小児理学療法学
Online ISSN : 2758-6456
神経筋疾患 2
先天性筋強直性ジストロフィーに対する理学療法経験―コロナ禍におけるFamily-Centered Careの実践―
加藤 くるみ飛田 良和田 直美山中 峻吾井出 康介尾木 祐子西澤 侑香傍島 宏貴吉田 大輔西倉 紀子柳 貴英
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2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 82

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抄録

【はじめに】

近年、NICUにおいて家族をチームの一員とし、児のケアや意思決定への参加を促すFamily-Centered Care (FCC)の理念が重要視されている。しかし、COVID-19感染拡大により、多くの施設で感染対策がとられたことで、特に医療的ケア児では限られた面会時間の中で、本来果たされるべき親子関係の構築よりも、医療的ケアの手技獲得を優先せざるを得ない。コロナ禍でのFCC実践について、多発関節拘縮症合併の先天性筋強直性ジストロフィー (Congenital Myotonic Dystrophy;CDM)に対する理学療法 (Physical Therapy;PT)を通して報告する。

【症例報告】

在胎32週6日、体重1728gで出生した多発関節拘縮症を有する男児。合併症として、重症新生児仮死、咽頭喉頭軟化症、リンパ管形成不全に伴う乳び胸、右難聴を認めた。

【経過】

出生直後より呼吸障害から人工呼吸器管理下となった。NICU入室後間もなく、両側気胸を発症し胸腔ドレナージ施行、日齢 27にリンパ管形成不全からくる乳び胸を併発したため、日齢 102まで続いた。日齢32に先天性多発関節拘縮症に対しPT介 入を開始した。両側下肢は常時開排位で、内転制限、膝関節- 90度の伸展制限、内反尖足をみとめた。介入時、鎮静管理下でドレーン等の留置物が多く、定期評価を行いながら、主に看護師向けのパンフレットを作成し、開排制限に対するポジショニングと関節可動域運動の指導に留めた。日齢75に遺伝子検査の結果からCDMと診断された。ドレーン抜去に伴い、日齢102から関節可動域運動の部位を股関節から四肢全体へと変更し、家族が参加できる内容のパンフレットへ変更した。また、鎮静管理終了後から座位練習を開始した。咽頭喉頭軟化症による気道障害のため、日齢137に気管切開術が施行され、日齢159の GCU転棟後からは、看護師・母親に座位練習を指導し、PT以外の時間でも積極的に実施された。この頃より、医療者が促さずとも母親から自発的に児とふれ合う機会が増えた。日齢195の一般病棟転棟から母児同室となり、両親にベビーカーの移乗およびシーティングの指導を行った。日齢208に医師付き添い下で院内散歩を実施した。退院前に訪問看護やPT、保健師との地域合同カンファレンスで担当者へ引き継ぎ、日齢227に自宅退院となった。

【考察】

CDMは、生後4週以内の新生児期に、全身の筋緊張や筋力の低下に加え、呼吸および哺乳障害を来たすとされる。出生直後に生命の危機に直面することが多く、本邦ではNICUおよび乳幼児期におけるPT介入に関する報告はない。 鎮静管理終了後早期に、肺許容量や気道クリアランスの増大、視線を変えることによる社会相互性を育む目的で座位練習を積極的に取り入れたことで、難渋していた在宅用呼吸器への移行につながったものと考える。 コロナ禍における面会制限で、本症例のように長期入院を強いられた医療的ケア児をもつ親は、面会時も医療的ケアの手技獲得に追われ、この時期に重要な愛着形成が進みにくいことが懸念される。その中で、本症例のようにFCCを意識したPTを医療者間で連携しながら行うことで、療育者が主体性を持って、児の成長や発達を感じてもらえる貴重な機会となったと考える。

【倫理的配慮】

発表にあたり、患者の個人情報とプライバシーの保護に配慮し、家族から口頭にて同意を得た。

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© 2024 一般社団法人日本小児理学療法学会
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