生理心理学と精神生理学
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情動喚起刺激が自律神経系の反応特異性に及ぼす影響
本多 麻子正木 宏明山崎 勝男
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2002 年 20 巻 1 号 p. 9-17

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抄録

自律神経系の反応特異性とは, 特定の刺激に対して特定の生理的反応が生じることをいう.本研究の目的は, 正・負の情動喚起に対する自律神経系の反応特異性を検出することと, 自律神経系の指標によって各情動を弁別することであった.各10min間に編集した3種類の映像刺激を用いて, 正の情動喚起条件, 負の情動喚起条件, 特定の情動は喚起させない統制条件を設定した.15名の被験者から, 血圧, 心電図, 指尖表面皮膚温, 呼吸を同時測定した.映像刺激呈示後, 質問紙によって喚起された情動について評定させた.その結果, 正・負の情動喚起条件ともに, それぞれ標的とした情動が明確に喚起された.強く情動が喚起された時点で, 心臓血管系の指標は, 正の情動喚起時では低下し, 負の情動喚起時では上昇した.指尖表面皮膚温は, 正の情動喚起時では変化しなかったものの, 負の情動喚起時では急峻に低下した.指尖表面皮膚温の低下は, 恐怖, 嫌悪といった強い負の情動喚起に伴う末梢血管抵抗の上昇に起因したものと考えられる.血行力学的側面から, 平均血圧上昇は末梢血管抵抗と心拍数の上昇が重畳したものであると考えられる.また, 刺激に対する認知的側面から, 情動喚起場面でみられた条件間で異なる心臓血管系反応パタンは, 取り込み-拒絶仮説からも説明可能である.正の情動喚起時では映像刺激に興味を抱き, 環境刺激を取り込んだために心臓血管系指標が低下した.一方, 負の情動喚起時では不快な映像刺激を拒絶したことによってそれらが増加したものと考えられる.動画によって喚起された正と負の情動に対する異なる方向の反応パタンは, 自律神経系の反応特異性が検出されたことを示したと考えられる.

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© 日本生理心理学会
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