2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 32
【はじめに】
小児肝移植術の対象児は、手術に伴う長期入院や術後管理等から、粗大運動の発達が阻害されるリスクがあり、その影響は、長期的な身体機能や健康全般にも影響を及ぼすとされている。当院では、小児肝移植術対象となった全例に、術後早期から介入を行い、退院後の発達経過についてもフォローを開始しているが、術後の粗大運動発達経過には個人差を認めており、先行研究で示されているような周術期因子との関連はまだ明らかとなっていない。
【目的】
当センターにて、肝移植術の対象となった乳幼児の退院後の粗大運動発達について調査し、それらに関連する入院中や周術期の要因を分析し、どのような支援が必要とされるかを検討すること。
【方法】
本研究は後ろ向き縦断研究である。当センターにて、2019年 10月から2022年6月に肝移植術を施行し、手術前/退院時/退院後3ヶ月に理学療法士が粗大運動発達評価を行った児を対象とした。粗大運動発達評価には、アルバータ乳幼児運動発達検査を用い、先行研究より、退院後3ヶ月の運動発達が10%ランク 未満を遅滞群、以上を正常群とした。診療録から原疾患、性別、葛西術有無 (回数)、各評価時期の身長・体重・BMI、およびそれらのZスコア、アルブミン値、入院時PELDスコア、手術前後 の入院期間と合計の入院期間、手術後PICU入室期間、挿管期間、手術日より理学療法士による座位/腹臥位練習開始までの日数、 手術前/退院時の運動発達評価を背景因子として抽出した。背 景因子の比較のため統計解析には、対応のないt検定、 Mann-WhitneyのU検定、X2検定を用い、統計学的有意水準を 5%とした。
【結果】
対象24例 (退院後3ヶ月時点の平均月齢:12.0±2.6ヶ月、男児 :11名)の、退院後3ヶ月時の運動発達について遅滞群 (16名)と正常群 (8名)で背景因子の比較を行うと、退院後3ヶ月時の体重Zスコア (遅滞群:-2.3±1.7SD、正常群:-0.8±0.9SD、P= 0.04)、肝移植術に伴う合計入院期間 (遅滞群:51.2日[ 40.8-62.0日]、正常群:36.8日[30.0-41.5日]、P=0.01)、手術日より理学療法士による座位練習開始までの日数 (遅滞群 :5.6日[4.0-7.3日]、正常群:3.0日[1.8-4.0日]、P= 0.04)、腹臥位練習開始までの日数 (遅滞群:32.8日[ 24.8-37.3日]、正常群:21.3日[16.3-22.0日]、P=0.01)に有意な差を認めた。
【考察】
先行研究では、肝移植術対象児の40%にサルコペニアを呈すると述べられており、本研究においても、退院後3か月の体重Zスコアに有意な低下を認め、サルコペニアの臨床症状である体重減少を示していると考えられた。また、入院の長期化や、理学療法士による早期からの粗大運動発達支援を目的とした座位や腹臥位練習の介入の遅延が、退院後の粗大運動発達に影響を与える可能性があるが、その要因については、さらなる背景因 子の検討が必要だと考えられた。また、症例数が少ないために、交絡因子の検討ができず、今後、さらなる症例数の増加、また 長期的なフォローを行い、必要な支援の検討が必要だと考えられる。
【倫理的配慮】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき行った。データの解析にあたっては匿名化を行い、取り扱いの際には漏洩がないよう配慮して行った。また、国立成育医療研究センターの倫理委員会によって承認(倫理番号2023-054)された。