日本公衆衛生看護学会誌
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研究
精神疾患を患う母親をもつ子どもの生活体験と病気の気づき
羽尾 和紗蔭山 正子
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2019 年 8 巻 3 号 p. 126-134

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Abstract

【目的】精神疾患を患う親をもつ子の生活体験,親の病気への気づきと対処,および,子ども時代に必要であったと思う支援を記述することを目的とした.

【方法】20–50代の子6名にグループインタビューを行い,逐語録を質的記述的に分析した.

【結果】研究協力者の精神疾患を患う親は,全て母親であった.子ども時代には《家で落ち着けない》《睡眠に支障が出る》《経済的に困窮する》《学業や交友関係に支障が出る》《家事を手伝う》《親に情緒的ケアをする》《親に医療的ケアをする》などの生活体験をしていた.病気への気づきと対処として《他の家との比較で気づく》《親が病気だと知るが状況は変わらない》《親が病気と知り重荷になる》などのカテゴリー,子ども時代に必要であったと思う支援として《病気の説明》《積極的な介入》というカテゴリーが生成された.

【考察】子の生活体験は,親の精神疾患の影響を受けており,支援することで改善する可能性があると考えられた.

Translated Abstract

Purpose: The purpose of this study was to describe the perceived life experiences, awareness of parental illness, coping methods, and perceived need for support during childhood among adults who had a parent with mental illness.

Methods: A group interview was conducted with six adults aged 20–59 years. Data were transcribed and analyzed descriptively.

Results: All participants had mothers with mental illness. The participants reported experiencing an “unsettled home,” “trouble sleeping,” “economic difficulties,” “difficulties in academic work and friendship,”, and a need to provide “assistance with housework,” “emotional care for their parent,” and “medical care for their parent” during childhood. Categories that emerged from the data reflected an awareness of the parental illness and strategies for coping were “awareness of being different from other families,” “awareness of the parental illness left their situation unchanged,” “burdened by awareness of parental illness,” and “under need for support,” In addition, participants needed an “explanation of the illness” and “assertive support.”

Discussion: Parental illness affects the lives of their children, which could be improved by providing the necessary support.

I. 緒言

本邦の精神障害者数は390万人を超え,増加している(厚生労働省,2015).精神保健医療福祉施策が入院医療中心から地域生活中心へと進められる中,地域で暮らす精神障害者が増え,親になる人数の増加が予想される.精神疾患を患う親をもつ子の割合に関する国内の報告はないが,欧米では子の15–23%が精神疾患を患う親と暮らしていると推定されている(Leijdesdorff et al., 2017).

精神障害の親をもつ子の32%が将来的に精神障害を発症すると報告されており(Rasic et al., 2014),予防的観点からも子への支援が必要である.親の精神疾患が子の成長発達に否定的な影響を及ぼす懸念は,1960年代から指摘されてきたにもかかわらず,子の日々の生活は社会に認識されてこなかった(長江ら,2013).海外では子の体験を記述した質的研究が蓄積され,メタ統合の論文が出ている(Gladstone et al., 2011Murphy et al., 2011Yamamoto et al., 2017).本邦でも,近年,精神疾患の親とその子の支援を発展させる取り組みが始まった(親&子どものサポートを考える会,2019).精神疾患を患う親をもつ成人した子による自主的な会が発足し,体験談をまとめた書籍(横山ら,2017)が出版されるなど,子の体験や思いが社会に発信されるようになってきた.

子の体験については,田野中ら(2016)が1事例ではあるが,親が精神病状によって家事や育児が難しくなり,子が家事全般を担うといった困難な体験を報告している.親が家事や育児に支障をきたすとその役割を子が担うことがあり,そのような子をヤングケアラーと言い,本邦でも近年,取り組みが始まっている(日本ケアラー連盟,2019).ヤングケアラーとは「家族にケアを要する人がいる場合に,大人が担うようなケア責任を引き受け,家事や家族の世話,介護,感情面のサポートなどを行っている,18歳未満の子ども」である(澁谷,2018,p.24).ヤングケアラーの中には親が精神疾患である子が一定数含まれていると報告されている(澁谷,2014)が,精神疾患を患う親に育てられる子のケアラー役割の具体的な実態はほとんど報告がない.本邦における精神疾患を患う親をもつ子への支援を検討するには,ケアラー役割を含めた子の生活体験を記述した研究を更に蓄積する必要があり,特に地域で子を支援する公衆衛生看護実践では,生活体験に関する具体的な理解が必要である.

