2020 Volume 9 Issue 3 Pages 165-171
目的:保健師教育の効果を評価する「保健師教育の技術項目と卒業時の到達度」(以下,到達度)と教員の指導タイプ(経験型・指導型)および教師効力との関連について明らかにする.
方法:大都市圏の大学教員74校222名を対象とし,無記名自記式質問紙調査を実施した.回収46件(回収率20.7%)のうち有効回答34件(15.3%)について,教員の指導タイプおよび教師効力と到達度の関連を分析した.
結果:到達度のうち3つの大項目の一つである「地域の健康課題を明らかにする」について,経験型は【個人/家族】【集団/地域】とも学生の「到達あり」の割合と関連していた.教師効力は「カンファレンスを実施できる自信」の因子のみ,学生の「到達あり」の割合と関連があった.
考察:経験型実習教育は,「地域の健康課題を明らかにする」について,【個人/家族】【集団/地域】とも学生の到達度向上に寄与する可能性があることが示唆された.
近年,保健師教育は,健康格差の増大や新たな健康危機など,多様で複雑な課題に対応できる保健師養成が求められている.高度な実践力を有する保健師の養成のためには,質の高い保健師教育・評価が必要となる.厚生労働省(2008)は,技術教育の到達度を評価する際の参考指標として「保健師教育の技術項目と卒業時の到達度」(以下,到達度とする)を示し,更に全国保健師教育機関協議会(2014, 2015)は,保健師教育におけるミニマム・リクワイアメンツ全国保健師教育機関協議会版,保健師教育評価の指標全国保健師教育機関協議会版(2016)を示した.鈴木ら(2015)は,厚生労働省の指標をもとに,学生の到達度評価を行っており,到達度を高めるための効果的な教育についての議論もされている.
また,2009年の保健師助産師看護師法の改正による保健師養成課程の見直しにより,教育年限が従来の6か月以上から1年以上に延長され,2017年の実態調査(全国保健師教育機関協議会,2018)では,看護系大学では選択制へ移行した大学が77.8%,大学院が6.4%と変化した.しかしながら,教育効果を高めるためにどのような教育方法を用いることが望ましいかについては,ほとんど検討されていない.
公衆衛生看護学実習で学ぶ学生が卒業時の到達度を獲得し,公衆衛生に視点を広げる看護観を得ていくための教員による効果的な援助を明らかにすることは重要である.牛尾(2016)は,看護職として目の前の対象者のニーズに応えるべく,必要な知識・技術を求め,自ら力量を高め,変化に対応できるための能力を育てることが重要であると述べており,安酸(2017)は,学生が学ぼうとしたときの人的環境は実習指導者・教師であると述べている.看護学教育では,学生が主体的に学ぶ力を育成する方法として「経験型実習教育」が安酸(1997)により提唱されている.しかし,保健師教育に関して「経験型実習教育」を活用し評価した研究は見当たらない.
安酸(2015, p. 56)は,教育方法は教員の指導タイプとして,「経験型実習教育」(経験の意味づけに焦点.以下,「経験型」とする.)と「指導型実習教育」(行動の形成に焦点.以下,「指導型」)に分けることができるとしている.「経験型」の教師による援助の方が,直接的経験を教材化し反省的思考を学べることで,学生は思考を深め行動が探求的になり,教育効果があると述べている(安酸,2015,p. 53).
また,安酸(2015, p. 46)は教育効果について,教育方法以外にも教師の自己効力感(以下,「教師効力」とする)の影響が考えられると述べている.Bandura(1997)は,教師効力の高い教師は学生の修得体験を作り出すが,教師効力の低い教師は,学生の認知的発達を衰えさせるような学習環境を生み出すことを明らかにしている.
そこで,本研究では,教育効果を評価するものとして,到達度評価を用い,到達度と教員の指導タイプ(経験型実習教育/指導型実習教育)および教師効力との関連を明らかにすることを目的とした.本研究の概念枠組みを図1に示す.尚,ここでは教師効力を「教師が学生の学習に効果的な影響を及ぼす信念や自信」と定義する.
