日本小児腎臓病学会雑誌
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総説
一酸化窒素(NO)と腎臓―個人的考察
塚原 宏一
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2006 年 19 巻 2 号 p. 96-103

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抄録

 一酸化窒素(nitric oxide,以下,NO)は今から20年前(1986年)より血管内皮由来弛緩因子(endothelial cell derived relaxing factor,以下,EDRF)の本体として脚光を浴びているgaseous mediatorである。その後の研究の進展により少なくとも3種類のNO合成酵素(nitric oxide synthase,以下,NOS)が存在し,それぞれの主要な発現部位も一部は重なり,一部は異なることがわかった1)
 腎臓では内皮型酵素(endothelial nitric oxide synthase,以下,eNOS;3型NOSとも呼称される)は糸球体毛細血管などの血管内皮細胞に分布する。緊密な制御のもとeNOSにより産生されるNOは血管拡張,血流保持,白血球接着抑制,血小板凝集抑制,活性酸素消去,細胞増殖制御などの働きにより組織保護的に作用する。神経型酵素(neural nitric oxide synthase,以下,nNOS;1型NOSとも呼称される)は緻密斑などに分布し,tubuloglomerular feedback機構に関与するとされる。誘導型酵素(inducible nitric oxide synthase,以下,iNOS;2型NOSとも呼称される)は生理的状況ではほとんど発現していないが,糸球体腎炎時には糸球体メサンギウム細胞,上皮細胞,浸潤白血球などに発現する。iNOS由来のNOは活性酸素と反応して組織障害性の強い窒素酸化物(ONOO-など)を形成し炎症を増悪させると言われるが2),iNOS誘導は炎症を局在化されると同時に,炎症時のeNOS抑制により欠乏したNOを補填して炎症を制御し組織を再生するための生体応答とも考えられる。

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© 2006 一般社団法人 日本小児腎臓病学会
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