日本補綴歯科学会雑誌
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咀嚼時の咬合接触からみた全部床義歯の咬合
鈴木 哲也
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2004 年 48 巻 5 号 p. 664-672

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抄録

フルバランスドオクルージョンがリンガライズドオクルージョンよりも機能的に優れていることを示すエビデンスとなる文献はみつけることはできなかった.最近では全部床義歯の咬合様式として, リンガライズドオクルージョンにおいてもフルバランスドオクルージョンと同様に, 片側性平衡咬合ではなく, 両側性平衡咬合を与えることが一般的であった.咀嚼時における非咀嚼側の咬合接触は, 咀嚼側より早く, 第二大臼歯第一大臼歯, 小臼歯の順に起こり, 義歯の転覆を防ぐと同時に, 中心咬合位への誘導という重要な役割を担っていた.そのため, 咀嚼時においても両側性平衡咬合は義歯の安定に有効であった.現代の無歯顎者は高齢であり, 顎堤の吸収や粘膜の菲薄化がすすみ, 顎機能に異常が認められる者もいる.下顎位が不安定で, 義歯装着後に変化する場合がしばしばある.そのような症例には, 嵌合関係が厳しく規制されるフルバランスドオクルージョンよりも, 変化に対応しやすく咬合調整の簡便なリンガライズドオクルージョンのほうが適している.ただし, 日本人の食文化を考えると, 咀嚼感覚という点でリンガライズドオクルージョンが適しているかどうかの疑問は残された.咀嚼感覚を評価する手法の確立が望まれる.

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