概念枠組み
本研究では,大都市圏で大学の保健師教育にかかる実習を担当する教員(非常勤も含む)を対象とし,1校につき3人に質問紙調査への回答を依頼した.交通至便で教員が直接指導する時間が確保されやすいと思われることから,関東・中京・近畿・北九州福岡の4大都市圏内の大学74校222部に郵送法による無記名自記式質問紙調査を2017年9~11月に実施した.質問項目は属性(職位,性別,年齢,実習指導歴,行政保健師歴),保健師教育の技術項目と卒業時の到達度(厚生労働省医政局看護課,2008),教師効力,実習教育の指導タイプ(経験型/指導型)を把握する項目とした.
2. 調査項目 1) 保健師教育の技術項目と卒業時の到達度大項目1「地域の健康課題を明らかにする」は,【個人/家族】,【集団/地域】の各11小項目,大項目2「地域の人々と協働して,健康課題を解決・改善し,健康増進能力を高める」は,【個人/家族】(26小項目),【集団/地域】(28小項目),大項目3「地域の人々の健康を保証するために,生活と健康に関する社会資源の公平な利用と分配を促進する」は,【集団/地域】(22小項目)を用いた.各小項目の到達度レベルは「I:ひとりで実施できる」,「II:指導のもとで実施できる」,「III:学内演習で実施できる」,「IV:知識としてわかる」の4段階評価いずれかが定められている.
鈴木ら(2015)の先行研究を参考に教員が指導した学生の卒業時の到達度の各項目について,その項目で求められる到達度レベルに達した学生が8割を超えたか否かを問う2択として,大項目別に【個人/家族】,【集団/地域】に分けて8割を超えた小項目数を合算した.
2) 実習教育の指導タイプの分類家庭訪問事例の指導場面において,「経験型」の実習場面の教材化のモデル(安酸,2015,p. 89)より,教師による援助に着目して回答欄を設定した.それぞれの段階に実習指導する教員としてどのように発問するかを自由記述で回答を得て,保健師教育の経験を有し,経験型実習教育について理解している複数名で討議のうえ指導のタイプを分類した.
(1) 家庭訪問事例の提示と指導内容在宅で療養中の筋萎縮性側索硬化症患者で,病状進行がみられるものの,今後の生活について家族との意見の相違がみられる事例を提示した.
訪問を終えた学生に対する指導場面を以下のように設定し,①~⑥に自由記述を求めた.
➢ 最初に,どのように声をかけますか?
教師の発問(1) ( ① )
学生の疑問(1)「Aさんはこんなに病状が悪化しているのに,このまま放置していいんですか?」
➢ 保健師が状況を放置しているようにみえた学生に,
教師の発問(2) ( ② )
学生の発言(2)「Aさんの在宅生活は限界です.家族とAさんのコミュニケーションがとれていないと思う.」
➢ ジェノグラム・エコマップを記入して
教師の発問(3) ( ③ )
学生の発言(3)「Aさんや家族の状況や気持ちを中心にすえないとダメですよね.」
➢ 家庭訪問の場面を振り返って
教師の発問(4) ( ④ )
学生の発言(4)「ただ話を聞くだけでなく,聴診器があったのだから,肺音聴いて呼吸状況を確認してもよかった.」
➢ 関わりの方向性を考えて
教師の発問(5) ( ⑤ )
学生の発言(5)「まず,Aさんと保健師の信頼関係を強化して,次のステップをAさんと家族と模索するのを目標に看護計画立ててみます.」
➢ この家庭訪問の経験から学んだことは
学生の発言(6)「ついAさんの病気中心に考えてしまいましたが,それでは生活の中では看護にならないと気がつきました.貴重な経験をさせていただきました.」
教師の発言(6) ( ⑥ )
(2) 指導タイプの分類方法質問項目①②では,学生の気持ちを受けとめる前に指導に入るものを「指導型」,学生の気持ちを受けとめリフレインに該当する発言があれば「経験型」とし,ここまでをI(図2)とする.
経験型実習教育/教師による援助の流れ
次に③~⑥までをIIとして構造化し,「経験型」の教育的支援を例示する.