精神疾患の親に育てられる子が苦悩する主要な問題としては,ケアラー役割以外に,親の言動を理解できないことがある(Gladstone et al., 2011Yamamoto et al., 2017).子に親の疾患をどのように伝えていくかという点は,精神疾患の親をもつ子の支援を考える上で欠かせない重要な視点であり,伝えることの助けとなる書籍(ぷるすはるは,2019)も充実してきている.大人が親の病気を伝えなくても,子はある時点で「自分の家が普通ではない」と認識すると報告されている(Gladstone et al., 2011朝日新聞,2017).子が親の病気や家の異常に気づき,知った時に子がどのように捉えて,その後にどう反応しているかを把握することは,親の疾患の子への伝え方を考える上で有益である.

さらに精神疾患の親に育てられる子への支援策がほとんど講じられていない本邦において,必要な支援を検討するためには,成人してから当時を振り返り,成人するまでの子ども時代に必要と思う支援内容を把握することも有益だと考えられる.

したがって本研究は,精神疾患を患う親をもつ子の生活体験,親の病気への気づきと対処,および,子ども時代に必要であったと思う支援を記述することを目的とする.結果を踏まえ,精神疾患を患う親に育てられる子の生活への支援や,親の病気の伝え方を含めた公衆衛生看護活動における子への支援のあり方に示唆を得たい.

II. 用語の定義

本研究において生活体験とは,川田ら(2005)の定義を参考にして「日常生活に関連した動作や生活活動に関連した体験」とする.

III. 方法

1. 研究デザイン

人間の体験を記述する際に適した研究デザインとして,質的記述的研究(グレッグ,2007)を選択した.

2. 研究協力者

精神疾患を患う親と生活して育ち,成人した子を対象とし,機縁法で依頼した.子ども時代の辛い体験を語ることが精神的負担となる人もいると考えられた.そのため,すでに自身の体験を話したことのある,子の自主的なグループに定期的に参加している人に研究協力を依頼した.

3. データ収集

調査当時(2017年5月)は子の自主的なグループが全国的にほとんどなかったため,一つのグループに研究協力を依頼した.そのグループに定期的に参加している人は,皆就労している上,関東・東北・北海道に居住しており,インタビューの機会を設定することが難しかった.そのため,集まりの開催日に合わせて2時間のグループインタビューを1回実施した.実施者は3名で,うち2名は研究協力者と継続的な交流があり,質的研究の経験がある看護系教員であった.インタビューガイドの内容は,子どもの頃に他の家との違いに気づいた瞬間,他の家と違うと思ったこと,その頃の生活体験や思い,当時必要だった支援などであった.インタビュー内容を全員に一通り質問した後,語られた内容でより詳細に内容を確認したい話題を取り上げた.インタビューは同意を得て録音した.

4. 分析方法

音声データから逐語録を作成し,精神疾患を患う親と生活した子にとって,自身の子ども時代の生活体験はどのようなものであったか,どのように親の病気に気づき対処したか,当時必要だった支援は何かという視点で,文脈のまとまりごとにコードを作成した.コードの相違点・共通点で比較し,抽象度を上げてサブカテゴリー,カテゴリーを生成した.結果の確実性を確保するために研究協力者のうち体調不良1名を除いた全員にメンバーチェッキングを行い,納得できる結果だと確認した.

5. 倫理的配慮

本研究は,大阪大学医学部附属病院観察研究倫理審査委員会(2017年4月24日,No. 16283-2)の承認を得た.研究の目的や協力の自由などを口頭および書面で説明し,書面で同意を得た.面接の場所は人の出入りのない会議室で行った.

