 60​ 98.4 0.434
極端に眩しがる・目の動き目つきが悪い
いいえ 223​ 98.2 26​ 100.0 66​ 97.1 59​ 96.7 0.759
【食生活に関する問診項目】
母乳を飲んでいる
いいえ 186​ 81.9 23​ 88.5 52​ 76.5 46​ 75.4 0.395
哺乳瓶を使用している
いいえ 209​ 92.1 23​ 88.5 63​ 92.6 54​ 88.5 0.680
週3回以上甘味飲料を飲む
はい 42 18.5 4​ 15.4 22​ 32.4 21 34.4 0.011
食事の心配がある
はい 101 44.5 12​ 46.2 42 61.8 38 62.3 0.020
おやつの時間
時間を決めている 205​ 90.3 19​ 73.1 60​ 88.2 50​ 82.0 0.374
【保育状況に関する問診項目】
仕上げ磨きをしている
はい 211​ 93.0 25​ 96.2 64​ 94.1 53​ 86.9 0.377
児によく話しかけている
はい 215​ 94.7 26​ 100.0 64​ 94.1 57​ 93.4 0.706
テレビやビデオの時間
3時間未満 183​ 80.6 20​ 76.9 49​ 72.1 40​ 65.6 0.720
育児に負担を感じる
はい 25​ 11.0 4​ 15.4 11​ 16.2 12​ 19.7 0.264
子育てに悩みや不安がある
はい 23 10.1 7​ 26.9 9​ 13.2 22 36.1 <0.001
育児の協力・相談者がいる
はい 224​ 98.7 26​ 100.0 67​ 98.5 60​ 98.4 0.603
子育てで気になることの自由記述
あり 118 52.0 17​ 65.4 50 73.5 52 85.2 <0.001
【簡易発達検査】
視線
合わない 3 1.3 1​ 3.8 4​ 5.9 6 9.8 0.001
3個以上積み木の積み上げ
できた 209​ 92.1 23​ 88.5 61​ 89.7 50​ 82.0 0.137
絵カード単語
3個未満 88 38.8 10​ 38.5 49 72.1 41 67.2 <0.001
絵カード指差し
3個未満 74 32.6 8​ 30.8 45 66.2 41 67.2 <0.001
【歯科診察】
う歯
なし 225 99.1 26​ 100.0 66​ 97.1 57 93.4 0.043

検定はχ2検定ないしFisherの直接確率法

残差分析で有意に関連のあったものは太字斜体とする

不明は除く

4群の内訳 〈o-o〉群:1.6健で異常なし児・3健で異常なし児 〈f-o〉群:1.6健で発達要支援児・3健で異常なし児 〈o-f〉群:1.6健で異常なし児・3健で発達要支援児 〈f-f〉群:1.6健で発達要支援児・3健で発達要支援児

1) 異常なし児と発達要支援児の項目の特徴

〈o-o〉群と〈f-f〉群で有意差がみられた項目は,基本属性では「男児」,発達障害に関する問診項目では,「簡単な言葉の理解ができない」「服を自分で脱ごうとしない」「自分でコップを持たない」「スプーン・フォークを使用しない」「箸・スプーン・フォーク以外を使用」「気になる行動がある」「寝つきが悪い」「頭を床や壁に打ちつける」「気になる行動の個別相談希望がある」,食生活に関する問診項目では,「週3回以上甘味飲料を飲む」「食事の心配がある」,保育状況に関する問診項目では,「子育てに悩みや不安がある」「子育てで気になることの自由記述がある」であった.簡易発達検査では,「視線が合わない」「絵カード単語3語未満」「絵カード指差し3個未満」,歯科診察では,「う歯がある」の18項目で,全てにおいて〈f-f〉群の割合が有意に多かった.

2) 見落とし項目と考えられる項目の検討

見落としが考えられる項目を把握するために,〈o-o〉群と〈o-f〉群の比較を行った結果,有意差のみられる項目はなかった.有意差はないものの〈o-o〉群と比較し,〈o-f〉群に多かった項目として,「頭を床や壁に打ちつける」(〈o-f〉群15.4%)と「子育てに悩みや不安がある」(〈o-f〉群26.9%)の2項目があり,前者は〈o-o〉群3.5%の約4倍,後者は〈o-o〉群10.1%の約3倍多かった.

3) 拾いすぎ項目と考えられる項目の特徴

拾いすぎが考えられる項目を把握するために,〈o-o〉群と〈f-o〉群の比較を行った結果,有意差がみられた項目は7項目であった.発達障害に関する問診項目では,「気になる行動がある」「たえず動き回る」「気になる行動の個別相談希望がある」,食生活に関する問診項目では,「食事の心配がある」,保育状況に関する問診項目では,「子育てで気になることの自由記述がある」,簡易発達検査では,「絵カード単語3個未満」「絵カード指差し3個未満」で,これらの項目は〈f-o〉群の方が〈o-o〉群と比較し有意に多かった.