質問項目③ 情報整理と思考整理を促し,学生の経験を明確化
質問項目④ ⑤理解し,解決策を一緒に考える.このようにオープンリードで学生を誘導しながらオープンクエスチョンで「答えを限定せず,自由に話すことができる応答」で対話
質問項目③④⑤と連動して,
質問項目⑥ 最後に学生の学びを支持するI(アイ)メッセージを伝える.
これらに該当する回答のあったものを「経験型」とし,それ以外を「指導型」と分類した.
3) 教師効力坪井ら(2001)の「実習教育に対する教師効力尺度」は信頼性,妥当性が確保された尺度である.この尺度を用い,7因子(第1因子:カンファレンスを実施できる自信:5項目,第2因子;看護実践能力を活用できる自信:4項目,第3因子:学習者としての学生を尊重する自信:5項目,第4因子:学びを深めるために技法を活用できる自信:4項目,第5因子:実習教育の準備ができる自信:4項目,第6因子:学生の状況を判断できる自信:3項目,第7因子:学生の学びを促進できる自信:3項目)計28項目を各因子で合計点を算出し,4 段階の回答肢(「すごくできる」1点,「わりにできる」2点,「ややできる」3点,「あまりできない」4点)で質問し,評定の際は逆転とした.各因子で合計点を算出し,合計点を項目数で割った.
3. 分析方法属性と指導タイプとの関係を検討するためフィッシャーの正確確率検定を行った.教員の指導タイプと卒業時到達度との関連は保健師実習で獲得するものを想定していることにより「卒業時の到達レベル:IV知識としてわかる」項目と欠損値を除外してχ2検定を行った.指導タイプ・教師効力と到達度項目数との関連について,教師効力の7因子と到達度の2変数の関連をみて,有意であった第1因子と指導タイプを独立変数とし,到達度の大項目1の【個人/家族】と【集団/地域】の到達度レベルに達した学生が8割を超えたか否かを問う2択として8割を超えた項目数を従属変数とした重回帰分析を用いた.また,独立変数間の多重共線性について検討したところVIFの値は1.055であり問題はなかった.分析は統計ソフト SPSS ver. 24を使用した.
4. 倫理的配慮対象者には,調査の趣旨,プライバシー保護,回答の任意性などを記載した文書で調査を依頼すると共に,任意性が確保される方法で回収した.なお,本研究は藍野大学研究倫理委員会の承認を得て行った(承認日:2017年8月23日,承認番号:2017-009).
回収数は46件(回収率20.7%)であった.指導タイプでは無回答12件を除外した有効回答34件(15.3%)を分析対象とした.
2. 対象者の属性教員の職位は「教授・准教授・講師」12人(35.3%),「助教・助手・非常勤」18人(52.9%)の計34人(無回答4人)であり,行政経験は「なし」7人(20.6%),「あり」26人(76.5%)の計34人(無回答1人)であった.また,指導歴は「1–4年」14人(41.2%),「5年以上」19人(55.9%),の計34人(無回答1人)であった.
3. 指導タイプおよび教師効力について教師による学生援助の流れを6段階の質問にし,これに対する自由記述の回答を用い,タイプ分類をしたところ,表1に示したように,「経験型」11名,「指導型」23名であった.また,属性と経験型/指導型との関連を検討した.表2に示したように,職位,行政経験,指導歴との関連はなかった.
タイプ | 基準項目 | 人数 | |
---|---|---|---|
A (経験型) |
I・IIとも経験型 | 4 | 11 |
Iのみでは判別できないが,I・II全体として経験型 | 7 | ||
B (指導型) |
I・IIとも指導型 | 13 | 23 |
Iは経験型だが,IIは指導型 | 10 |
属性 | 経験型(人) | 指導型(人) | p値 | |
---|---|---|---|---|
職位 n=30 |
教授・准教授・講師 | 6 | 6 | .266 |
助教・助手・非常勤 | 5 | 13 | ||
行政経験 n=33 |
なし | 3 | 4 | .661 |
あり | 8 | 18 | ||
指導歴 n=33 |
1–4年 | 4 | 10 | .719 |
5年以上 | 7 | 12 |
注)検定方法 フィッシャーの正確確率検定
教師効力7因子は,すべての因子で項目平均値は3.0–3.3(4段階評定の3は「わりにできる」)であった.