IV. 結果

1. 研究協力者の概要

研究協力者は,男性2名,女性4名の計6名であり,年齢は20代から50代だった.全員が社会人で就労しており,精神科治療は受けていなかった.親が発症した時の研究協力者の年齢は,2~3歳が3名,7歳が2名,14歳が1名であった.親は全員が母親であり,疾患(重複)は,統合失調症4名(研究協力者:A,B,E,F),気分障害3名(同:C,D,E),不安障害・パーソナリティー障害1名(同:D)であった.インタビュー時は全員が治療中であった.研究協力者の子ども時代では,未治療は1名(同:A)であり,その方以外では治療が開始していたが,全員の親で病状が不安定な時期がみられた.研究協力者が幼少期の頃は,親全員が配偶者と同居しており,研究協力者1名を除いてきょうだいがいた.

2. 子ども時代の生活体験

カテゴリーの一覧を表1に示す.文中の《 》はカテゴリー,〈 〉はサブカテゴリー,「 」と斜体はインタビューデータ(末尾アルファベットで研究協力者を識別),( )は著者による補足を示す.「親」は精神疾患を患う親を指す.以下,全体像および各カテゴリーを説明する.

表1  精神疾患を患う親との生活を通した子ども時代の生活体験
カテゴリー サブカテゴリー
家で落ち着けない 家が安全ではない
夫婦関係が安定しない
睡眠に支障が出る 眠りが浅い
朝起きられない
経済的に困窮する 金銭的余裕がない
自分の物を買えない
生活習慣が身につかない 入浴・着替え・洗濯の習慣がない
学業や交友関係に支障が出る 勉強に集中できない
不登校になる
馬鹿にされていじめられる
友達を家に呼べない
家事が行き届かない 食生活がままならない
掃除や洗濯が十分でない
家事を手伝う 掃除をする
食事をつくる
きょうだいで分担して家事をする
親に情緒的ケアをする 泣く母に寄り添う
母に寄り添うのが自分の役割になる
親に医療的ケアをする 受療の支援をする
服薬の支援をする
親から離れる 家に帰らない
親と話さない
家族に支えられて生活する 父の存在に助けられる
周囲に支えられて生活する 近所の人に助けられる
友達の家族に助けられる
学校に助けてもらえない 学校などから受けた支援はない
学校は気づいても何も言わない

親は精神症状によっては感情的に子に当たることがあり,子は自分の〈家が安全ではない〉と感じていた.また,離婚と再婚を繰り返したり,夫婦喧嘩が絶えず〈夫婦関係が安定しない〉状況にあるなど,《家で落ち着けない》生活をする子もいた.

安心して寝れなかった.調子悪いとすぐトンカチ投げてきたり,家にいるのが危険で,学校行ってる時の方が安全.(F)

子は,親が泣いている声や,喧嘩する声を夜でも聞かされており,音に敏感になったり,安心して眠ることができず〈眠りが浅い〉.親が朝起きることができず,そのため親が子を起こすこともなく,一家で寝過ごし,〈朝起きられない〉状態になっている子もおり,《睡眠に支障が出る》生活を送っていた.

僕も喧嘩になって,足音したらすぐ目が覚めるとか本当に眠りが浅い感じがしてた.(D)

子は《経済的に困窮する》家庭で暮らしていた.親の中には躁状態で浪費したり,金銭管理が苦手な者がいた.〈金銭的余裕がない〉お金のない「ギリギリの生活」で子は〈自分の物を買えない〉こともあった.

お金にもともと余裕がない家庭ではあったんですけど,貯めることは一切なかったと思います.作んないけど,野菜を大量に箱で来ちゃうから,それが腐って.(F)

周りの人とかで買ってもらったとか聞くと羨ましいなみたいな感じ.(E)

子の中には,親から生活習慣を教えられた記憶がない者もいた.そのため,〈入浴・着替え・洗濯の習慣がない〉状態であり,《生活習慣が身につかない》まま生活していた.

生活習慣が身に付いてなくて,お風呂に入るとか,着替えとか,洗濯とか(わからなかった).(F)

子は〈勉強に集中できない〉〈友達を家に呼べない〉ような家庭環境で育ち,服が汚れていると〈馬鹿にされていじめられる〉こともあった.中には〈不登校になる〉など,《学業や交友関係に支障が出る》子もいた.

勉強どころじゃないと思うんですよね.勉強しなきゃとかいう家庭環境じゃないと思う.(A)

缶詰だけの食事や昼食が用意されていないなど〈食生活がままならない〉ことや,「ゴミ屋敷」のように〈掃除や洗濯が十分でない〉こともあり,《家事が行き届かない》家庭に育つ子もいた.

