2026 年 4 巻 1 号 p. 26-32
【背景・目的】 COVID-19により職員間の交流機会が減少し,チーム間の連携やコミュニケーションに課題が生じている.リハビリテーション職員のチーム間の情報共有を促すため,相談しやすい環境作りを目的に,対話を通じて相互理解を促すCREWプログラムを導入した.
【方法】 リハビリテーション職員34名を対象に,2024年8月から8か月間,月1-2回で全10回のセッションを実施した.セッションはテーマに基づき20分間行い,ファシリテーターが進行を担当した.心理的安全性尺度とCivility Scale,自由記述アンケートで評価した.
【結果】 心理的安全性は4.7±1.2から5.1±0.9へ,Civility Scaleは3.2±0.9から3.4±0.9へ向上したが,統計学的には有意差は認めなかった.自由記述アンケートでは「相手を知る機会になった」など肯定的意見が多い一方,「業務への変化は感じにくい」との否定的意見も存在した.
【結論】 CREWプログラムは心理的安全性と礼節的風土の醸成に一定の効果を示したが,日常業務への実感には限界もあり,今後は多様なアプローチの継続的検討が必要である.
Background and Purpose: COVID-19 has reduced opportunities for interaction among staff, leading to challenges in inter-team collaboration and communication. To promote information sharing among rehabilitation staff teams and create an environment conducive to consultation, we introduced the CREW program, which fosters mutual understanding through dialogue.
Methods: We conducted 10 sessions over 8 months starting in August 2024, held 1–2 times per month, targeting 34 rehabilitation staff members. Each session lasted 20 minutes, based on specific themes, and was facilitated by a designated facilitator. The Psychological Safety Scale, Civility Scale, and open-ended questionnaires were used for evaluation.
Results: Psychological safety improved from 4.7±1.2 to 5.1±0.9, and the Civility Scale increased from 3.2±0.9 to 3.4±0.9; however, no statistically significant differences were observed. Open-ended questionnaires revealed many positive comments such as “It was an opportunity to get to know others,” while negative opinions such as “It was difficult to feel changes in daily work” also existed.
Conclusion: The CREW program demonstrated modest effects in improving psychological safety and cultivating a civil workplace culture. However, limitations were shown in perceiving tangible effects on daily work, indicating the need for continued exploration of diverse approaches in the future.
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大は,医療現場における職員間のコミュニケーションの在り方に大きな変化をもたらした.感染対策として飛沫感染の防止が求められる中,内閣府が実施した新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査によれば,日常的な業務時間中や休憩時間における職員同士の気軽な相談や報告が減少したと報告されている1).さらにアフターコロナと呼ばれる現在においても,歓送迎会などの職場内の交流機会はCOVID-19の感染拡大以前の水準まで回復しておらず,職員間の親睦を深める場は依然として限定的である.
当院においてもCOVID-19への対応として,2019年度より,各リハビリテーション職員を病棟ごとに固定配置し,病棟専従チームとして業務を遂行する体制へと変更した.この変更により,同一病棟専従チーム内では日常的なカンファレンスや病棟リハビリテーションなど業務内での対面機会が増え,一定のコミュニケーションは確保された.一方で,病棟専従体制は2024年度も継続して運用されており,他の病棟専従チームとの交流機会は著しく減少した.病棟専従チームの運用は疾患別リハビリテーションによる専門的な治療介入や病棟リハビリテーションの推進によってADL維持向上に寄与するが,職員間の相談や情報共有の機会は限定され,専門外領域に関する知識や技術の共有が困難となるなど,リハビリテーションの質的低下が懸念される状況が生じていた.
医療現場におけるチーム間の円滑なコミュニケーションは,患者の安全やケアの質に直結する重要な要素である.十分な情報共有や意見交換がなされないことは,医療ミスの発生要因の一つとして指摘されている2).また上司や同僚との信頼関係やチームワークが醸成されない状況では,ワーク・エンゲイジメントの低下や離職率の上昇を招く可能性があることも,複数の先行研究により報告されており3-6),職員間の相互理解や関係性の再構築に働きかける介入が必要であると考えられた.
こうした背景を踏まえ,コミュニケーションの場を作るとともに,病棟専従チームの枠を超えた相互に相談しやすい環境を整備し,リハビリテーションの質的向上によって,患者サービス向上を目的として,CREWプログラムの導入を計画した.
