日本植物病理学会報
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稻の疾病に於ける花器接種類似現象に就きて
第I報 稻熱病菌に就きての研究
鈴木 橋雄
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1934 年 3 巻 1 号 p. 1-14

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抄録
1. 本論文には Piricularia Oryzae Br. et Cav. に基因する稻熱病に於ける花器接種類似現象に就き記載せり。
2. 稻熱病菌を開花前、開花中或は開花後の籾種に接種したるに被害甚だしき場合には稔實を全く妨げられ粃を生じたれども、然らざる場合には不正常或は正常稔實籾種を生じ頴は病状を呈したり。然れども頴は常に必ずしも病状を呈するものとは限らずして外觀全く健全なる場合あり。
3. 稻熱病菌を開花前、開花中或は開花後に接種したる籾種100粒中の罹病米粒數を調査することに依り接種期と米粒感染との關係を調査したる結果、何れの接種期に於いても罹病米粒數は殆んど相等しかりしを以て、少くとも著者の實驗したるが如き状態の下にありては接種期の如何により米粒感染に差異なきものの如し。
4. 稻熱病菌を開花前、開花中或は開花後に接種したる籾種は外觀病状を呈すると否とに關はらず其内部に含有せらるる米粒は常に必ずしも病状を呈するとは限らずして外觀全く健全なる場合もありき。而して外觀に病状を呈したる籾種或は米粒の重量は外觀健全なるもの或は標準區に於ける健全なるものの夫れと大差なき場合あるものの如し。
5. 稻熱病菌を開花前、開花中或は開花後に接種したる籾種より得たる外觀に病状を呈せる米粒よりは勿論のこと外觀健全なるものよりも亦接種に供用したる菌に等しき性質を有する菌を分離することを得たり。斯かる結果より觀れば、米粒は、假令、稻熱病菌の侵害を受くるとも常に必ずしも病状を呈せず外觀健全なる場合もあるものの如し。
6. 稻熱病菌を開花前、開花中或は開花後に接種したる籾種の顯微鏡檢査を施行したる結果、胚、胚乳、糠層或は頴組織、或は頴と米粒との間に菌絲の状態にて、又頴と米粒との間に分生胞子の状態にて潜在するを認め得たり。斯かる結果より觀れば、稻熱病菌は籾種内部の各部に寄生状態にて或は附着して越年し得る場合あるものの如し。
7. 稻熱病菌を開花前、開花中或は開花後に接種したる籾種より得たる米粒を1%寒天及び0.1%蔗糖加サツクス氏液寒天培養基上に播下したる結果、米粒の發芽と共に幼苗は腐敗或は立枯を起して枯死し、其上に本菌々絲及び分生胞子を形成せり。斯かる結果より觀れば本菌は開花期の種々なる時期に籾種内部に侵入し其處にて越年し發芽と共に幼苗を侵し本病第一次發生の原因をなし得る場合あるものの如し。
8. 稻熱病菌を開花前、開花中或は開花後に接種して得たる外觀に病状を呈したる米粒と外觀健全なるもの及び前者等と標準區の米粒の發芽數を觀たるに、前者等は後者等より幾分劣りたれども大差なかりき。斯かる結果より觀れば、米粒は本菌の侵害を受くるも發芽力に大なる被害を被らざる場合あるものの如し。
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