給食のない土曜日は食事が用意されず,人の家で食べさせてもらったり.(F)

親の中には料理,掃除,洗濯,買い物など,他の家では親が担っている家事をできない者もいた.子は,〈掃除をする〉〈食事をつくる〉など《家事を手伝う》ことや〈きょうだいで分担して家事をする〉こともあった.

買い物も行かされたし,お母さんとしてやるべきことを,小さいうちからやっていた.(B)

親が精神的に不安定になると,子が《親に情緒的ケアをする》こともあった.1人で〈泣く母に寄り添う〉こともあった.〈母に寄り添うのが自分の役割になる〉ことを受け入れていた.

負担は負担でしたけど,嫌々寄り添っていたわけではない.母のそばに寄り添うことが自分の役割であって,やりたいことでもあった.(C)

統合失調症を患う親が通院や服薬を嫌がると,〈受療の支援をする〉ことや〈服薬の支援をする〉こともあり,《親に医療的ケアをする》役割を子が担うこともあった.

近所のおばさんに,お母さんはもう治らない病気だから,あんたたちがしっかりしなきゃいけない,薬の袋とかたまに見てあげなみたいなことも言われて.(B)

子の中には,〈家に帰らない〉〈親と話さない〉といった現実逃避をして《親から離れる》ことで自分を守る子もいた.

何かほんとうに家にいたくないような家だったなって.中学校なんかほとんど家にいなくて,お友だちがたまれる所があって,ほとんどそこに帰ってる感じで,家に帰らなかった.(B)

母親が朝起きられなくても,父親に朝起こしてもらえたり,経済的にも困窮していなかったりと,〈父の存在に助けられる〉など《家族に支えられて生活する》側面があった.

父が自営業で朝早かったので,家も狭かったから,父が起きると必然的にみんな起きるみたいな感じではありましたね.(F)

気にかけてくれる〈近所の人に助けられる〉ことやご飯を食べさせてもらうなど〈友達の家族に助けられる〉ことがあり,《周囲に支えられ生活する》経験をした子もいた.

家に介入してくれた近所の人たちがいたので,私たちは結構救われたけど,もしそれがなかったら,子どもが食べられない状況とか(になっていたのではないか).(B)

しかし,〈学校から受けた支援はない〉,〈学校は気づいても何も言わない〉と感じるなど《学校に助けてもらえない》感覚があった.

先生やカウンセラーに相談することはなかった.思ってること何でも言った方がいいよみたいな感じだったけど,親のことを大人に相談するっていう概念もなかったですね.(E)

3. 親の病気への気づきと対処

カテゴリーの一覧を表2に示す.

表2  子どもが親の精神疾患や家庭の違いに気づく時とその後
カテゴリー サブカテゴリー
自分の家が普通と思っていた 他の家と比べない
自分の世界が当たり前と思う
他の家との比較で気づく 友達はできることを自分はさせてもらえない
自分の家にはない習慣が他の家にある
他の家では親がすることをさせられている
親の状況が他と違う
友達の家に行って違いに気づく
親が病気だと知らされる 病気だと聞く
病名を知る
親が病気だと知るが状況は変わらない 衝撃を受ける
何も変わらない
相談できない
病気を実感するまで時間がかかる
親が病気と知り重荷になる 助けなければいけない
離れにくくなる

小さい頃は自分の生活しか知らず,比較対象がないため,〈他の家と比べない〉.子は〈自分の世界が当たり前と思う〉中で生活しており,《自分の家が普通と思っていた》.

子どもの時は違うとはあまり感じなくて,やっぱり世界がそこしかないからわからなかった.(E)

小学校,中学校と成長すると友達の行動,話,容姿,家の様子等から,《他の家との比較で気づく》経験をしていた.〈友達はできることを自分はさせてもらえない〉〈自分の家にはない習慣が他の家にある〉〈他の家では親がすることをさせられている〉といった他の家との違いに気づいた.特に〈親の状況が他と違う〉と感じていた.他の家では楽しい食卓や美味しい料理があり,〈友達の家に行って違いに気づく〉こともあった.

