日本植物病理学会報
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原著
マタタビ類斑点細菌病(新称)の原因菌であるPseudomonas syringae pv. actinidifoliorumの特徴
澤田 宏之藤川 貴史北 宜裕折原 紀子篠崎 毅清水 伸一中畝 良二瀧川 雄一
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2017 年 83 巻 3 号 p. 136-150

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抄録

Pseudomonas syringae pv. actinidifoliorum(Psaf)のわが国における分布実態を把握するために,マタタビ属植物由来の国内産菌株を対象として,hopO1を標的としたPCR検定を行った.その結果,牛山ら(日植病報 58: 426–430)によって北海道のサルナシ・ミヤママタタビの斑点症状から分離された菌株(北海道分離菌),静岡県のサルナシ斑点症状から分離された菌株(静岡分離菌),および,かいよう病の発生調査の過程で愛媛県のキウイフルーツから見出された菌株(愛媛分離菌)が陽性を示した.これらの分離菌をキウイフルーツに接種すると,葉に斑点症状を誘導したが,枝に対する病原性は認められなかった.これらはいずれもグラム陰性,好気性で1~3本の極鞭毛を有する桿菌であり,淡黄色の円形・全縁な集落を形成した.さらに,その主要な生理・生化学的性質,MALDIバイオタイパーによるパターンマッチング,病原性関連遺伝子などを標的としたPCR検定,4つの必須遺伝子〔cts(=gltA),gapAgyrBおよびrpoD〕を用いたMultiLocus Sequence Analysis(MLSA)に基づき,これらの分離菌をPsafと同定することができた.ただし,MLSA系統樹において,これらは「北海道分離菌」,「静岡分離菌」,「愛媛分離菌」の3つのグループに分かれたが,Psafにおける既知lineage(lineage 1~lineage 4)のいずれとも一致せず,グループごとに独立した単系統群として位置づけられた.さらに,北海道分離菌はD-フコースを資化すること,静岡分離菌はレバン産生能が弱く,hopF1由来のPCRシグナルが得られないこと,愛媛分離菌はゼラチン分解が陽性であり,hopE1hopF1がPCR検出できないことが,他のPsafとの相違点として認められた.以上より,これらの分離菌をそれぞれ「lineage 5」,「lineage 6」,「lineage 7」と命名し,Psafにおける新規系統として扱うこと,および,lineage 5と6によってサルナシやミヤママタタビの葉に引き起こされた斑点症状を,新病害として「斑点細菌病(bacterial leaf spot)」と呼称することを提案したい.本研究によってわが国にもPsafが分布していることが初めて明らかになり,さらに,Psafが多様性に富んだ菌群であることが確認できた.また,Psafやその各lineageの詳細な表現型・遺伝型が明らかになり,検出・判別技術を開発するための研究基盤が整備できた.

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© 2017 日本植物病理学会
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