2019 年 8 巻 1 号 p. 3-11
目的:症状が進行しつつある在宅パーキンソン病(PD)療養者がとらえる生活の中での主体性を明らかにすることを目的とする.
方法:60歳以上でYahr II~III度の在宅PD療養者10名を対象に半構造化面接を実施し,質的記述的分析を行った.
結果:在宅PD療養者がとらえる生活の中での主体性は,【体が全く動かなくならないようできる範囲で予防する】,【症状の変動に制限される中で1日の生活を形づくる】,【家族の力を借りながら自分にできることをする】,【今の自分が送る普段通りの生活を続けたいと願う】,【PDの進行への不安や体のつらさにふたをして心を安定させる】,などの7カテゴリで構成し,主体性の中心として《未来の自分からは目をそらしPDから今ある生活と自分らしさを守る》ことがあった.
考察:PD療養者は自分らしさや今ある生活の維持を大切にしており,療養者の主体性はPDの進行から自分の生活を守ることであると示唆された.
パーキンソン病(PD)は進行性の神経変性疾患であり,発症年齢は50~65歳に多く(山本,2015),高齢者の増加により患者数や有病率が増加している(中島ら,2009).PD療養者が自分で納得のいく生活を送るためには,制度等を活用し自ら生活をつくることが重要であると考えられる.近年,新たな法律が成立し,2012年「障害者総合支援法」では障害者・障害児の定義に難病が加わり,難病療養者も障害福祉サービスの対象となった.また,2014年「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」では,難病療養者への公平・安定的な医療費助成の制度が確立された(厚生労働省,2014).PD療養者は療養や生活の基盤を整えるために,制度やサービスを活用できる機会が増えたと考えられる.
一方,医療費助成を受けられる対象はYahr III度以上,生活機能障害度2以上など,障害の程度により利用できる制度やサービスは異なる.国の難病対策の見直しにより,PD療養者の生活の選択肢は広がりつつあるが,障害が徐々に出現する時期である軽度の療養者は,自身が望むように制度を利用するのは難しい現状にある.軽度のPD療養者は,PDの症状を受け止め,自身の生活と向き合い,適宜,生活を再構築する時期にあると考えられる.生活の仕方や自分のあり方への方策を,軽度のPD療養者は考え行動することが求められているといえる.
進行性の神経変性疾患であるPDの中核症状は,振戦,固縮,無動症,姿勢反射障害といった運動症状で,さらに精神症状を合併する場合もある(水野ら,2004).特にYahr II~III度は障害が両側性となりADLの低下が進む時期であり(井上ら,2016),日常生活で介助を必要とする場面が増える.また,長期の薬物治療による問題の1つであるWearing off現象では,薬の内服によって得られる「体を動かせる時間」が徐々に少なくなる(山本,2015).これらのことから,Yahr II~III度の療養者は,症状の進行を自覚し始め,今まで自分でできていたことが徐々にできなくなっていく苦しさや,将来に対する不安を大きく感じる時期にある.また,薬物治療が長期になるにつれて,症状の日内変動も生じるようになり,思うように体と心をコントロールできない苦しさを抱えて生きていかなければならないといえる.
PD療養者の生活に関する先行研究において,前向きに生きている療養者は,症状がある中でもできることは自分でしようと考え行動している一方,日々変化する症状に一喜一憂し,ゆらぐ心も存在していた(岸田,2007).また,PD療養者は日常生活行動に対し,考え方や視点を変えて対処するなどの対処方法を有していた(田所,2000).コーピング行動の利用はPDに対する心理社会的適応の向上に関連しており(Navarta-Sánchez et al., 2016),療養生活の中で生じる課題に対して自分なりの対処法を実践することによる効果が明らかとなっている.PDへの心理社会的適応やQOLについては,療養者の重症度が高いほど低い(Navarta-Sánchez et al., 2016)ことが報告されている.これらのことから,自ら思考し,行為をなそうとする態度である「主体性」(沖森ら,2004)がPD療養者の生活において重要であると考えられる.主体性は,自分を知ることで引き起こされる自分でつくり上げていくものであり,その結果自分らしく生きることができるという自己成長のプロセス(伊藤ら,2015)とされている.PD療養者が重度となる前から自分の望む生活を送ることができるよう支援する必要があるといえる.