中学か高校かな.みんな学期が終わると制服をクリーニングに出すんです.その習慣うちにはなかったので,洗われちゃってて.友だちはクリーニングのことを言っててそうなんだと思って.(A)

大人になってから病気だと知った人は1名のみであり,その他は幼稚園の頃から〈病名を知る〉機会や,小学生から高校生で〈病気だと聞く〉機会があり,大人になるまでに《親が病気だと知らされる》経験をしていた.

(小学)6年生ぐらいの時,寝てる時にお客さんと親が病気の話をしてるのをたまたま聞いちゃって.病気の名前を知ったっていう感じなんですね.だからといって何かしなきゃとか,手伝わなきゃとか,自分が頑張んなきゃとかは一切思わなかったかな.変わりはしなかったし,自分を保つのに精一杯でした.(D)

病気だと知り〈衝撃を受ける〉が,他の家との違いを何とかしたいと思っても〈相談できない〉ため,〈何も変わらない〉生活が続き,《親が病気だと知るが状況は変わらない》ままであった.病名ではなく具体的に〈病気を実感するまで時間がかかる〉のが現実であった.

近所の人が診断名をちゃんと子どもたちに教えなきゃ駄目と言い出して.(略)そもそも何で具合悪いのか,何で病気になったのか,何で精神病なのかとか全くわからなくて,治らないって聞いた時はショックが大きくて,逃げ出したかった.(B)

家に境界型人格障害とかって本が幼稚園ぐらいから置いてあって,名前は知ってたんですけど,中身は全然もちろんわからなくて,病気のことがわかったのは大学入ってからだった.(D)

また,子の中には,親の病名を知ることで病気だから〈助けなければいけない〉と思ったり,距離を取りたい親から〈離れにくくなる〉と感じ,《親が病気と知り重荷になる》経験もしていた.

病気だってわかることで助けなきゃいけないかなっていう実感がすごくあって.親も親で,病気ってわかったらじゃあ助けてだとか,病気だから許されるでしょとかって言っちゃうような親だった.(D)

4. 子ども時代に必要だったと思う支援

カテゴリーの一覧を表3に示す.

表3  子ども時代に必要だったと思う支援
カテゴリー サブカテゴリー
病気の説明 相談できたかもしれない
自分が楽になれたかもしれない
親のことを嫌いにならずにすんだかもしれない
対応が変わったかもしれない
積極的な介入 相談できる存在がほしかった
自分を客観視してくれる存在がほしかった
家庭に介入してほしかった
子どもにまで支援の手を伸ばしてほしかった
居場所がほしかった

子は,病名を知らされただけでは生活に結び付けて親の病気を理解することはできていなかった.そのため,病気を理解していれば〈相談できたかもしれない〉し,病気だとわかれば気持ちが落ち着き,〈自分が楽になれたかもしれない〉と振り返った.もう少し早く病気のことを知れば〈親のことを嫌いにならずにすんだかもしれない〉し,病気だと理解していれば「冷たく当たらなくても済んだ」かもしれないなど〈対応が変わったかもしれない〉と話し,病名だけではなく《病気の説明》をしてほしかったと振り返った.

病気だっていうのは小学校ぐらいの時に聞いたんですけど,結局それが何なのかわかんなかったから,みんなでだらしないとか,結構暴言を言ったりとかもしたんで,病気の悪化にも繋がるだろうしっていうのは後々.だからその時に病気だからこうなるから周りがこうしてあげたらいいよって,もう少し知ってればなと思います.(E)

子は困難な生活状況にあっても,自分で判断や行動をすることは難しく,《積極的な介入》が必要だと語った.相談できずに抱え込んでいたため,安心して〈相談できる存在がほしかった〉.また,家族という狭い世界だけではなく,〈自分を客観視してくれる存在がほしかった〉と語った.

客観視してどうかしてくれる人,家族という狭い世界だけじゃない知識や関わりが,今思えば必要だったと思います.子どもが発信できるような環境や,親が受診できるような環境が必要な支援なのかなとも思って.(C)

また,訪問看護,ヘルパーなど〈家庭に介入してほしかった〉し,親に支援が入る時に,〈子どもにまで支援の手を伸ばしてほしかった〉と思っていた.