4. 教員の指導タイプと卒業時の到達度との関連卒業時の到達度の各項目について,その項目で求められる到達度レベルに達した学生が8割を超えたか否かを指導した教員に質問し,指導タイプ別の到達度を表3に示した.大項目1「地域の健康問題を明らかにする」では【個人/家族】,【集団/地域】共に,経験型の到達度は指導型に比べ,有意に高くなっていた.大項目2「健康課題を解決・改善し,健康増進能力を高める」,大項目3「社会資源の公平な分配を促進する」では明らかな傾向は認められず,大項目2の【集団/地域】では,むしろ指導型の到達度が経験型より高くなっていた.
経験型(n=11) | 指導型(n=23) | p値 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
項目数合計 | % | 項目数合計 | % | |||
大項目1(小項目数) | ||||||
個人/家族(11) | 到達あり | 102 | 92.7 | 186 | 73.5 | <.001 |
到達なし | 8 | 7.3 | 67 | 26.5 | ||
欠損項目数 | 11 | 0 | ||||
集団/地域(11) | 到達あり | 98 | 89.1 | 179 | 70.8 | <.001 |
到達なし | 12 | 10.9 | 74 | 29.2 | ||
欠損項目数 | 11 | 0 | ||||
大項目2(小項目数) | ||||||
個人/家族(25) | 到達あり | 145 | 58.0 | 336 | 58.4 | .907 |
到達なし | 105 | 42.0 | 239 | 41.6 | ||
欠損項目数 | 25 | 0 | ||||
集団/地域(27) | 到達あり | 151 | 55.9 | 379 | 61.0 | .154 |
到達なし | 119 | 44.1 | 242 | 39.0 | ||
欠損項目数 | 27 | 0 | ||||
大項目3(小項目数) | ||||||
集団/地域(7) | 到達あり | 51 | 72.9 | 115 | 71.4 | .824 |
到達なし | 19 | 27.1 | 46 | 28.6 | ||
欠損項目数 | 7 | 0 |
注1)検定方法χ2検定
注2)小項目数は「卒業時の到達レベル:IV知識としてわかる」を除外した.
指導タイプ(経験型/指導型)と教師効力が到達度にどのように関連するかを,重回帰分析で解析した結果を表4に示す.
従属変数 | 大項目1(地域の健康課題を明らかにする) | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
個人/家族 | 集団/地域 | ||||||||
b | S.E. | β | P | b | S.E. | β | P | ||
(定数) | .250 | .236 | .297 | .228 | .234 | .338 | |||
指導タイプ(経験型/指導型) | .252 | .086 | .487 | .006 | .242 | .085 | .468 | .008 | |
教師効力・第1因子 | .030 | .015 | .322 | .054 | .034 | .015 | .379 | .029 | |
R 2乗(P値) | .274(.011) | .282(.010) |
大項目1「地域の健康課題を明らかにする」では,【個人/家族】,【集団/地域】共に,経験型が指導型より有意に到達度の高さに寄与していた.教師効力について,第1因子「カンファレンスを実施できる自信」が,大項目1の【個人/家族】では,到達度の高さに寄与する傾向があり,【集団/地域】では,有意に到達度の高さに寄与していた.この重回帰分析では,大項目1【個人/家族】のR2値は.274,【集団/地域】のR2値は.282であった.また表には示していないが,大項目2,3では,指導タイプおよび教師効力第1因子から第7因子のいずれについても,到達度の高さに寄与していなかった.
経験型が指導型よりも「卒業時の到達度」大項目1「地域の健康課題を明らかにする」では,【個人/家族】,【集団/地域】共に学生の「到達あり」の割合が有意に高く,教師効力第1因子においては,【集団/地域】のみ学生の「到達あり」の割合が有意に高かった.