主体性に関する先行研究では,療養している高齢者は家族などの支援を受けながら自分らしい生活を維持するため必要な知識を活かして生活していた(金子,2011).また,がん患者においては,痛みという困難に対して薬剤使用の決定など自らの意思に基づいた行動によって対処していた(平岡ら,2012).このように,療養者は病気がある中でも自分の望む生活を送ろうという主体性をもち生活しているといえる.しかし,PD療養者の生活に関する研究は,生活体験の記述や対処行動の種類に関する研究にとどまっている現状にある.生活の中で主体性ととらえていることをPD療養者の視点から明らかにすることは,療養者自身が自らの生活の仕方を選択し,疾患を抱えながらも自分らしい生活を送るための一助となると考える.
そこで,本研究はYahr II~III度の療養者に着目し,症状が進行しつつある在宅PD療養者がとらえる生活の中での主体性を明らかにすることを目的とする.
本研究では,PD療養者の生活の中の主体性を療養者自身の視点から明らかにすることを目的とするため,質的記述的研究デザインを用いた.
2. 用語の操作的定義本研究では,伊藤ら(2015)が行った主体性の概念分析を参考に,主体性を「自分の意思をもって現在や将来の生活の仕方や自分のあり方,生活における課題に対する自分なりの対処法を見出すことであり,積極的または消極的な考えや行為を含むものとする」とした.
3. 研究対象者対象はA市内の神経内科病院に外来通院する60歳以上のPD療養者10名とし,疾患の重症度はHoehn & Yahr重症度分類に基づきYahr II~III度とした.なお,対象は在宅で生活をする精神状態の安定した者とし,パーキンソン症候群の患者,認知症を合併している患者は対象外とした.対象者には担当医師から研究協力について説明してもらい,内諾を得られた後,研究者が研究概要を口頭及び文書にて説明し,同意書にて同意を得られた者を研究対象とした.
4. 調査方法2017年4~9月,29~63分の個別面接による半構造化面接を実施し,インタビューは原則1回とした.インタビュー実施前,在宅PD療養者を対象にプレインタビューを行い,インタビュー内容を検討した.その結果,インタビュー内容を,①1日の生活の様子,②1日の生活の中で自分の意思をもって決めていること,③今後の生活への希望等で構成し,対象者が生活の中の主体性について自由に語れるよう,適宜,質問を加えながらインタビューを実施した.インタビューは対象者の同意を得てICレコーダーに録音した.
5. 分析方法録音したデータから逐語録を作成し,逐語録のデータから「PD療養者の主体性」が読み取れる文脈に着目し,意味内容を損ねないようにコードとして抽出した.その後,コード同士を見比べて関連性の深いコードをまとめた最終コードを生成した.次に,最終コード同士の共通性を考慮し,サブカテゴリを生成した.さらに,サブカテゴリ同士の共通性を検討し,抽象度を高めたカテゴリを生成した.最後に,生成したカテゴリ間の関連や各カテゴリの中心となるものを検討し,「PD療養者の主体性」のコアカテゴリを生成した.分析は,質的研究の経験を有する共同研究者とともに行い,分析結果は研究協力機関の看護部長によるチェックを受けた.
6. 倫理的配慮研究協力機関と対象者に対して,調査の目的と方法,匿名性の保証,データの秘密保持,研究への自由参加の保証などについて文書および口頭で説明を行い,対象者の同意は同意書にて得た.また,同意撤回書により,対象者の求めに応じて同意を撤回できるようにした.
本研究は,北海道大学大学院保健科学研究院倫理審査委員会(承認日2017年2月14日,4月27日; 承認番号 16-106,17-5)と研究協力機関の倫理審査委員会の承認(承認日2017年2月21日)を得て実施した.
研究参加者は男性2名,女性8名であり,年齢は60代が7名,70代が2名,80代が1名であった.診断年数は1年から24年であり,重症度はYahr II度が3名,Yahr III度が7名であった.
