小児理学療法学
Online ISSN : 2758-6456
術後理学療法
痙性対麻痺児に対する髄腔内バクロフェン療法とロボットスーツHAL®での歩行練習を併用した集中的介入の報告
西川 良太佐藤 紗弥香小松 昌久増田 智幸夏目 岳典大多尾 早紀那須野 翔竹内 史穂子白井 真規本林 光雄三澤 由佳宮入 洋祐稲葉 雄二
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2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 154

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抄録

【はじめに,目的】

痙縮に対する髄腔内バクロフェン療法 (ITB)は,本邦では歩行困難患者への施行が大部分であり,歩行可能症例に対してITBを施行された場合でも,歩行能力の低下が報告されている.一方で,ロボットスーツHAL®(HAL)による運動療法の効果として,歩行能力が向上することなどが報告されている.今回,痙性対麻痺を呈する歩行器歩行が可能な男児に対し, ITBを施行するとともに,HALを用いた集中的な歩行練習により,歩行機能の向上を目指した症例について報告する.

【方法および症例報告】

対象は14歳男性.幼児期からの精神運動発達遅滞を認め,5歳時にペリツェウス・メルツバッハ病 (PLP1遺伝子変異)による痙性対麻痺と診断.6歳時に腸腰筋・内転筋の腱切り術,7歳時にアキレス腱延長術を施行.ITB施行前は,歩行器歩行可能で GMFCSレベルIII,GMFM-88は56.4%,WISC-IV FSIQ47,弱 視 を認めている.下肢痙縮に対し筋緊張緩和薬の内服やボツリヌス施注療法を行うも効果は不十分であった.13歳時にITBトラ イアルで効果が確認され,14歳時にITBポンプ埋込術を施行.バクロフェンは12.5μg/日でコントロールを行った.術後3日から離床開始し,術後10日からHALを用いた歩行練習を平日は毎日1回の頻度で開始した.術後18日から34日まで一時退院,再入院後,HALでの歩行練習を同様に再開し,術後50日で退院した.HALを用いた歩行練習は,1回あたりの介入時間を休憩含めて40分から1時間程度とし,免荷装置を用いて本人とHALを吊り下げながら,病院内の廊下にて行った.HALの設定については,本人の歩容を観察し,歩きやすさを確認しながら,連続歩行ができるように調整をしつつ,歩行練習を行った.

【結果および経過】

歩行機能は短下肢装具 (AFO)なし・ありで評価した.評価結 果 (ITB施行前:HAL介入後)は,歩行速度[m/sec]は0.76: 0.83(AFOなし) 0.75:0.89(AFOあり),cadence[step/min]は 77.4:60.5(AFOなし) 73.8:57.5(AFOあり),Stride length[m]は1.18:1.68(AFOなし) 1.23:1.80(AFOあり), Stride duration[sec]は1.55:1.99(AFOなし) 1.64:2.10(AFOあり), Edinburgh Visual Gait Score (EVGS)の総合点は36: 35(AFOなし) 30:23(AFOあり),Timed Up and Go Test (TUG)[sec]は 17.7:14.5(AFOあり).粗大運動機能の評価結果として, GMFM-88[%]は56.4:58.3.筋緊張はModified Tardieu Scale[ °]で股関節屈曲R55/L40:R50/L30,外転R15/L15:R0/L0,膝関節屈曲R105/L100:R65/L70.家族への質問紙調査では 「家族の満足度」「精神的変化度」に関する項目で良好な結果を得られた.

【考察】

ITB施行により痙縮が緩和され,HALによる集中的な歩行練習を行ったことで,ITB前と比較して歩行速度やTUGが向上し, CadenceやStrideの歩行パラメータが変化し,歩行パターンの定量的評価であるEVGSも改善した.ITBで痙縮を軽減することで,痙縮を利用した歩行様式を一旦解除し,新たな歩行様式を運動学習するために,HALによる歩行練習を集中的に行ったことで,歩行機能の向上が見られたと考えられる.

【倫理的配慮】

本症例報告について,ヘルシンキ宣言に基づき,対象者および保護者に対して,目的や内容,撤回の自由と個 人 情報に関する十分な説明を行い,書面にて同意を得た.またロボットスーツHAL®の適応外使用に関して,長野県立こども病院倫理委員会にて 承認を得た上で実施した(承認番号 S-02-81).

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