4. 問診項目の評価

問診票の55項目のうち,異常なし児と発達要支援児で分析した結果,「基本属性」4項目中1項目,「発達障害に関する問診項目」33項目中9項目,「食生活に関する問診項目」5項目中2項目,「保育状況に関する問診項目」7項目中2項目,「簡易発達検査」4項目中3項目,「歯科診察」1項目中1項目の18項目に有意差がみられた.

設問に該当する回答が少ない問診項目は,以下のとおりである.「相手をしても喜ばない」「大きな音に耳をふさぐ」は,該当する回答者がいなかった.「変わった遊び方をする」は1名,「大人のしぐさの真似をしない」,「横目を使って見る」は回答者が2名であった.また,落ち着きがなく動き回ることを確認する「ぐるぐる回る」と「たえず動き回る」は,「ぐるぐる回る」の回答者21名,「たえず動き回る」の回答者29名のうち,両方に回答している者は8名だった.「極端に眩しがる・目の動き目つきが悪い」の回答者8名のうち,「横目を使って見る」に回答した者はいなかった.「光や音に敏感」の回答者4名のうち,「極端に眩しがる・目の動き目つきが悪い」に回答した者はいなかった.

IV. 考察

1. 発達要支援児の1.6健の項目の特徴(〈o-o〉群と〈f-f〉群の比較)

本調査の結果,1.6健・3健ともに発達要支援児の1.6健の項目の特徴として,「簡単な言葉の理解がない」「絵カード単語3個未満」「絵カード指差し3個未満」の言語や,「服を自分で脱ごうとしない」「自分でコップを持たない」「スプーン・フォークを使用しない」「箸・スプーン・フォーク以外を使用」「寝つきが悪い」の生活習慣に関連する問診項目が異常なし児と比較し,発達要支援児に有意に多いことが明らかになった.これは,1.6健と3健とも言語発達の遅滞群は「生活習慣の自立」に有意に通過率が低いという報告(須山ら,1985)や,言語領域では,可逆の指さしが重要であると指摘している研究結果(本郷ら,2006)と同様で,発達要支援児を適切に支援していく上で重要な項目の指標と再確認できた.また,発達障害に関する問診項目33項目のうち,「寝つきが悪い」「頭を床や壁に打ちつける」の2項目が発達要支援児を適切に把握するために重要であることが明らかになった.「寝つきが悪い」は先行研究においても発達障害をもつ児の特徴としてあげられており(橋本ら,2005),また親が育てにくさを感じる項目でもある(田丸ら,2010).「頭を床や壁に打ちつける」は,自閉症のパニック障害の可能性も視野に入れる必要性を示している.

さらに,本調査では「週3回以上甘味飲料を飲む」と,「う歯がある」は異常なし児と比較して発達要支援児に多く,有意差がみられた.これらは,う歯予防の観点から確認していた問診項目であったが,言い出したら聞かないなどで甘味飲料を与えることが多くなったり,じっとできない,過敏などで仕上げみがきなどの歯のケアが十分に行えないなど,児の特性が影響しているとも考えられ,発達要支援児の確認項目として,重要視する必要性が示唆された.

2. 見落とし項目・拾いすぎ項目の検討結果

本調査では,見落としと考えられる明らかな項目はみられなかった.「頭を床や壁に打ちつける」「子育てに悩みや不安がある」は,〈o-o〉群と〈f-f〉群の比較において発達要支援児に有意に多かった項目でもある.〈o-o〉群と〈o-f〉群の比較の結果,1.6健・3健ともに異常なし児と比べて発達要支援児に多い傾向であったことから,他の問診項目と併せ,より注意深く問診をとっていく必要があると考える.

一方,拾いすぎと考えられる項目の「たえず動き回る」は,保護者の判断が難しかったことが考えられる.また,平岩は,健診に対する意識には行政側と住民側の温度差があり,前者は疾患や障害を発見しようとしているが,後者は健康である保証を受けたいと考えていると記している(平岩,2011).本項目に関しても,発達障害との関連ではなく肯定的に捉え回答したとも考えられる.状況を見極めるためにも,健診場面における保健師の問診技術の向上が課題と考えられた.また,その他の項目で,「絵カード単語3個未満」「絵カード指差し3個未満」など言語の発達に関しては,発達が晩成型の場合や,A市の発達要支援児の子育て相談体制を活用した健診後の支援や介入で,3健までに発達が追いついたとも考えられる.本田は,1回の健診の場で精度高くスクリーニングすることは困難なため,支援が少しでも必要なケースを広く抽出すると示している(本田,2014).拾いすぎか否かの判断は慎重を要するといえる.気になることや心配なことなどを確認する項目は,保護者の主観で回答する項目であるが,保護者の不安が強い,保護者の子育てへの自信がないことを表していると捉えることもできる.1.6健では明らかな発達遅滞が見られなくても,早い時期に警告サインが発せられる(笠置ら,2013)という報告もあり,保護者の気づきや心配は,貴重な情報と捉える必要がある.また,このことから,健診後の継続的な親子支援が重要であり,さらには,健診以前の一次予防における親の育児不安への支援強化が拾いすぎを減らすことにつながる可能性も考えられるが,この点は今後の課題といえよう.

