抄録
本論文は, 抑うつの母親を持つ子どもの適応に関する心理学的および精神医学的研究の展望である. 発達精神病理学の方法と研究パラダイムの発達とともに, 過去10年間に抑うつの母親を持つ子どもについての多くの研究がなされた. これらの研究から, 抑うつの母親を持つ子どもは精神疾患の発生を含めて広範な適応上の問題を引き起こしやすいこと, また不適応の生起に関するメカニズムはかなり複雑であることが明らかになった. なぜ抑うつの母親を持つ子どもに高頻度に不適応が生ずるのかを知るためには, 母親の抑うつの子どもの発達に対する単純な影響モデルではなく, 複数の危険因子を含んだ相互作用モデルが有効である. この研究領域についての方法論的な問題が論じられ, 将来の研究に対する示唆がなされている.