小児理学療法学
Online ISSN : 2758-6456
神経筋疾患 2
化学療法関連末梢神経障害を呈した幼児例に積極的運動療法が奏功した一例
清水 梨奈大段 沙緒利
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2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 84

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抄録

【はじめに】

急性リンパ性白血病の入院加療中に化学療法関連末梢神経障害 (以下, CIPN)にて歩行障害を呈した症例を経験した. 入院中は 徐々に改善が得られたものの, 退院後は変化が乏しかった. 今回,外来理学療法を実施した結果, 足関節の機能改善が得られ, 転倒軽減と粗大運動機能の改善を得たので報告する.

【方法】

症例は5歳女児, 急性リンパ性白血病, 寛解導入療法中に前脛骨筋の筋力低下をきたし,CIPNと診断された. 入院中は廃用症候 群も加わり自立歩行困難となるも, 退院時には自立歩行, 段差昇降可能まで改善した. 退院から5か月経過したものの, 足関節内反底屈傾向と頻回な転倒があり外来での理学療法開始となった.理学療法は, 1回/4週, 6か月間実施した. プログラムは足関節ストラテジーと母趾側への荷重経験を目的とした運動療法(平均台歩行, バランスボード・ポール立位, 片脚立位)を実施した. 各々の課題は支持面や操作性の観点から容易なものから始め段階的にステップアップした. 加えて道具不要で取り組みやすい課題(かえる飛び, 後ろ歩き, 足趾ジャンケンなど, 足趾・足関節運動を促す課題)をホームプログラムとして指導した. 来院時に課題の取り組み状況と遂行度を確認し, ポジティブフィードバック後に修正点を伝え, スモールステップで難易度を変更した. 課題の遂行度はCOPMで確認した.

【結果】

初期評価, 足関節背屈筋力はMMT2/2, 足関節背屈可動域は他動で膝伸展位5°/5°, 自動で膝伸展位0°/0°であり前脛骨筋の筋力低下, 足関節背屈制限を認めた. 片脚立位時間10秒/10秒. 粗 大運動は支持なしでの起立と両足飛び可能, 走行, 連続跳び, ケンケンは困難であった. 歩容はIC時foot flat, 立脚相足部内反, 外側への下腿傾斜と骨盤の側方動揺が強く, 蹴り出しは母趾へ重心乗らず推進力低下, Tsw時に遊脚側骨盤挙上の代償を認めた .TUGは8.31秒. 転倒頻度は聴取にて大小問わずほぼ毎日認めた.最終評価, 足関節背屈筋力はMMT4/4, 足関節背屈可動域は他動で膝伸展位15°/15°, 自動で膝伸展位15°/15°と筋力, 可動域ともに改善を認めた. 片脚立位時間1分以上/1分以上. 走行, 連続跳び, ケンケンも可能となった. 歩容はIC時踵接地で立脚相足部中間位, 下腿傾斜と骨盤の側方動揺はほぼ認めず立脚相安定, 母趾で蹴り出し可能でTsw骨盤挙上の代償は改善した. TUGは 6.28秒. COPMの遂行度は常に10/10, 満足度も10/10と高い結果であった. 転倒頻度は月2回まで減少した.

【考察】

本症例は薬剤投与終了後もCIPNの自然回復が得られなかった.先行研究ではCIPNに対する運動療法の効果として感覚障害や運動障害の改善が報告されている. 今回足部に着目した運動療法は前脛骨筋の収縮を促し, その結果として前脛骨筋の筋力増強に繋がり, 代償にて固定されていた足関節運動の多様性を引き出したと考える. また, 外来での理学療法の頻度が少ない中でもより効果を得るにはホームプログラムと継続的に行える指導の工夫が必要であり, 加えてご家族の協力が重要だと考える.

【倫理的配慮】

本報告はヘルシンキ宣言に基づき倫理的配慮を行った. 尚, 対象児および保護者への説明と同意を得ている

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© 2024 一般社団法人日本小児理学療法学会
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