3. 有効な問診項目の検討

本調査において,有意差がみられた項目については,発達要支援児を適切に捉えるために,特に重要であることが明らかになった.有効な問診項目のうち,保護者がより児の特徴を捉え回答しやすいような表現の工夫を行うため,黒澤が示しているものを参考に,「寝つきが悪い」は「なかなか寝ない・すぐに目をさます・睡眠の前後にひどくぐずり困ることがありますか」と示す.「たえず動き回る」は「落ち着きがなく動き回り困ることがありますか」と示す(黒澤,2009).また,設問に該当する回答が少なかった問診項目のうち,「相手をしても喜ばない」や「大人のしぐさの真似をしない」などや,「変わった遊び方をする」は,設問の「変わった」という表現が保護者に伝わりにくかったことも要因として考えられるため,問診項目として削除し,整理してよいと考えた.

以上のことから発達障害に関する問診項目33項目は,新たに20項目となり13項目減となって保護者の負担軽減につながると考える.それと同時に,保健師が見落とさないように,問診で児の様子をより注意深く確認することが必要であろう.

4. 研究の限界と今後の課題

A市という限定した地域と期間で,過去の問診票のデータを対象としたため,分析に限界があった.さらに,拾いすぎの判断については,3健で異常なし児となった背景には,発達が晩成型の場合や,A市の発達要支援児の子育て相談体制を活用した健診後の支援や介入で,3健までに発達が追いついた可能性などもあり,判断根拠には限界があった.

1.6健の時点で早期発見される発達障害児は一部である.本調査はこれらの限界を踏まえたうえで,1.6健時点での有効な問診項目の検討を行った.今後は,改訂した問診票により発達要支援児を適切に捉えることができるよう,評価を継続することと,1.6健以降も継続的な視点で親子支援を行うことが重要である.

V. おわりに

発達要支援児について,3健の結果から1.6健の問診項目を検討した結果,問診票の55項目のうち,有意差のあった18項目については,発達要支援児を適切に捉えるために,特に重要であった.

見落としと考えられる明らかな項目はみられなかった.しかし,「頭を床や壁に打ちつける」「子育てに悩みや不安がある」など拾いすぎと考えられる問診項目7項目が明らかになった.また,問診項目が重複しているものも多いことがわかり,整理に繋げることができた.

今後は,発達要支援児を確認する重要な項目については,引き続き使用する.さらに保護者が回答しやすいような表現の工夫を行い,今後も継続して評価をしていく必要がある.

謝辞

1.6健・3健問診票に丁寧にお答えいただき,データを使用させていただいた対象者の皆さまに感謝いたします.また,問診項目の整理と有効な問診項目の検討でご指導いただいた川崎医療福祉大学波川京子教授,浅口市役所保健師滝澤康恵氏,田口弘美氏,池田妙香氏に深謝いたします.

なお,本調査の一部は,第22回岡山県保健福祉学会にて発表いたしました.

文献
  •  橋本 俊顕, 西村 美緒, 森 健治,他(2005):自閉性障害,脳と発達,37(2),124–129.
  • 平岩幹男(2011):親子保健24のエッセンス,57,医学書院,東京.
  •  平岡 雪雄(2011):発達障害の乳幼児期の発達徴候について 発達障害の早期発見・支援に向けての予備的考察,日本子ども家庭総合研究所紀要,47,353–358.
  •  本田 秀夫(2014):発達障害へのアプローチ-最新の知見から(第3回)発達障害の早期支援,精神療法,40(2),299–307.
  •  本郷 一夫, 八木 成和, 糠野 亜紀(2006):3歳児健康診査におけるフォローアップ児の特徴に関する研究―1歳6か月児健康診査,3歳児健康診査時における問診票と簡易発達検査との関連―,小児保健研究,65(6),806–813.
  •  笠置 恵子, 安井 教恵(2013):乳幼児健診結果を活用した早期発達支援に関する研究,醫學と生物學,157(4),493–502.
  •  小堀 晶弘(2014):発達障害児の早期発見,早期支援に関する検討,総合学術研究論集,4,109–114.
  • 公益財団法人 母子衛生研究会(2015):月刊母子保健,674,6–7.
  • 厚生労働省(2013):平成25年度地域保健・健康増進事業報告,http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/c-hoken/13dl/gaiyo/pdf(検索日:2015年11月30日)
  • 黒澤礼子(2009):赤ちゃんの発達障害に気づいて・育てる完全ガイド:0歳~3歳まで,健康ライブラリースペシャル,25,講談社,東京.
  •  村田 絵美, 山本 知加, 加藤 久美,他(2010):発達障害児の養育者が求める支援~堺市質問紙調査より~,小児保健研究,69(3),402–414.
  • 総務省統計局(2010):平成22年国勢調査,http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/(検索日:2015年11年30日)
  •  須山 梅子, 近喰 ふじ子(1985):言語発達に伴う精神発達上の特徴と問題点,小児の精神と神経,25(4),293–296.
  •  田丸 尚美, 小枝 達也(2010):5歳で把握された発達障害児の幼児期の経過について,小児保健研究,69(3),393–401.
 
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