抄録
補綴臨床に応用された磁性アタッチメントは, 最初に市販された物が口腔内に装着されてから10年が経過した. 部分床義歯の支台装置は, その安全性と有用性を判断するために約10年の術後観察が必要とされる. この10年間で磁性アタッチメントは, 特に大きな事故の発現もなく推移し, 一般臨床家に有効な支台装置であることが徐々に認められた. しかし, 磁性アタッチメントを使用したために生じた小さな臨床的問題はいくつか報告されているが, これらのトラブルに対しては的確な対応策が必要となる. トラブルの内容は, 1. 磁性アタッチメントを使用した支台歯に起こるもの, 2. 義歯に起こるもの, 3. 磁石構造体に起こるもの, 4. その他があると考えられる. そのうち, 当初よくみられた義歯の破折, 磁性アタッチメント脱落などは, 企業努力により磁石構造体の形態が小さくなったこと, 金属とレジンの接着力を高めた接着性レジンの開発などにより, 多くのトラブルが徐々に消失していった. しかし, 支台歯の歯周組織への問題と, 支台歯に負荷される機能力に対しての問題は, 現時点でも完全に解決されている訳ではない. すなわち, ほかの支台装置と同様に歯周疾患との関係には慎重に対処することが必要であり, 支台歯に負荷される機能力によって起こる歯根破折に対しても, 十分な対策が講じなければならないものと考える