論文ID: JJPTF_2025_S3
歩行は日常生活に必要不可欠だが,加齢に伴い歩行中の転倒リスクが増加する。特に,高齢者の転倒は重症につながる可能性が高いため,高齢者の転倒防止は,現代社会における喫緊の課題である。高齢者は若年者と比較して蹴り出し力が低下し,その背景には足関節底屈筋のパワー低下を下肢近位筋の動員増加で補う神経筋代償が存在する。しかし,この代償が歩行の不安定化を招く要因となる可能性が指摘される一方で,その力学的メカニズムは十分に解明されていない。この問題に対して,コンパス型モデルや膝付きモデルなどのシンプルモデルは,複雑な筋骨格系を単純化することで歩行運動の本質を直感的に捉え,蹴り出し力の低下やminimum toe clearanceに関連するつまずきリスクの力学的基盤を説明するうえで有効である。本稿では,これらの抽象化モデルから得られた知見を概観し,高齢者の歩行研究における学術的意義と今後の展望について論じる。