性別 | 年代 | PDの診断年数 | Yahr重症度 | 同居の家族構成 | 主症状 | |
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A | 男 | 60代前半 | 1年 | III | 夫婦 | 右側の固縮,左側の動きにくさ,睡眠障害(中途覚醒,悪夢) |
B | 女 | 60代前半 | 1年4ヶ月 | III | 夫婦,子 | 左半身の動きにくさ,寝不足,疲労 |
C | 女 | 60代前半 | 4年 | II | 夫婦 | 右上肢の動きにくさ |
D | 女 | 60代前半 | 12年 | III | 夫婦 | 手足の動きにくさ,すくみ足,小声,自律神経失調(多汗) |
E | 女 | 60代後半 | 1年2ヶ月 | II | 夫婦,子 | 右手のふるえ |
F | 男 | 60代後半 | 4年 | III | 夫婦,子 | 眠気,腕に力が入らない,固縮 |
G | 女 | 60代後半 | 17年 | III | 夫婦 | ジスキネジア,姿勢障害,手の脱力 |
H | 女 | 70代前半 | 5年 | III | 夫婦 | すくみ足,固縮,足の動きにくさ |
I | 女 | 70代後半 | 24年 | III | 娘夫婦 | すくみ足,ジスキネジア |
J | 女 | 80代前半 | 2年 | II | 夫婦,子 | 歩行のしづらさ,手のふるえ |
症状が進行しつつある在宅PD療養者がとらえる生活の中の主体性について,14サブカテゴリと7カテゴリを抽出した.以下に,各カテゴリについてサブカテゴリを用いて説明する.本文中では,カテゴリを【 】,サブカテゴリを〈 〉,対象者の語りを「斜体」で示す.
カテゴリ | サブカテゴリ |
---|---|
体が全く動かなくならないようできる範囲で予防する | 無理のない程度の活動により筋力低下や固縮の進行を予防する |
症状の変動に制限される中で1日の生活を形づくる | その日の振戦や無動の程度に応じて活動を調整する |
1日の中でいつでも自分が活動できる場を用意しておく | |
自分なりの指標で体の状態を評価して1日の活動を調整する | |
家族の力を借りながら自分にできることをする | どうしても自分1人では難しいことは家族に手伝ってもらう |
配偶者の助けを得ながらなんとか気持ちを前向きにする | |
今まで築き上げてきた自分自身を維持する | 心の励みである家族内の自分の役割を怠けて失わないようにする |
症状がある中でも自分なりに兼ねてからの趣味を楽しむ | |
今の自分が送る普段通りの生活を続けたいと願う | 程々に頑張って今の平凡な生活を少しでも長く続けたい |
これ以上家族の重荷にならないよう今の自分の状態を維持する | |
今できている生活の中のルーティンを続けたい | |
PDの進行への不安や体のつらさにふたをして心を安定させる | できないことや体のつらさからは目をそらして気持ちをコントロールする |
他の患者と見比べてまだそれほど進行していないと自分を安心させる | |
療養者同士の気兼ねない交流を支えとする | 療養者同士の気兼ねない交流を療養生活を乗りきる力とする |
このカテゴリは,〈無理のない程度の活動により筋力低下や固縮の進行を予防する〉の1サブカテゴリからなる.
PD療養者は,体が動かなくなることを問題とし,ある程度動ける現在の状態を維持するために進行予防の活動が必要と考えていた.また,運動だけでなく家事や趣味など,生活における活動も進行予防になると考えていた.これらの活動を療養者は自分の負担になり過ぎない程度に行っていた.
「外に出ることがすごい大事だと思うから,ストレッチができなくても散歩だけは行くとか,あと,お散歩代わりに友達のところに行ってみるとか,そういうことはまだできるかなって(D)」
2) 【症状の変動に制限される中で1日の生活を形づくる】このカテゴリは,〈その日の振戦や無動の程度に応じて活動を調整する〉,〈1日の中でいつでも自分が活動できる場を用意しておく〉,〈自分なりの指標で体の状態を評価して1日の活動を調整する〉の3サブカテゴリからなる.
PD症状は日内変動があり,日によっても程度が違うことを療養者は認識し,生活の中で症状が出る状況やオンの時間帯を把握して1日の生活を組み立てていた.また,療養者はその日の症状の程度により,やりたいと思うことができなかったり,やらなければならないと思っても億劫になることを毎日の生活で経験していた.しかし,体調のいい時にやりたいことがやれるよう,使う道具や場所などの準備をしていた.療養者の中には,自分の状態を客観的に評価しながらその日の活動を決めている者もおり,今の自分の状態を自分なりの指標で評価し,自主的な運動の効果などをみていた.
