2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 86
【はじめに、目的】
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、ジストロフィン蛋白(Dys)が欠損することで、筋萎縮と筋力低下を引き起こす遺伝性筋疾患の一つであり、未だに根治療法はない。そこで、 Dys発現が正常な筋幹細胞(MuSC)を移植してDys発現を補う 「細胞移植治療」が、新たな根治療法の一つとして期待されている。当研究室では、健常ヒト多能性幹 (iPS)細胞から MuSC(iMuSC)を作成することに成功し、さらに、それらの iMuSCをDMDマウスへ移植すると、一部の筋線維でDysが補充されることを証明した (Zhao et al., 2020)。しかしながら、移植されて生着したiMuSCが、筋損傷などの刺激に応答して活性化し筋再生に寄与するという「幹細胞としての機能」を、ホストDMD筋組織中でも維持しているのかは不明であった。また、運動機能の改善を達成するためには、約10-30%の筋線維に Dysを補充する必要があることはすでに分かっているが、 iMuSC移植単独でその補充率を達成することは極めて難しい。そこで、本研究では、iMuSC移植の前後にDMD筋に対してトレーニングを負荷して筋再生を誘発することで、生着後の iMuSCの再活性化を促し、その結果としてDys補充率をさらに増大させられるか検証することを目的とした。この成果は、トレーニング負荷がDMDマウスに対するiMuSC移植治療を促進しうる有効な介入手段であることを証明し、それと同時に、 iMuSCの幹細胞としての機能を証明することにもつながる。
【方法】
DMDマウスの後肢に等尺性収縮トレーニング (Tr)を負荷し、その24時間後にiMuSCを腓腹筋内に直接投与した。さらに、移植 2週後には再度Trが1回 (移植後1回Tr群)、もしくは、週に一回の頻度で4回 (移植後4回Tr群) 負荷された。Tr肢の反対側肢には、移植後Trは負荷されず、対照 (control)群として比較検証実験に使用した。Trは、麻酔下のマウス下腿後面に、足関節底屈最大トルク値の40%の力を発揮するように調整した電気刺激を 50回加えることで負荷された。移植5週後には筋組織を回収し、 Dys陽性線維及び損傷筋線維を検出するための組織学解析を実 施した。
【結果】
移植後1回Tr群は、control群と比較してDys陽性線維数が増加する傾向にあったが、統計学的有意差は認められなかった。しかしながら、移植後4回Tr群では、control群と比較して有意に Dys陽性線維数が増大していた。また、Trにより、Dys陰性線維では損傷が惹起されたが、一方で、全てのDys補充筋線維は損傷を受けていなかったことが確認された。
【考察】
iMuSC移植後の繰り返しTr負荷により、Dys補充率が有意に増大することが示された。この結果から、iMuSCは、少なくとも移植後4週間は「幹細胞としての性質」を維持している可能性が示された。さらに、DMDマウスに対するTr負荷は、iMuSC移植によりDysが補充された筋線維を損傷することなく、移植治療を促進させうる有効な介入手段であることも証明された。
【倫理的配慮】
本研究は京都大学動物実験委員会の審査を受け実施した(承認番号:計23-196)