CREWプログラムとはCivility(礼節,丁寧さ),Respect(敬意),and Engagement(エンゲイジメント=いきいき) in the Workplace(職場)の略で,2005年に米国の退役軍人省組織開発センターで開発された職場風土の向上プログラムである7).職場の人間関係にアプローチし,お互いを知り,お互いに丁寧に敬意をもって接するような関係性の構築をはかることで,よりいきいきと働きやすい職場風土の醸成を目指したプログラムである.先行研究においてCREWプログラムは,礼節や職務満足度,組織コミットメント,管理職への信頼,燃え尽き症候群など,仕事関連のアウトカムに対して有意な改善効果を示していることが報告されている8).
本邦においてリハビリテーション職員を対象としたCREWプログラムの実践報告は未だなく,病棟専従チーム体制下における職員間の関係性の変化に対する有効性は明らかではない.本報告では,相談しやすい環境作りを目指して,CREWプログラムを実践し,リハビリテーション職員間の関係性の変化を評価するとともに,実施上の工夫や参加者の反応を含めた実践的知見を明らかにすることを目的とした.
対象は一般急性期病院に勤務するリハビリテーション職員とした.リハビリテーション職員は理学療法士21名,作業療法士10名,言語聴覚士3名の合計34名で構成されている(表1).年齢は30歳代が最も多く在籍しており,勤続年数の中央値は9.5年(範囲1-31年)である(図1). また当院ではリハビリテーション職員を3つの病棟専従チームに分かれて配置されており,各チームには理学療法士,作業療法士,言語聴覚士がそれぞれ配属されている.
| 参加者(名) | % | |
|---|---|---|
| 職種 | ||
| 理学療法士 | 21 | 61.7 |
| 作業療法士 | 10 | 29.4 |
| 言語聴覚士 | 3 | 8.8 |
| 年齢 | ||
| 20歳代 | 6 | 17.6 |
| 30歳代 | 17 | 50.0 |
| 40歳代 | 8 | 23.5 |
| 50歳代 | 3 | 8.8 |
| 性別 | ||
| 男性 | 24 | 70.6 |
| 女性 | 10 | 29.4 |

CREWプログラムの導入に先立ち,当院のリハビリテーション職員から有志を募り,ファシリテーターを選出した.選出されたファシリテーターは,理学療法士6名,作業療法士1名,言語聴覚士1名の計8名で構成され,2024年7月にCREW研究チームによる公式のファシリテータートレーニングを受講した.
3.プログラムの実施概要CREWプログラムの主な介入方法は,「対話」であり,参加者同士がテーマに沿って話し合いを行うことで相互理解を深めることに重点が置かれている.テーマには一定の参考例が示されているが,具体的な内容や構成はあらかじめ固定されているわけではなく,各職場の実情に応じて自由に変更可能であるという柔軟性を有する.規定されたテーマとして,①「お互いを知る」,②「「敬意・尊敬について考える」,③「今後の職場を考える」が設けられているが,必ずしも全てのテーマを網羅する必要はなく,各職場の状況に応じて優先度の高いテーマを中心に選択的に実践することが推奨されている9)(図2).
2024年8月より,約8か月間にわたりCREWプログラムを実施した.開催頻度は月1〜2回とし,全10回のセッションを行った.各セッションの所要時間は約20分とし,業務の一環として勤務時間内に実施した.セッション実施日に勤務しているリハビリテーション職員を2グループに分け,同内容をそれぞれに実施した.

CREWプログラムは,公式マニュアル9)に準拠しつつ,職場の実情に応じて柔軟に構成を調整した.まず,プログラム開始前に,全職員を対象とした説明会を開催し,目的や概要を周知した.その後,以下の3ステップを基本構成とするセッションを展開した.
・ステップ1:「お互いを知る」(例:「私の初めての仕事」「この秋にやりたいこと」)
・ステップ2:「敬意・尊重について考える」(例:「思いやりのある職場とはどんな職場か?」)
・ステップ3:「今後の職場を考える」(例:「CREWプログラムを今後,職場でどう活かしていくか?」)
これらのステップは固定的に運用されるものではなく,職場ごとの関心やニーズに応じて内容や順序を変更可能である.当院では,敬意・尊重に関するテーマは対人関係や価値観に関わるデリケートな内容が大きく,参加者にとって心理的負担となり得ると判断したため,より参加しやすい内容として「お互いを知る」テーマに重点を置いた.
実施内容の内訳としては,「お互いを知る」セッションを6回,「敬意・尊重について考える」セッションを3回,「今後の職場を考える」セッションを1回実施した.
5.セッションの運営と記録各セッションは,2名のファシリテーターの進行のもと,参加者が互いの意見を共有し,自由な対話を行う形式で実施した(図3).セッション終了後には,ファシリテーターが当日の主な意見や対話内容をノートに記録し,院内イントラネット上の共有フォルダにまとめ参加できなかった職員にも当日の記録を閲覧してもらった.全てのCREWセッション終了後,効果判定の公表とともに,クロージングを行った.

