睡眠は身体的および精神的健康だけではなく幸福感とも関連しており,健康を維持するために重要な要因である.疼痛を有する者では不眠が高い頻度で認められる.不眠と疼痛は双方向性の関係であるとされているが,不眠が翌日の疼痛の強さを予測するほうが影響力としては大きいことも明らかになってきた.また,疼痛症状がある患者の不眠形成には心理的な要因も関与している.国際的には不眠治療の第一選択肢は認知行動療法(cognitive behavioral therapy for insomnia:CBT-I)である.非薬物療法であるCBT-Iが心身医学領域の患者の不眠および主症状の改善にも有効であるという研究知見を紹介する.最後に,CBT-Iの活用方法について,私見も含めて提案する.
心身症に対しては認知行動療法が有用であり,さまざまな心身症への効果が示されている.本稿では,代表的な心身症の1つである慢性疼痛を取り上げ,慢性疼痛に対する認知行動療法の技法や進め方,そして心身症患者へ効果的な認知行動療法を実践するためにはどのような配慮や工夫が必要であるかについて述べる.また,慢性疼痛患者の2人に1人は不眠を経験しているほか,強い疼痛症状が睡眠障害に影響する一方で,睡眠障害もまた疼痛症状の強さに影響を与えており,慢性疼痛と不眠症は互いに関連しあうことが報告されている.そのため,慢性疼痛に対する認知行動療法においては,しばしば睡眠へのアプローチが含まれる.したがって,慢性疼痛における認知行動療法の中で睡眠問題がどのように扱われているかについても交えて報告する.
睡眠問題は,精神症状や身体症状の悪化に多大な影響を与えており,不眠の認知行動療法(CBT-I)による睡眠改善は,それらの症状を軽減することが示されている.一方で,そのメカニズムを裏づける知見はそれほど多くない.そこで本稿では,①睡眠問題と痛み,および②睡眠問題と食に対する衝動性との関係性について紹介する.第1に,短期的な睡眠不足でも長期的な睡眠不足(睡眠負債)でも,痛みの閾値が低下すること,第2に,不眠とクロノタイプは,過食行動の増加および食に対する衝動性の増加と関連する可能性があることを示す.最後に,不眠と睡眠・覚醒リズムの改善を目指した包括的アプローチの必要性について議論する.
精神疾患や身体疾患を有する患者の多くは,夜間の睡眠困難,および日中の機能障害を主な症状とする不眠を併存している.不眠は,併存する疾患の症状に悪影響を及ぼすことから,重要な治療ターゲットとして考える必要がある.不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)は,原発性不眠のみならず精神疾患や身体疾患に併存する不眠にも有効であることが明らかにされている.さらに,CBT-Iは,抑うつ症状や不安などの精神症状,痛みや疲労感などの身体症状を軽減することが示されており,主疾患に対する標準的な治療にCBT-Iを組み合わせることは主疾患の症状軽減,患者のQOL向上,治療予後に有益であるといえる.併存不眠に対してCBT-Iを行う場合には,「眠れない」という訴えの背景にある要因を適切にアセスメントし,主疾患に伴う症状が安定していること,CBT-I実施中の症状変化を注意深く観察することが重要である.
近年,不眠症診療においては,「出口」を見据えた治療戦略の重要性が強調されている.本邦の治療ガイドラインでは,薬物療法への過度な依存を避けるために,まず基礎的介入として睡眠衛生指導を行うことが推奨されている.認知行動療法(CBT-I)は,有効性・安全性の面で優れた治療法として国際的にも高く評価されているが,現時点では保険収載されておらず,わが国においてフルパッケージでの提供は現実的ではない.一方で,その核となる睡眠スケジュール法(刺激統制法と睡眠制限法)の基本的な考え方は,通常の診療時間内でも患者に伝えることは可能である.薬物療法に関しては,個々の患者の病態に応じた薬剤選択が求められ,近年はオレキシン受容体拮抗薬など新規治療薬の登場により,安全かつ有効な選択肢が増えている.本稿では,日常診療において,薬物療法と非薬物療法をいかに統合し,効果的な不眠症診療を実現するかについて概説する.
目的:レセプトデータを用いて本邦の認知行動療法の外来での算定状況を明らかにする. 方法:2014~2022年度の算定回数を年度別,性別・年齢階級別,都道府県別で分析した. 結果:算定回数の最多は2014年度で44,888回,最少は2022年度で35,231回だった.2022年度は女性への実施が63%を占め,15歳以上の年齢階級では女性への実施が多かった.20~49歳への実施が全体の64%を占め,19歳以下は13%,65歳以上は7%を占めた.人口100万人あたりの算定回数は,女性は20~24歳が864回,男性は25~29歳が490回で最多だった.2022年度の算定回数は14県で10回未満だったが,人口100万人あたりの算定回数の最多は岡山で2,834回と地域差を認めた. 考察:対象疾患の追加などにもかかわらず,算定回数は減少傾向であり,地域差も大きく,環境の整備,人材の育成が望ましい.