2006 年 46 巻 9 号 p. 809-817
心身医学の臨床研究では,心身相関の評価を含め,多岐にわたる検討が期待されているが,独自の困難性があって立ち遅れている.例えば,「心身症」を研究の対象として扱うことが容易でない,定量的にとらえにくい事象が多い,多要因で複雑な系である,自覚的評価の扱いが難しい,などの問題がある.これらの問題に対して種々の試みがなされている.われわれは精神生理学的な手法をもとに,他のいくつかの研究手法を応用し,心身相関を中心とする心身症の病態をとらえようとしてきた.その試みを紹介し,それを通してシンポジウムのテーマである「心身医学の研究方法」について考察を加えた.すなわち,平均値化することの危険性,臓器別診断を貫く評価軸の可能性,主観的評価と客観的評価の関係の検討,数値化することの限界,非線形的解析の可能性などである.従来の研究手法を用い,要素還元されたデータであっても,その扱い方の視点を変えることでかなりの事象をとらえられる可能性が示された.