抄録
補綴治療にEvidenceを与えることは非常に難しいが, その第1段階として, 咬合の客観的評価法の確立が必要である. 本稿では徳島大学歯学部歯科補綴学第二講座の研究を紹介しながら, 咬合を顎運動と関連づけて動的に捉え, 客観的に評価する方法を確立するための道筋を示した. 6自由度顎運動データと歯列の三次元形態データの座標系を重ね合わせることで, 顎運動中の咬合接触状態を解析することができるようになった. 面の向く方向から6種類に分類した咬合小面について, 咀嚼中の咬合接触状態を解析して咬合小面の機能的役割を検討した. 一方, 顎関節断層X線写真から三次元再構築した顎関節の形態データと顎運動データをリンクさせて, 顎関節の立体的運動をグラフィック上で観察する方法を開発した. 側方滑走運動のM型とD型のガイドを実験的に与えた研究で, D型ガイドでは作業側顆頭を後方寄りに誘導し, 後方の関節空隙が狭くなり, 顎関節への負荷要因となりうることが示された. また, 顎運動に調和した咬合面形態を決定する基準である咬合参照面は, 咬合小面を定量的に評価するときの基準にもなる. 生体にとって何が望ましい咬合であるかを明らかにして, 咬合評価の基準値を求めなければならない. そのためには, 咬合を定量的に表示したうえで, 咬合と顎機能やヒトのQOLの関係に関する疫学的研究, あるいは咬合を変化させる介入研究や咬合治療の追跡研究を行う必要がある. また, 補綴治療の臨床成績は術者のスキルに依存するので, どのような咬合が与えられたかを定量的に評価することも重要である.