日本植物病理学会報
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稻馬鹿苗菌の分泌する生長促進物の性質に就きて
伊藤 誠哉島田 昌一
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1931 年 2 巻 4 号 p. 322-338

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抄録

稻馬鹿苗病の特有病徴たる徒長現象が其の病原菌の培養濾液中に含まるる毒素に關係ある事は既に證明せられたる處なるも、その毒素の性質に就きては熱に對する影響を調査せる黒澤氏の報告あるに過ぎず。
本實驗は馬鹿苗病徴に關係ある一種の刺戟的物質即馬鹿苗病徴發源素の性質につきて行ひたるものなり。本實驗に於て使用せる菌の培養液はリチヤーズ氏液にして、その濾液に對し一定の處理を施せる後、これにクノツプ氏液を加入して一定の濃度に稀釋し、該液を用ひて稻苗を培養し、生育状態を調査し其の影響の如何によりて該物質の性質を考察せり。斯くして得たる結果を要約せば次の如し。
1. 馬鹿苗病徴を生ぜしむべき培養濾液の最適濃度は10%或は1%の中間にあり。
2. 他のフザリユーム菌少くとも亞麻の立枯病菌たる Fusarium Lini には如斯物質を分泌する性質なし。
3. 該物質は熱に對し頗る安定にして濾液を沸騰せしめ蒸發乾固に致らしむるも尚その特性を現はすも、灰となす時は分解せられて最早馬鹿苗病徴を起さしめず。
4. 該物質はメルク製獸炭によりて完全に吸着せらる。
5. 該物質は半透膜、例へば豚の膀胱膜を通過す。
6. 該物質の病原菌による分泌はその培養液の成分により影響を受くる事大にして、リチヤーズ氏液の場合には酸性燐酸加里或は硫酸マグネシユームの孰れか一方或は兩者共存せざる場合には、其の培養濾液は馬鹿苗病徴を生ぜしめず却つて稻の生長を抑制す。

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