抄録
種々のイネ科植物から分離したいもち病菌菌株間の遺伝的相互関係を明らかにするため,核リボソームDNA (rDNA)の解析を行った。各菌株の全ゲノムDNAを2種類の4塩基認識制限酵素で切断して多型解析を行った結果,供試71菌株が13種類のrDNAタイプに類別された。このRFLPデータならびにITS2領域の塩基配列に基づいてデンドログラムを作成したところ,主要なイネ科栽培植物(イネ,アワ,キビ,シコクビエ,コムギ,エンバク)とその近縁種の病原菌は単一クラスターを形成した。一方,メヒシバ菌,ブッフェルグラス菌等はデンドログラム上において上記栽培植物寄生菌群の外側に位置し,日本産タケ・ササ菌はさらに遠縁であることが明らかとなった。つぎに,これらの菌株におけるレトロトランスポゾンMAGGYの分布を調べたところ,MAGGYを多コピー保有するイネ菌・アワ菌等の菌株は,ほぼ栽培植物寄生菌群クラスターの中の単一サブクラスターに属することが明らかとなった。一方,このサブクラスターから遠縁のブッフェルグラス菌にも,MAGGYが多コピー見出された。このことから,過去にMAGGYの水平移行が起こったことが示唆された。