臨地実習では,家庭訪問,健診・相談を通して生活の最小単位である【個人/家族】について,大項目1「地域の健康課題を明らかにする」の項目を学ぶ機会が多い.表ら(2019)の調査では,市区町村実習において8割以上の学生が体験したとする保健師学校養成所は,1件の家庭訪問(見学訪問)が87.3%,健康相談(見学もしくは参加)が83.6%,健康診査(見学もしくは参加)が84.7%であった.実習場面での学生の気持ちを受けとめ,リフレインし,その場面を再構成して学生の経験を明確にする経験型が実施されることにより学生が主体的に学び,【個人/家族】の到達レベルを達成に寄与することができると考えられる.【個人/家族】は,生活基盤である地域レベル【集団/地域】の中で生活しているために,【個人/家族】の到達レベルを達成することは,【集団/地域】の到達レベルを達成することに連動すると考えられる.このように,経験型では教員が個々の学生の学びの状況に合わせた指導を展開することから,経験型と指導型の差が大項目1に表れるのは妥当と考えられる.一方,大項目2「地域の人々と協働して,健康課題を解決・改善し,健康増進能力を高める」や,大項目3「地域の人々の健康を保障するために,生活と健康に関する社会資源の公平な利用と分配を促進する」で指導タイプによる差は見られなかった.前述の表ら(2019)の調査でも,「組織活動/見学あり」は65.4%であり,これらの項目に関連するセルフヘルプグループの育成や地区組織活動等の実習内容は,健康教育の実施以外は見学にとどまることも多く,経験型を活かした教育に至らないことから,経験型が指導型に比べ,大項目2,3の到達度に効果があったとはいえない結果になったと考えられる.
安酸(2015)は,経験型実習教育は教師と学生の共同作業により展開していく授業と述べている.本研究で,指導タイプと教師効力による達成度項目割合の説明力(決定係数)は,【個人/家族】27.4%,【集団/地域】28.2%と低かった.臨地実習で指導効果をもたらすのは,経験する内容や質等の実習環境側の要因,更には学生側の要因も考えられるため,今後それらの要因も検討する必要がある.
教師効力については,第1因子「カンファレンスを実施できる自信」のみが到達度を高めることに寄与しており,他の因子は寄与していなかった.教師効力は第1因子の場合でも,標準化偏回帰係数は指導タイプより低く,偏回帰係数では,教師効力が4段階で1段階上がったときでも,到達度8割を超えた項目数が有意であった【集団/地域】でも3.4%であった.このことから教師効力については,指導タイプ程には仮説を支持するとはいえない.4年生大学(保健師選択制)では,看護師と保健師の国家試験を同時期に受験することもあり,多くの大学では本人の希望の他に成績要件を選択の基準に設けている.このため学生側のレディネスが高く,到達度の高い実習ができている実態が教師効力を全体的に高めている可能性が考えられる.
今回,教員の指導タイプは,経験型実習教育の有効性を最も示せる場面として家庭訪問の事例を設定した.そして,回答は自由記述で得て,保健師教育の経験を有し,経験型実習教育について理解している複数名で討議のうえ,指導タイプを分類した.しかしながら,本研究においては,有効回答率が低く,汎用性に課題があり,検討が必要である.
また,安酸(2018)は,学生の主体的な学習者としての成長を促すには経験型の教育を行うのがふさわしく,学生の成長を直接支えている手応えを感じられることから,教員自身の成長も実感できると述べている.しかし,今回は断面調査であり,実習前の学生の到達度については問うていない.学生の実習による到達度の変化や,到達度が高まることによる教師効力の向上については検討しておらず,さらなる調査により明らかにする必要がある.
経験型実習教育は,教師効力の影響を除いても「地域の健康課題を明らかにする」ことについて,【個人/家族】,【集団/地域】とも,学生の「到達あり」の割合に関連していることが明らかとなった.「地域の健康課題を明らかにする」実習項目については,実習での学生の体験を共に振り返り再構成して,意味づけをする経験型実習教育の手法は,学生の到達度向上に寄与する可能性があることが示唆された.
本研究に開示すべきCOI状態はない.
本研究で質問紙の記載に協力いただいた教員,非常勤講師の皆様,研究の助言をいただいた阿部宏史さんに感謝いたします.