本報告では,病棟専従チームの交流や情報共有しやすい関係性を支える基盤としての職場風土に着目し,効果判定を行った.すなわち,「相談しやすい環境」を,「心理的安全性が高い職場」および「礼節的風土がある職場」と操作的に定義し,心理的安全性および礼節を評価指標として用いた.
心理的安全性は,「対人関係においてリスクのある行動をしても,このチームでは安全であるというチームメンバー間の共有された認識」と定義され,効果的なチームワーク,コミュニケーション,協働の基盤となる概念である10).心理的安全性の評価には,Sasakiらが開発した職場の心理的安全性尺度日本語版を用いた11).同尺度は医療現場の実態調査および専門家の知見に基づき開発されたものであり,「チームリーダー」「同僚」「チーム全体」の3つのセクションから構成される.全体で19項目あり,心理的安全性に関連する包括的な行動を測定する内容となっている.
各項目は,以下のような質問例を含む.
・「チームリーダー」例:「私は,仕事での自分の役割についての疑問やわからないことがあった場合,チームのリーダー(または上司)に聞くことができる」
・「同僚」例:「私は,個人的な問題を同僚に伝えることができる」
・「チーム全体」例:「チーム内の仕事上の問題について,お互いに情報を交換しあえる」
各質問は,1(全くそう思わない)から7(非常にそう思う)までの7件法で回答される.各セクションの得点は,当該セクションの項目合計点を項目数で除することで平均得点として算出し,セクションごとの心理的安全性を評価する.また,全体得点についても,19項目の合計点を19で除して平均値を求めた.
礼節の評価には,Osatukeらによって開発されたCivility Scaleの日本語版を使用した12).Civility Scaleは8項目から構成され,職場内における礼節的行動に対する認知を評価する尺度である.質問例としては,「職場の同僚は互いに敬意を持って接している」「対立は公正に解決される」「同僚は私に関心を持ってくれている」「個人差は尊重されている」などが含まれる.各項目は1(全くそう思わない)から5(非常にそう思う)の5件法で評価され,全項目の平均値がそのまま礼節のスコアとなる.得点が高いほど,職場内における礼節的風土が高いと解釈される.
統計解析について本報告では,個人情報保護の観点から,すべての調査を匿名化された状態で実施した.また,CREWプログラム完了時点において退職や産前休業により一部対象者の追跡が困難であったため,実施前後の比較は独立サンプルとして2標本t検定を使用して解析を行った.解析ソフトにはSPSS(ver. 23)を用いた.
またCREWプログラムの定性的効果の把握を目的として,セッション終了後に自由記述アンケート調査を実施し,参加者の主観的な変化やプログラムへの印象について記述的に評価を行った.
CREWプログラムは業務の一環として実施されたが,参加は自由意思によるものであり,不参加による不利益が生じないことを説明した.効果判定に用いた各指標は個人が特定されないよう匿名化して収集した.また,得られたデータは統計解析および実践報告として公表されることを説明し,同意を得た.本報告にあたっては,製鉄記念八幡病院倫理審査委員会の承認を得た(承認番号:26-52,承認日:2026年5月14日).
CREWプログラムの1セッションあたりの平均参加人数は18.4±4.6人であった.またスタッフ一人当たりの平均参加回数は5.4±2.0回であった.CREWプログラム実施前に心理的安全性およびCivility Scaleは参加者34名全員から回答を得た.CREWプログラム実施後は退職や産前休業により,心理的安全性は31名(回答率91%)から回答を得た.心理的安全性の尺度全体は,CREWプログラム実施前4.7±1.2からCREWプログラム実施後5.1±0.9へと上昇したが,統計的に有意な差は認められなかった(t(63)=-1.69, p=0.09).セクション別においても,「チームリーダー」4.7±1.4→5.2±1.0(t(63)=-1.58, p=0.11),「同僚」4.7±1.2→5.1±1.0(t(63)=-1.51, p=0.13),「チーム全体」4.7±1.5→5.1±1.3(t(63)=-1.06, p=0.29)といずれも上昇傾向を示したが,有意差は認められなかった(表2).Civility Scaleでは,CREWプログラム実施後は32名(回答率94%)から回答を得た.CREWプログラム実施前3.2±0.9からCREWプログラム実施後3.4±0.9へと上昇したが,統計的に有意な差は認められなかった(t(64)=-0.65, p=0.51)(表2).