「それでも体の調子日々変化ありますからね,じゃあ今日はこの辺でやめとくか,今日はもうちょっといけるなとか,その調整ができるようになったっていうのは,少し,経験かな(A)」
「勝負の時間っていうのかな,体がけっこう楽な時間なんで,軽い,掃除機とかね,そういうの使って簡単にバーッと掃除をしたり(D)」
3) 【家族の力を借りながら自分にできることをする】このカテゴリは,〈どうしても自分1人では難しいことは家族に手伝ってもらう〉,〈配偶者の助けを得ながらなんとか気持ちを前向きにする〉の2サブカテゴリからなる.
症状の進行により,自分1人では満足にできないことが療養者の生活の中に生じており,家事や身の周りのことを家族に手伝ってもらっていた.療養者には家族に甘え過ぎてはいけないという思いもあり,どうしても自分だけでは無理なことのみ家族の助けを得ていた.男性療養者は,PDである自分を受け入れるために考え方を変えるよう努め,PDが進行することへの苦悩で沈みがちな気持ちを妻の言葉によってもち直していた.
「お鍋とか洗うのがちょっと大変だったりとかするんですよね,だから,片付けは主人がしてくれるので,その代わり作るのはできないからっていうことなので,作るのはもう,自分がするから片付けは主人にっていうことで(C)」
4) 【今まで築き上げてきた自分自身を維持する】このカテゴリは,〈心の励みである家族内の自分の役割を怠けて失わないようにする〉,〈症状がある中でも自分なりに兼ねてからの趣味を楽しむ〉の2サブカテゴリからなる.
PD療養者は,離れて暮らす両親の様子を見に行ったり,家族のために家事をこなすなど,家族を支えるという病前からの自分の役割を保ち続けていた.療養者は,自分の役割をもち続けることで,PDである自分もまだ役に立てると感じ,今まで行ってきたことをこれからも続けられるよう,なるべく自分の役割をこなせるよう工夫していた.また,療養者は卓球やガーデニングなど,病前から続けている趣味を現在も続けており,趣味を行うことが生活を送る活力となっていた.そして,体が動くうちは趣味をできるだけ長く続けたいと考え,趣味を続けられるよう,手のふるえを薬で抑えるというように症状に対処していた.
「(畑やガーデニングも)ずっと前(PDになる前)から(やっている).(中略)好きなものは,ちょっとこう,とことん,やれるうちはやりたいなっていう…(E)」
「(娘と分担して家事をするのは)必要とされる,役に立ってるってね…何もすることなかったらね,楽だろうなと思うけど(笑).それでもね…やっぱり何かね,当てにされてるとかっていうのが,励みに…(I)」
5) 【今の自分が送る普段通りの生活を続けたいと願う】このカテゴリは,〈程々に頑張って今の平凡な生活を少しでも長く続けたい〉,〈これ以上家族の重荷にならないよう今の自分の状態を維持する〉,〈今できている生活の中のルーティンを続けたい〉の3サブカテゴリからなる.
PD療養者には,起床後から夜までの生活スタイルがあり,自分の負担になりすぎない程度にリハビリなどを頑張ることで,今送ることのできている何気ない生活を続けたいと考えていた.また,症状の進行によってできないことが増えていく中,自分の介助をすることで家族に負担をかけることを心苦しく思い,家族のために今の自分の状態を維持できるよう努めていた.
「まあ自分の中ではほんとに,ささやかな生活だけど,カミさんの飯は作れる自分で,まあお互いに,洗濯はしてもらう,アイロンは俺がかける,まあそれくらいはなんかできるから,だからそういう生活を送りたい(A)」
6) 【PDの進行への不安や体のつらさにふたをして心を安定させる】このカテゴリは,〈できないことや体のつらさからは目をそらして気持ちをコントロールする〉,〈他の患者と見比べてまだそれほど進行していないと自分を安心させる〉の2サブカテゴリからなる.
PD療養者は症状の進行によりできないことが増えていると認識し,体が思うようにならないつらさを抱えて生活していた.その中で,趣味や友人との交流や家事をすることで,自分がPDであるということから注意をそらそうとしていた.そして,PDの進行に対する不安によって生活が狭められないよう,今できることに目を向けて一生懸命やることで気持ちを前向きに保つようにしていた.また,病院で重度の療養者の姿を見て自分の将来への不安に駆られながらも,自分はまだ大丈夫だと言い聞かせて自分を安心させていた.
