本稿では,2014年度に開始された「摂食障害治療支援センター設置運営事業」の活動と成果について,筆者の摂食障害全国支援センター・センター長在任期を中心に,以下の4つのステップで解説する.①静岡県の好事例を参照し,拠点病院/連携病院/外来治療施設からなる3層の診療連携モデルの提示.②人口規模に応じた入院ニーズの試算に基づく連携病院の必要数の提示.③3層構造の診療連携モデルの各層に応じた,支援拠点病院設置準備/入院治療/外来治療の3つの研修会の整備.④拠点病院設置準備のロードマップを,医療機関と自治体の両輪で定式化.これらの成果として,2025年に富山県と長野県が加わり全国10拠点体制に到達し,今後も拠点拡大の見通しが立っている.ただし,小児例,難治遷延例,合併症例の対応など,残された課題も多く道半ばではあるが,精神科入院における身体合併症対応の推進など医療政策動向と整合的な解決が望まれる状況と考えられる.
厚生労働省の「摂食障害治療支援センター設置運営事業」は,2014年より全国の摂食障害支援拠点病院を基盤に相談支援,知識普及,研修支援,地域連携の強化を進めてきた.千葉県摂食障害支援拠点病院では,基幹病院への受診集中の是正,地域医療機関との連携推進,事例検討会や研修会の継続的開催などの活動を行っている.また,2022年に開設された「摂食障害全国支援センター相談ほっとライン」は,拠点病院未設置地域の患者・家族にとって重要な支援窓口となった.診療実態調査の結果,BMI 16kg/m2が摂食障害の地域医療連携を考えるうえでの実践的指標であること,また精神科と内科ではそれぞれ身体管理と心理療法を相互に求めるというニーズが示された.今後は,①重症度別連携プロトコルの整備,②内科医・精神科医双方への教育プログラムの普及,③低体重例への救急体制強化,④多職種・全国的ネットワークの拡充が課題である.心療内科は,身体と心を橋渡しする専門科として,地域連携の中核を担い続ける必要がある.
摂食症は,精神疾患に分類されているが,精神・心理面の症状,行動面の異常に加え,身体面の異常を伴うケースが少なくないため,心身両面からのアプローチが必要になる.したがって,心身医学や心療内科の担う役割が存在すると考えられ,本稿では,心身医学や心療内科の役割として,心身両面からの評価・アプローチに関して,筆者らのこれまでの活動を通して考察したい.具体的には,低体重・低栄養に伴う身体面の合併症および再栄養症候群に関する新たな知見,心理療法の取り組み,心理面の評価方法の開発に関して紹介したい.
神経性やせ症をはじめとする摂食症は精神疾患に分類されるが,生命を脅かす身体異常を伴うこともしばしばであり,心身両面からの理解と治療が求められる.従来は対面式の心理療法が中心であり,enhanced cognitive behavior therapy(CBT-E)やfamily-based treatment(FBT)が国際的に推奨されてきたが,専門治療者の不足や地域格差から十分に提供されているとはいいがたい現状がある.近年,digital CBT,ecological momentary intervention(EMI),人工知能(AI)を用いたデジタルフェノタイピング,あるいはvirtual reality(VR)による身体像治療など革新的アプローチが報告され,治療アクセスの向上や個別化治療の可能性が示されている.一方で,AIやコンピュータでは代替不可能な,人間の感受性や「場の空気」を読み取る力が求められる心療内科的介入は依然不可欠である.科学的知見と人間的洞察を統合する心療内科医の役割は,未来の摂食症治療においても重要と考えられる.
本稿では,神経性やせ症患者を対象とした多施設共同脳画像研究の成果を概観した.公刊された報告ではいずれもMRIを用い,脳構造および機能に関する特徴を明らかにしている,まず灰白質体積の検討で,患者において広範な灰白質体積の減少と,眼窩前頭野の体積と症状の間に正の相関があった.次に,拡散テンソル強調画像のグラフ理論解析から,眼窩前頭野や視覚処理系での過剰な結合が認められた.さらに,安静時fMRI解析から前頭前野による認知制御が過剰に行われていること,島皮質と扁桃体の機能的結合の亢進が明らかになった.総括すると,摂食症では構造・機能・結合性の各レベルで広範な脳ネットワーク変化が存在し,これらは症状の多様性を支える神経基盤と考えられる.多施設共同研究はこうした知見の再現性を高めるとともに,心身医学的理解を深め,臨床応用や治療戦略の発展に寄与する可能性がある.
緊張型頭痛は生活支障の高い疾患である.本研究では,緊張型頭痛患者においてマインドフルネスの低さが痛みに対する破局的思考を強め,痛みに対する破局的思考が生活支障を高めるモデルを第1仮説として,共分散構造分析により検討した.さらにこのモデルの影響は,反復性緊張型頭痛患者よりも慢性緊張型頭痛患者において大きくなることを第2仮説として,多母集団同時解析により検討した.緊張型頭痛患者112名を対象として複数の医療施設で横断調査を行った.仮説検証の結果,モデルの妥当性が確認され,マインドフルネスの低さが,痛みに対する破局的思考を強め,さらに痛みに対する破局的思考の強さが生活支障を高める仮説モデルが支持された.加えてこの仮説モデルの影響は,反復性緊張型頭痛患者よりも慢性緊張型頭痛患者において大きかった.本研究の結果から,マインドフルネスを高めることが緊張型頭痛患者のマネジメントに有益な可能性がある.