CREWプログラム実施後のアンケート調査では,肯定的意見として,「知らない一面を知れて良かった」,「お互いを知るきっかけになり学ぶことが多かった」などの相互理解の促進に関する肯定的な意見が最も多く認められた.また「楽しい時間でした」などの感謝や雰囲気の改善に対する意見,「自分自身を考え直すよい機会でした」などの自己内省および成長の機会になったという意見,「できれば来年も継続して欲しいです」などの継続希望の意見が聞かれた.しかし一方で少数ではあるが,「業務上の何かが変わったとは言い難い」,「チームワークや,何でも話しやすい相談しやすくなったかといえば,何も変わらない」,「費用対効果は低かった」などの成果は限定的であり,業務には影響が少ないという否定的な意見や,「参加していて終始気分が悪かった」という不快な体験だったという意見も聞かれた.
| 実施前 | 実施後 | 95%CI | P値 | |
|---|---|---|---|---|
| 心理的安全性 | ||||
| 全体 | 4.7±1.2 | 5.1±0.9 | -0.96- 0.08 | 0.09 |
| チームリーダー | 4.7±1.4 | 5.2±1.1 | -1.09- 0.12 | 0.11 |
| 同僚 | 4.7±1.2 | 5.1±1.0 | -0.97- 0.13 | 0.13 |
| チーム | 4.8±1.5 | 5.1±1.3 | -1.04- 0.31 | 0.29 |
| Civility Scale | 3.2±0.9 | 3.4±0.9 | -0.57- 0.29 | 0.51 |
| 平均±標準偏差. | ||||
リハビリテーション職員を対象に,相談しやすい環境の構築を目的としてCREWプログラムを実施した.相談しやすい環境を「心理的安全性の高い職場」と操作的に定義し,心理的安全性尺度およびCivility Scaleを用いて評価を行った.その結果,心理的安全性および礼節に関して,スコアの向上が認められたが,いずれも統計学的に有意な差は認められなかった.一方で,アンケート調査では,「相手の知らない一面を知れた/相互理解が深まった」など相互理解の促進に関する肯定的な意見が最も多く認められ,職場内の対人関係が良好な方向に変化した可能性が示唆された.
今回のCREWプログラムの実施においては,「お互いを知る」セッションに重点を置き,自己開示型のコミュニケーションを中心に構成した.自己開示は,相手に対する好意形成や信頼関係の構築に有効であることが知られており13),職員間の相互理解を促進する手段として有効であったと考えられる.また,「敬意・尊敬について考える」セッションでは,参加者が理想的な職場像や自身の価値観について自由に意見を交わすことで,職場内における礼節的な関係性への認識が深まったと考えられる.効果的なコミュニケーションにおいては礼節の存在が不可欠であり14),アンケート調査からも「相手を知ることができた」「自分自身の考えを見直す機会となった」など,価値観の共有が行われたことがうかがえる.こうした過程を通じて,職場内の礼節的風土が再認識され,チーム内の信頼関係や協力関係の基盤が強化されたと推察される.医療現場においては,業務の複雑性,緊急性,および高リスク性から,チームメンバー間の相互依存的な協働が求められる.このような環境下において,心理的安全性の高い職場は,安全かつ高品質なケアを提供するうえで重要である15).さらに,心理的安全性は医療安全に寄与するのみならず,イノベーション行動や自発的な改善提案など積極的な行動にも良好な影響を与えることが報告されている16).特にリハビリテーション医学においては,患者の個別性が高く,画一的なエビデンスに基づく介入では限界があるため,チーム内の密なコミュニケーションを通じた意思決定が求められる.その意味において,CREWプログラムは,低コストかつ柔軟性の高い介入方法17)として,組織内の対話文化を醸成し,心理的安全性の高い,相談しやすい職場環境の構築に貢献する可能性がある.
一方で,アンケート調査においては,「業務上の変化は実感できなかった」「チームワークや相談のしやすさに明確な変化は見られなかった」「費用対効果が低いと感じた」といった否定的な意見も散見された.また,一部では「不快な体験だった」とする声もあり,CREWプログラムの効果は一様ではなく,実務的な行動変容には至らない場合があることも示唆している.また一部の参加者においては不快と感じる意見も認められた.CREWプログラムの対話や自己開示を重視する介入特性が,参加者の価値観や対人関係の志向と一致しなかった可能性も示唆している.よって,全ての参加者にとって満足度の高いプログラムであったとは言い難い面もあった.
これらの結果を踏まえ,今後は相談しやすいカンファレンスの運用方法の見直しや,定期的なレクリエーション,職員交流会など,多様なコミュニケーションの機会を設けることで,日常的な相談が自然に促進される環境づくりを進める必要がある.こうした取り組みを継続的に実施し,効果の検証とフィードバックを重ねながら,持続可能なチームワークの基盤構築を目指したい.
開示すべき利益相反はない.