「あと何年(今のように動けるか)とかはね,考えなくて,わりとそういう,細かいことはもう考えないことにしたのね.(中略)常にどこかにそういうこと(いつまで動けるのかという気持ち)があると…なんだろ,自分も楽しくないし…前に進めないし…(E)」
7) 【療養者同士の気兼ねない交流を支えとする】このカテゴリは,〈療養者同士の気兼ねない交流を療養生活を乗りきる力とする〉の1サブカテゴリからなる.
PD療養者は症状の進行によって行動が狭められる中でも,人との交流を通して社会とのつながりをもち続けようとしていた.療養者は人との交流の中でも,PD療養者同士の交流を重要なものと考えており,他の療養者の生活を自分の療養生活の参考にしたり,療養者同士の交流を先の見えない療養生活の支えとしていた.
「友の会に入ったのは,こういう情報が知りたくて(中略)色んな情報っていうかね,私はこうやってこの薬飲んでるよとかね.(中略)(情報が知れるのは)大きいですね,自分1人じゃないって思いますしね(I)」
3. 在宅パーキンソン病療養者がとらえる生活の中での主体性のコアカテゴリ抽出された7カテゴリから,各カテゴリの中心となるコアカテゴリを抽出した.以下,各カテゴリを用いて在宅PD療養者がとらえる生活の中での主体性を要約し,抽出されたコアカテゴリを示す.本文中では,コアカテゴリは《 》で示す.
在宅で生活するPD療養者は,症状に対して病院でのリハビリの他,可能な範囲で自主的な運動や家事などの生活の中での活動を行うことで,【体が全く動かなくならないようできる範囲で予防する】ことに努めていた.
日常生活においては,症状に応じて活動を調整するなど,【症状の変動に制限される中で1日の生活を形づくる】ことをしていた.しかし,症状によりどうしてもできないことはあるため,【家族の力を借りながら自分にできることをする】と考えていた.また,症状によってできないことが増えていく中でも,病前からある家族内の自分の役割や趣味を続けることで,【今まで築き上げてきた自分自身を維持する】ことを大切にし,【今の自分が送る普段通りの生活を続けたいと願う】という思いをもっていた.しかし,できないことが増えていくつらさや進行への不安は常に療養者の中にあり,【PDの進行への不安や体のつらさにふたをして心を安定させる】ことで,なんとか気持ちを前向きにしていた.また,【療養者同士の気兼ねない交流を支えとする】ことで療養生活を乗りきる力を得ていた.
在宅PD療養者の主体性には,PDの進行が進む未来は考えないようにするなど,PDという病気自体から今の自分が送る生活と今まで築き上げてきた自分らしさを守るという特徴があり,《未来の自分からは目をそらしPDから今ある生活と自分らしさを守る》ことを考え,病前からの役割や趣味といった自分らしさや,今できている生活を維持しながら生活を送ることであった.
PD療養者の主体性は《未来の自分からは目をそらしPDから今ある生活と自分らしさを守る》というように,まだ失われていない病前からの自分の役割や趣味といった自分らしさや,現在の状態でできている普段の生活を維持していくことであった.また,あえてPDの進行による機能低下や将来の不安に目を向けないことで不安定になりがちな心を安定させることも,PDの進行に対する不安を常に抱える療養者にとって必要な主体性であった.
1) PDを抱えた生活と向き合う中での主体性PDは進行性疾患であり,現在完治する治療法は存在しない.その中で,療養者は【体が全く動かなくならないようできる範囲で予防する】ことに努めていた.PDの進行によって体が動かなくなっていくことに対する不安が運動などの予防行動につながり,症状やPDに対する対処に表れていると考えられる.また,神経難病療養者の難病とともに生きる支えの1つとして,現在も保たれている身体機能に感謝することがあり(牛久保,2005),療養者の家事などのまだできることを続けていきたいという語りから,療養者には残された機能を大切にしたいという思いがあるといえる.そのため,PD療養者にとってPDの進行予防とは単なる予防のためではなく,今できていることを維持していくためのものであると考えられる.
