抄録
1. 關西地方の市場に於て,葱頭鱗莖はその表面にBotrytis屬菌を發生し,又は多數の菌核を生じて腐敗する場合が多いが,Botrytis Allii MUNN菌に因る灰色腐敗病が,最も普通であることは,筆者等の前論文(4)に於て既に報告した。
2. 本論文に於てはその發生は灰色腐敗病の如く普通ではないが,他に3種の異なるBotrytis屬菌に基因せらるる類似病害が發見せられしことを報ずると共に,夫等3菌の形態,病原性等に關する筆者等の實驗結果を記載した。
3. 本論文に於てはBotrytis byssoidea WALKER菌に因る葱頭の病害を菌絲性腐敗病と稱し, B. squamosa WALKER菌に因る病害を小菌核性腐敗病と稱したが,他の1種は種名尚不明である。筆者等は該菌による被害を菌核性腐敗病と命名した。
4. 接種試驗の結果によると, B. byssoidea菌の病原性は相當に強いが,普通鱗片に傷のある場合に容易に侵害するもので,無傷多汁の鱗片を侵害する力は割合に弱い。本菌に因る菌絲性腐敗病は3℃から32℃の間で發病し得るが, 10℃から24℃迄の間が最も發病に適するものの樣である。
5. B. squamosa WALKERは葱頭鱗莖に病原性を有するが,その病原性は著しく弱いものの樣に思はれる。
6. 菌核性腐敗病菌はその病原性相當に強く,鱗片に傷ある場合極めて容易に侵害する許りでなく,時には無傷の鱗片にも侵入する力を具備して居る。本菌に因る葱頭の被害は24℃前後に於て最も大きいと見做される。
7.葱頭を侵害する4種のBotrytis屬菌は分生胞子の形態,大さに於て異なる許りでなく,夫等の菌の侵害に基く鱗莖の病状が明瞭に違つて居る。
8. 葱頭を侵害する4種のBotrytis屬菌は2%葡萄糖加用馬鈴薯煎汁寒天平面培養基で比較すると,その發育状態によつて容易に區別せられる。
9. B. Alliiは短かい擔子梗を有するから,菌叢は低く,分生胞子の形成一般に旺盛であるが, B. byssoideaは分生胞子の形成に乏しく菌絲の發育良好である。B. squamosaは菌核が一般に扁平で他の菌に比し小さいが,分生胞子は最も大形である。
10. 接種試驗によるとBotrytis cinerea菌も亦葱頭鱗莖に對し病原性を具備して居る。