小児理学療法学
Online ISSN : 2758-6456
脳性麻痺
脳性麻痺を呈する子どもの抑うつ傾向の調査―多施設共同研究
浅野 大喜武田 真樹阿部 広和儀間 裕貴信迫 悟志
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2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 125

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抄録

【はじめに、目的】

脳性麻痺 (以下,CP)を呈する子どもは,運動障害に加えて行動やメンタルヘルスの問題を示す.過去の我々の予備研究において,CPでは抑うつ傾向が高く,なかでも日々の活動や楽しみの低下が要因であることが示されている(Asano et al., 2020).また最近の研究 (Cribb et al., 2023)では,スポーツへの参加や身体活動の頻度がCP児の抑うつを減少させる可能性が報告されている.本研究の目的は,脳性麻痺を呈する子どもの抑うつ傾向について定型発達児と比較し,問題行動との関連について調査することである.

【方法】

対象は,6~18歳の脳性麻痺児51名 (以下,CP群,平均年齢 12.5±3.9歳,GMFCSレベルI:20名, II:11名, III:8名, IV: 12名)と定型発達児36名 (以下,TD群,平均年齢12.3±3.4歳) であった.評価は,対象児本人にバールソン児童用抑うつ尺度 (以下,DSRS),対象児の母親に子どもの強さと困難さアンケート (以下,SDQ)の回答を求めた.DSRSは,“活動性および楽しみの減衰”と“抑うつ気分”の下位尺度で構成され,総合点は抑うつの程度を表す.SDQは,“行為の問題”,“多動・不注意”,“情緒の問題”,“仲間関係の問題”,“向社会 性”の下位尺度があり,総合点は行動の総合的な困難さを表す.データは,DSRSとSDQの各尺度得点を算出し,SDQの結果は カットオフ値をもとに高低の2群に分類された.データ分析は,まずSRS,SDQの得点について2群で比較し,CP群のDSRSと SDQ得点間の相関分析を行った.その後,全対象児のDSRSの 二次元についてクラスター分析を実施し,DSRS得点が高いグループにおけるCPの割合とSDQの各下位尺度の高低の割合について χ2検定を用いて比較した.さらに年齢と性別を調整変数とし,クラスターを目的変数,CPの存在,SDQの下位尺度を説明変数としたロジスティック回帰分析を実施し,抑うつ傾向と関連する因子を検討した.統計学的有意水準は5%とした.

【結果】

DSRSの群間比較では,“活動性および楽しみの減衰”,総合点においてTD群と比較してCP群のほうが有意に高い得点であった.またSDQの群間比較では,“行為の問題”,“多動・不注意”,“情緒の問題”,“仲間関係の問題”で有意にCP群の得点が高かった.これらの結果は,予備研究の結果と一致していた.CP群のDSRSとGMFCS,SDQの各項目の間に有意な相関関係はなかった.クラスター分析の結果,DSRSの2つの下位尺度得点がいずれも高いグループと低いグループの2グループに分けられたため,高いグループに属する各属性の割合を分析した結果,CPの存在 (p<0.01),“行為の問題” (p<0.01),“仲間関係の問題” (p<0.01)の割合が有意に高か った.多変量ロジスティック回帰分析の結果,CPの存在 (OR 2.96, p<0.05), “行為”の問題 (OR 7.04, p<0.05)が有意な関連因子として抽 出された.

【考察】

CP児は抑うつのレベルが高い傾向があり,普段の活動に対する楽しみの減衰が関連していた.また抑うつ傾向の高さには,CPの存在だけでなく行為の問題が関連していることが明らかとなった.

【倫理的配慮】

本研究はヘルシンキ宣言に基づき行われた.本研究の目的・方法・結果の公表について,対象児と保護者に口頭及び書面にて十分な説明を行い,保護者の同意書への署名により同意を得た. なお,本研究はデータ収集を行った3施設の倫理委員会の承認を得て実施された.

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© 2024 一般社団法人日本小児理学療法学会
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