PD療養者は【症状の変動に制限される中で1日の生活を形づくる】ことを行っており,その日の症状の程度に合わせて1日の生活を組み立てるという主体性をもっていた.症状の中でも,無動は姿勢反射障害とともにADLを阻害する因子(菊池ら,2009)とされている.健常高齢者と比べPD療養者は自立度や活動能力などの身体機能が低い(中江ら,2014)ことからも,PDの中核症状である運動症状がPD療養者の日常生活を左右しているといえる.また,PDにはWearing off現象などがあり,1日の中でも症状の変動が起こるという特徴がある.つまり,PD症状によって生活活動が限られる中でも,療養者はその日の症状の発現に合わせて生活を構築していることから,生活の仕方を決めるという療養者の主体性にはPD症状が大きく影響していると考えられる.
PD療養者は【家族の力を借りながら自分にできることをする】と考えており,家族に頼ることも療養者の主体性の1つであった.主に女性療養者は,【療養者同士の気兼ねない交流を支えとする】ことで療養生活を乗りきる力を得ており,同じPD療養者との交流はPDである苦しさを共有し,気の休まる時間となっていた.PD療養者のQOL構成要素として家族や友人といった社会的関係が重要であり,その中でも療養者は家族を最も大切にとらえている(Takahashi et al., 2016).若年性PD療養者の場合,仕事や患者交流といった社会的な活動を生活の中で重要と考え,QOLに大きく影響している(秋山ら,2010)ことが報告されている.これらのことから,家族や他のPD療養者は,療養者がより良い生活を送るために必要な存在であるといえる.特に,家族には自分1人ではできないことを助けてもらっており,療養者の生活において家族は欠かせない存在である.他者の力を借りることは一見すると主体性が乏しい状態にもとらえられるが,進行の程度により生活介助が必要となるPD療養者にとって,他者の力を借りるか否かを決めることも重要な主体性になると考えられる.そのため,療養者の身近な支援者である家族の存在は,療養者の主体性に影響を及ぼす要素の1つと考えられる.
以上の4カテゴリから,療養者は生活のあらゆる面にPDによる影響を受けながらも,その生活に適応していけるよう努めるという主体性をもっていた.これらの主体性は,生活の中で療養者の行動として表れ,療養者がPDである自分自身と向き合おうと努力する積極的なものであるといえる.
2) PD療養者の自己の内面に働きかける主体性Yahr II~III度はADL低下が進み,療養者は症状の進行を自覚し始める時期である.病前の自分との違いや将来への不安に苦しみながらも,少しでも長く今の生活を続けていくために必要なことをすることがYahr II~III度の療養者の主体性として重要であると考えられる.
療養者は,PDが進行し徐々に自分のできることが少なくなっていく中でも,病前からの役割や趣味を続けることで【今まで築き上げてきた自分自身を維持する】ことを大切にしており,これはPDという疾患から自分らしさを守りたいという自己の内面で生じる主体性であった.先行研究では,壮年期のPD療養者は自分の意思で体と心をコントロールできないという病に揺さ振られる自己を認識しつつ,前向きな自己を保持しようとする様子があった(佐々木,2003)ことが報告されている.また,脊髄小脳変性症と多系統萎縮症の療養者は家庭内役割があり,IADLの中の社会的役割が大きいと主観的QOLが高くなっている(押領司,2007)ことや,Yahr III~V度の療養者は,病前からのルーティンの1つをうまく終えることができると昔と同じ自分を感じている(Vann-Ward et al., 2017)ことが報告されている.病前からの役割や趣味は,長い時間をかけて培われてきた療養者の自分らしさであり,現在の生活の拠り所となっていると考えられる.また,この役割や趣味といった自分らしさは,療養者にとって病前の自分を感じることができるものであり,PDであってもまだ自分にできることはあるという自信につながるものといえる.そのため,自分らしさを保つことはPDの進行に流されるままにはならないという療養者の意思の表れであり,PDに対する抵抗であると考えられる.PD療養者の主体性は,PDの進行からまだ残されている自分の可能性を守るために発揮されているものであると考えられる.
