日本植物病理学会報
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黒糖變敗菌に就いて
岡本 弘
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1942 年 12 巻 2-4 号 p. 217-230

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抄録
沖繩地方に生産する黒糖,白下糖に繁殖して變敗せしめる菌を調査した所Aspergillus spp. 4種(A-A, A-B, A-E, A-F), Monilia sp. 1種(M), Penicillium sp. 1種(P), Eutorulopsis sp. 1種(Et)の汁7種を分離した。その内A-B, A-E, A-F及Mは未吸濕黒糖にも繁殖,被害を及ぼすが,他の菌は吸濕泥状化した黒糖にのみ繁殖しうる。變敗菌として重視すべきはA-B, A-E, A-F及Mの4種でA-B, A-E及A-Fは糖の表面に小孔を穿つて害を及ぼし, Mは灰褐紫色の粉をふりまいた樣に表面に繁殖し,何れも蔗糖を轉化せしめて糖質を劣變する。
50%黒糖寒天培養基上にては各菌何れも發育良好にして, A-A, P及Mは分生胞子のみを, A-B, A-E及A-Fは分生胞子及子嚢胞子を形成し, Etは汚白色圓形聚落を形成する。A-A, A-B, A-E, A-F, M及Pは蔗糖轉化能力強く,黒糖中に轉化糖を増加せしめ, Etは轉化能力なく,且,轉化糖を減少せしめる。50%黒糖塞天,馬鈴薯寒天,ツアペツク寒天,醤油寒天,ブイヨン寒天に各菌を培養する場合A-Aは何れにもよく發育し, A-Bは50%黒糖寒天にのみよく發育し, A-E及A-Fはブイヨン寒天以外にはよく發育し, Mは50%黒糖寒天には菌糸の形成不良なるも分生胞子の形成極めて多く,馬鈴薯寒天,ツアペツク寒天,醤油寒天にては菌糸,分生胞子の形成何れも良好ならず,ブイヨン寒天にては殊に發育不良なり。Pは何れにもよく發育し, Etはブイヨン寒天以外には發育良好である。
各菌の發育適温はA-A, A-E, A-F, M及Pは25-33℃, A-B及Etは25-29℃である。
砂糖溶液に培養の場合,濃厚溶液では發育良好ならず蔗糖飽和,轉化糖10,2%の黒糖溶液を原溶とした場合,これを40-60%前後に稀釋したものが發育に最も良好である。A-A, A-B, A-E, A-F, M及Pを蔗糖飽和,轉化糖3.0-13.6%の各種砂糖溶液に培養した場合は,轉化糖の少ないものには發育しうるも多いものには發育しえない。しかし,これらの糖液を同一プリツクス(60%)に稀釋した場合は,何れにも極めてよく繁殖しうる。蔗糖飽和の黒糖濃厚溶液の滲透壓はこれらの菌の發育限界に近い爲,溶液中に含める轉化糖の多少によつて生ずる僅かの滲透壓の差がその發育に影響を與へるものと思はれる。又,砂糖中の水分の少い程變敗菌は繁殖し難い。
黒糖,白下糖の變敗についてもW/100-Pなる式の安全係數に類似した傾向を認めることが出來る。
變敗豫防には製糖場,倉庫を清潔にし,砂糖樽詰後早く蓋をすること,又,貯藏は乾燥した所を選ぶことが必要である。又,水分が少くて,轉化糖の多い(糖度の低い)砂糖程貯藏性が高いからこの樣な糖を貯藏に振向けるべきである。
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