支援者が親と繋がるタイミングがあったと思うんですけど,そういう時に子どもの方にも手を伸ばして一言声をかけてくれたら少し助かったのかなとは思います.(C)

子は,生活が困難な状況にあっても1人で苦しんでおり,自分の境遇を自然に話せる〈居場所がほしかった〉と振り返った.

受け入れてくれそうな暖かい居場所が地域にあるといいですね.今日何食べたとか,うちのお母さん今日寝てんだよみたいなのが自然に話せるような子ども食堂みたいな場所があったら,すごい食べてたら,食べてないんじゃないかとか気づけると思うし,行けば食べさせてもらえるような場所があったらいいですよね.(B)

V. 考察

1. 子の生活体験の背景にある親の精神疾患と必要な支援

本研究は,精神疾患の親に育てられた子の生活体験に焦点を当てて具体的に記述した.ここでは子の生活体験の背景にある親の精神疾患,および,必要な支援について考察する.まず,子は《家で落ち着けない》生活や《睡眠に支障が出る》など,安全や基本的生活が脅かされる体験をしていた.この体験は,興奮状態などの親の精神症状の悪化に伴って生じていた.特に統合失調症の再燃時や気分障害の躁状態では子の安全確保を意識した支援が必要だと考えられる.

《家事が行き届かない》家で生活していた子は,親の不十分な《家事を手伝う》ヤングケアラーの役割を担っていることもあった.認知機能障害があると作業遂行に支障をきたすため家事が十分にできないことがある.特に統合失調症では認知機能障害が家事や仕事などの社会機能に強く関連している(岩田,2015).家事ができないことは,障害故に生じている場合が多いと考えるため,現在であれば障害者総合支援法の家事援助サービスを利用できるように支援することが必要であろう.

子は,家事だけでなく《親の情緒的ケアをする》《親の医療的ケアをする》というケアラー役割を担っていた.情緒的ケアは気分障害,不安障害・パーソナリティー障害の方で多く語られ,医療的ケアは服薬中断で再発しやすい統合失調症の親について語られており,精神疾患に関連したケアラー役割と考えられる.これらについては,訪問看護や保健所による受療援助などの導入が有効だと考えられる.

子は《経済的に困窮する》生活基盤の不安定な家庭で育ち,《学業や交友関係に支障が出る》こともあった.精神疾患そのものの影響だけでなく,貧困やヤングケアラーとしての役割を担うことによって子の将来にも影響を与えていると考えられる.障害者の98%が相対的貧困の基準となる年収200万円未満であると報告されている(きょうされん,2016).家庭の経済状況は子の学習や進学,交友関係にも影響を及ぼし得る.親の就労支援や金銭管理支援の他,配偶者が就労継続できるような家庭全体の生活水準の底上げにつながる支援も必要であろう.

2. 親の病気の伝え方

本研究では,大人になった子どもが子ども時代にしてほしかったこととして《病気の説明》があげられた.医師からの病名の告知は,配偶者に対しては78.4%の方に行われていると報告されているが(上野ら,2010),子に対しては6割以上で行われていないという報告がある(土田,2013).本研究では,子が病気を理解することの意義として,〈相談できたかもしれない〉〈自分が楽になれたかもしれない〉〈親のことを嫌いにならずにすんだかもしれない〉〈対応が変わったかもしれない〉ということがあげられた.以上より,病気を子が理解することの意義は大きく,子が病気を理解することで子自身の精神的負担を軽減するとともに,親との関係性を好転させ得ると考えられる.

一方で,病気の伝え方には課題があった.本研究において子は,親の病気を伝えられる以前から病気や家庭の違いに気づいていた.《親が病気だと知らされる》機会もあったが,病気という事実を知るだけでは子は自ら相談もできず,《親が病気だと知るが状況は変わらない》ままであった.《親が病気と知り重荷になる》というように子の負担を増すこともあった.子は病気だと知るだけでは親に対してどうすれば良いのかわからず,病気を理解することによって,今までの生活に自分の中で折り合いをつけることができていた.子には,病名を知らせることよりも,親の疲れやすさや家事の苦手さといった具体的な生活場面で病気を理解できるように説明することが重要であり,子の病気への理解を深めることにつながると考えられる.