【今の自分が送る普段通りの生活を続けたいと願う】という主体性は,毎日の日課や仕事,家族や友人との時間など,普段の何気ない生活を少しでも長く送ることを強く望む療養者の生活に対する願いの表れであった.PD療養者において,日々のルーティンの実施や自分らしさを維持しようとすることは,PDと診断される前の療養者のアイデンティティや役割,周囲の人々との関係を保持するために機能する(Vann-Ward et al., 2017)ことが示されている.進行性疾患という特性上,療養者が現在の機能を維持し続けることは難しく,加えて,いつ自分の体が動かなくなるかを予測できない.今の生活ができなくなる可能性が常にあるため,誰もが送る特別ではない生活が療養者にとって重要であると考えられる.また,この主体性は他のカテゴリとは異なり,療養者の願いを表している点が特徴である.症状の進行により将来の予測が困難であるため,願いをもつことは療養者の現在の生活の原動力となっていると考えられる.
【PDの進行への不安や体のつらさにふたをして心を安定させる】という主体性は,症状やPDが進行する未来は考えないようにするといった回避的な対処を行うことで心を安定させるものであった.療養者には,自分の将来が気になる一方,歩けなくなることへの恐怖感やつらさから,将来のことは考えたくもないというアンビバレントな気持ちや行動がある(出村ら,2012)といわれている.一方,障害を持つ高齢者は,障害のある将来の生活を意識できるよう作業選択の機会を与えられることで,自己が受容され尊重されると感じている(村田,2017)ことが示されている.進行性ではない疾患は,将来にわたって一定の身体機能を保つことができる.しかし,進行性疾患であるPDでは,現在の身体状態を保つことは難しい.このことから,いつか体が動かなくなってしまうという恐怖を常に感じながら症状が進行した自分の将来を考えることは,PD療養者にとって苦痛を生じさせるものと推察される.PD療養者は,日々の症状や進行に対する不安などによって揺れる心を常にもちながらも,将来への不安にあえて目を向けず現在の生活の維持に注力することで,PDという疾患に流されてしまいそうな自分を留めていると考えられる.
以上の3カテゴリから,療養者は自分の心や今までの自分を守るなど,生活の中の行動には表れない自己の内面に向けた主体性をもっていた.また,療養者は現在の生活だけではなく,将来の自分への希望といった主体性ももっていた.これらの主体性は,時に療養者の消極的な姿勢として表れるが,症状の進行を自覚し始めるYahr II~III度の療養者にとって,PDから自分自身を守るために必要なものであると考えられる.
2. 実践への示唆本研究では,症状が進行しつつある在宅PD療養者がとらえる生活の中の主体性を明らかにした.本研究の結果をもとに公衆衛生看護実践への示唆を以下に述べる.
PD療養者の主体性の1つとして,療養者は病前からの趣味や自分の役割を維持することや,今ある生活を守ることが大切と考え,その考えをもとに日々の生活を送っていた.このことから,第一に,支援者は療養者とともに疾患の進行状態などから生活方法を組み立てる必要があり,療養初期は保健師などの専門職による介入が重要である.療養者と関わる最初の機会である診断時や医療費受給者証申請時から,療養者より1日の症状の変化や症状がある中での生活の仕方などを傾聴し自己決定を支え,療養者の主体性を活かした支援の提供が在宅療養において重要と考えられる.また,療養者は将来への不安を常に抱えており,自身の気持ちを打ち明ける場をつくることが必要である.語りを通して療養者が自らの主体性と向き合えるよう促すことで,療養者の自己効力感を高めることにつながると考えられる.
第二に,保健師と病院との連携体制の整備が求められる.診察やリハビリでYahr II~III度の療養者と関わる機会の多い病院の医療職は,療養者の生活に最も身近な専門職といえる.療養者の地域における支援を担う保健師と病院との連携体制が整備され,双方に活用されることにより,地域や病院における療養者が望む生活に向けた支援がより充実すると考えられる.
3. 研究の限界と今後の課題本研究の限界として,研究参加者の半数以上が女性であり,研究参加者を精神状態が安定している者に限定していることが挙げられる.今後の課題として,PD療養者の現在の主体性が今後どのように影響するか検討していく必要がある.本研究で対象としていない若年性PD療養者やYahr IV~V度の重度の療養者に焦点をあて,PD療養者の主体性をより広く理解することが必要である.
本研究を進めるにあたり,研究にご参加くださった療養者の皆様とご家族,並びに研究に多大なるご協力をいただきました神経内科病院院長様,看護部長様,スタッフの皆様に心より感謝申し上げます.
本研究に開示すべきCOI状態はない.