日本産業保健理学療法学雑誌
Online ISSN : 2758-4798
巻頭言
労働災害防止と理学療法
川又 華代
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2025 年 3 巻 1 号 p. 1

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令和5年に第14次労働災害防止計画が策定され,その重点項目の一つとして「労働者(特に中高年齢の女性)の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進」が掲げられました.この計画の中で,理学療法士等の専門職が労働者の身体機能の維持・改善を支援することが明記されてから2年が経過しました.これは,理学療法士が臨床で培った知識や技術を産業現場でも活用し,労働災害防止に貢献することが期待されているためと考えられます.

こうした中,厚生労働省の労働政策審議会は令和6年4月から安全衛生分科会において11回にわたり議論を重ね,7つの重要な課題について厚生労働大臣に建議を行いました.その内容は,①個人事業者等への安全衛生対策の推進,②職場のメンタルヘルス対策の推進,③化学物質による健康障害防止対策,④機械等による労働災害防止,⑤高年齢労働者の労働災害防止,⑥一般健康診断の検査項目の検討,⑦治療と仕事の両立支援対策です.これを受けて「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」が第217回国会で成立し,2025年5月14日に公布されました.今後,順次施行されていきます.主な改正点としては,個人事業者等への安全衛生対策の強化,職場のメンタルヘルス対策(特に従業員50人未満の事業場にもストレスチェック実施の義務化),化学物質や機械による災害防止,高年齢労働者の災害防止措置の努力義務化などが挙げられます.特に,従業員50人未満の事業場にもストレスチェックの義務化が進められることとなり,施行までの十分な準備期間が確保される予定です.また,高年齢労働者の労働災害防止に必要な措置を事業者の努力義務とし,国が指針を公表することも盛り込まれています.

これまでも労働災害防止に関する施策は,科学的根拠や現実的な状況,経済性を考慮して進められてきましたが,近年はより一層,科学的根拠に基づく取り組みの重要性が増しています.高齢化社会の進展に伴い,高年齢労働者対策や治療と就労の両立支援など,理学療法士の専門性が活かされる場面が増加しています.こうした分野での活動をより効果的に進めるためには,科学的根拠の蓄積が不可欠です.

厚生労働省では「厚生労働科学研究費補助金」や「労災疾病臨床研究補助金事業」などの制度を設け,労働安全衛生分野の研究を推進しています.理学療法士をはじめとする専門職には,これらの制度を積極的に活用し,科学的根拠の構築に努めることが期待されます.

また,働くことで健康格差が拡大することはあってはならず,すべての人が安全で健康に働くことができる社会の実現が求められています.理学療法士は医療,地域保健,産業保健など多様な分野から働く人々を支援する役割があり,今後もその活躍が期待されています.中央労働災害防止協会では,フリーランス業務災害防止(https://www.jisha.or.jp/research/pdf/202501_01.pdf)や転倒災害防止の好事例集(https://www.jisha.or.jp/research/pdf/202503_01.pdf)など,実践的な資料をホームページで公開しています.今後の活動の参考として,ぜひご活用ください.

(日産保理誌,3(1):1‒1,2025)

 
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