3. 子ども時代に必要な支援

本研究では全員が《学校に助けてもらえない》経験をしており,子ども時代を振り返って,学校に限らず支援者からの《積極的な介入》を望んでいた.本研究では子自らが親のことを学校に相談することはなかった.近年は学校でスクールカウンセラーなどが配置されているが,学校においてメンタルヘルスに関する教育を行ってスティグマの払拭に努力することや,子がSOSを発信しやすい環境を整えることが重要だと考えられる.

子は,〈家庭に介入してほしかった〉と語り,親に支援が入るタイミングで〈子どもにまで支援の手を伸ばしてほしかった〉と思っていた.また,本人の配偶者(子の父親)の関わりが重要だと考えられた.父親の関わりによって,母親のうつ症状が子どもに及ぼす影響が軽減されるという報告もあり(Chang et al., 2007),配偶者を支援することは子の生活にとって必要である.これらから,支援者は,子や配偶者を含めた家族全体に目を向ける必要があり,援助希求の低い子や家族からの支援ニーズの表出を受け身で待つのではなく,より《積極的な介入》が必要だと考えられる.精神医療,精神保健福祉,生活保護,児童福祉,といった関係機関と連携し,保健師などが家庭に入り,家族全体を視野に入れた支援を展開することが重要であろう.

〈居場所がほしかった〉と「子ども食堂」のような居場所の存在に期待を寄せていた.相談室というような特別な場所だけでなく,地域でどの子も通える場は,子にとって通う敷居が低いと考えられる.地域で子が集まり,大人がさりげなく見守れるような場など,子がSOSを発信しやすい環境を地域の中につくっていくことも有効だと考えられる.

4. 研究の意義と限界

本研究では,いまだ十分に明らかになっていない,精神疾患を患う母親をもつ子の生活体験を記述した.また,親の病気についての説明や,子の生活を向上させるために必要な支援について,公衆衛生看護活動上の示唆を得ることができた.

本研究の限界として,まず研究協力者全員で精神疾患を患う親が母親であったため,父親が精神疾患である場合の記述ができていない.子の集いに参加する人は母親が精神疾患である場合が多く,他の研究でも母親の体験しか記述できていない(塩澤,2017).これは母親が精神疾患に罹患した場合,家事や育児役割といったジェンダーの関係で,父親の場合よりも子が受ける影響が大きく,その結果,同じ立場で体験を共有したいと思い,集まりに参加していると考えられる.次に,本研究では,親が治療中であっても病状が不安定な時期がみられ,また家庭にほとんど支援が入っていなかった.病状が安定している親の場合や支援を受けている場合は,子が受ける影響は小さいと考えられ,子の生活体験も本研究で示した困難よりも少ないと考えられる.その他,研究協力者が6名と少ないことがあげられる.しかし,国内の研究が限られている現状においては,一定の意義があると考える.また,研究協力者は,同じ立場の子のグループに自ら参加している人であり,精神科の治療を受けていない人である.よって,今回の結果が対処能力と健康度が比較的高い子の姿を記述している可能性がある.最後に,グループインタビューでは,相手の語りに左右された可能性や他者に知られたくないことが話されなかった可能性がある.しかし,個別インタビューでは思い出すことができなかった共通する体験がグループインタビューの中で想起され,子の体験がより詳細に語られたという側面も考えられる.

VI. 結論

精神疾患を患う母親をもつ子の生活体験は,安全や基本的生活が脅かされる体験や,ヤングケアラーとしての役割や貧困といった負担のある体験だった.子の生活体験は,親の精神疾患の影響を受けており,支援することで改善する可能性があると考えられた.親の病気については,子が病気を理解できるような伝え方が適切であり,早い時期から伝え方を検討する必要があると考えられた.また,子は学校などからの支援を求めており,より積極的に支援する必要があると考えられた.

謝辞

本研究にご協力いただいた子どもの立場の方およびインタビューの実施を補助していただいた埼玉県立大学横山惠子先生にお礼申し上げます.本研究はJSPS科研費JP16K12330の助成を受けたものです.本論文は,平成29年度大阪大学医学部保健学科看護学専攻特別研究の論文を修正したものである.本研究で開示すべきCOI状態はない.

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