基礎理学療法学
Online ISSN : 2436-6382
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原著
  • 則松 貢輔, 中西 和毅, 柿元 翔吾, 野島 菜央, 谷 明, 松崎 凌真, 松岡 輝樹, 稲留 真輝, 加藤 夕貴, 立部 勇汰, 高田 ...
    原稿種別: 原著
    2023 年 26 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    [早期公開] 公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

     本研究は自然発症型変形性膝関節症(以下,膝OA)を呈する老化促進マウス(SAMP8)を用いて,トレッドミル運動と水泳がOA病態,関節可動域,横径,歩容に及ぼす影響を調べ,運動効果の違いを明らかにすることを目的とした。マウスを非運動群,トレッドミル運動群,水泳群(各6匹)に無作為に分類した。トレッドミル運動は速度10~12 m/min,水泳は水温37~38℃で,15分/ 日,週5日,6週間実施した。非運動群と比較して,両運動群は膝関節可動域や歩幅の改善を示した。さらにII 型コラーゲン陽性軟骨細胞の増加,MMP-13陽性軟骨細胞の減少,滑膜のTNF-α陽性細胞の減少を認めた。特に水泳群の歩幅は有意な改善を認め,軟骨恒常性維持に重要なタンパク質であるII型コラーゲン陽性軟骨細胞は有意に増加していた。本研究は,運動が加齢による軟骨変性を緩和し,関節可動域や歩容を改善させることを示した。また,水泳が膝OA軟骨の恒常性維持や歩容改善に有益であることを示唆した。

  • 田中 貴士, 浦 大樹, 前田 拓哉, 柳田 寧々, 三次 恭平, 古木 ほたる, 上野 将紀
    原稿種別: 原著
    2023 年 26 巻 1 号 p. 11-20
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    [早期公開] 公開日: 2023/07/20
    ジャーナル フリー

    脳が損傷を受けると重篤な機能障害が生じる。脳損傷患者の多くは高齢者であるが,高齢なモデル動物を用いた研究はほとんど進んでいない。本研究では,高齢期の脳損傷モデルマウスにおいて,自発的かつ継続的な走行運動がもたらす皮質脊髄路の神経発芽や運動回復への効果を検証した。高齢マウスでは,若齢期にみられる脳損傷後の脊髄内での皮質脊髄路の発芽が生じず,運動機能が回復しない一方,自発的運動が発芽を増大させることが明らかになった。また,高齢期における脳損傷前後の運動が誘発する運動野の遺伝子変化を網羅的に解析した結果,運動群では概日時計関連遺伝子が増加することが示された。さらに,自発的運動の継続が高齢マウスの昼夜の活動リズムを若齢期に類似したパターンに回復させることも明らかになった。自発的かつ継続的な運動は,加齢により乱れる概日リズムを調整し,失われていた脳損傷後の神経修復力を回復させる可能性が示された。

  • 大塚 健太, 冷水 誠
    原稿種別: 原著
    2023 年 26 巻 1 号 p. 21-29
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    [早期公開] 公開日: 2023/09/09
    ジャーナル フリー

    【目的】健常若年者を対象とし,ステップ動作におけるステップ距離の予測可否およびステップ距離の違いが予測的姿勢制御(Anticipatory Postural Adjustments:以下,APA)反応に与える影響を検証することを目的とした。【方法】健常若年者20 名を対象に,身長に応じた3 つの距離でのステップ動作を事前に距離を教示する条件およびステップ直前に提示する条件にて実施し,各種条件におけるAPA 時間,下肢筋活動時間および筋電図間のコヒーレンスを算出し比較した。【結果】筋活動時間においては予測可否によってステップ側前脛骨筋・支持側ヒラメ筋,ステップ距離によってステップ側前脛骨筋・腓腹筋外側頭に有意差を認めたものの,APA 時間およびコヒーレンスにおける有意差は認められなかった。【結論】健常若年者においては,ステップ距離の予測可否およびステップ距離の違いがAPA 反応に及ぼす影響が少ない可能性が示唆された。

総説
  • 黒部 正孝, 嘉戸 直樹, 鈴木 俊明
    原稿種別: 総説
    2023 年 26 巻 1 号 p. 30-35
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    [早期公開] 公開日: 2023/07/21
    ジャーナル フリー

     F波とは,α運動神経の軸索に電気刺激を与え発生した逆行性インパルスが脊髄前角細胞を再発火させ,順行性インパルスとなり末梢の支配筋で記録された複合筋活動電位である。これまで外側広筋からF波を記録する際は,鼡径部を電気刺激していたが,この方法では様々な問題が生じる。そこで我々は大腿の近位から50~80% 地点に刺激電極を貼付し,新たな刺激部位を検討した。その結果,大腿の近位から70,80%地点を刺激した際に多くの対象者でF 波の記録に成功した。しかし電気刺激により強い痛みを感じる対象者もいた。次に我々は電気刺激の頻度を変化させ,外側広筋からF波を記録する際の痛みを軽減する方法を検討した。その結果,0.5 Hz の電気刺激と比較して,0.2 Hz の電気刺激を行った際に痛みが軽減した。これらの研究により,多くの対象者で外側広筋からF波を記録できるようになると考えられ,今後の臨床応用が期待される。

  • 谷 恵介
    原稿種別: 総説
    2023 年 26 巻 1 号 p. 36-41
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    [早期公開] 公開日: 2023/07/25
    ジャーナル フリー

    自己の身体や外部物体を位置・方向づけること(以下,空間定位)は,意図する行為を達成する上で必要不可欠である。空間定位には,重力中心空間定位(重力軸に対する身体や外部物体の方向推定)と自己中心空間定位(身体部位を基準とした外部物体の方向推定)の2つが存在する。著者らは,自己中心空間定位に着目し,身体傾斜を用いた実験を通してその特性と神経基盤を検証してきた。一連の実験結果より,身体が傾いた状況下では身体軸を基準とした物体の傾き推定に歪みが生じること,そしてその現象は,主観的な身体の傾き感覚と強く関連することが明らかとなった。この知見は,自己と物体の空間関係を推定する際,重力軸を参照するというヒトの特性を示唆している。さらに,脳形態解析を用いた研究ならびに脳損傷患者を対象とした神経心理学研究を通じて,その特性には右後頭側頭領域が重要な役割を果たしている可能性が示された。これらの知見は,重力環境下におけるヒト空間知覚メカニズムの基礎的な理解の促進に貢献する。

  • 中村 雅俊
    原稿種別: 総説
    2023 年 26 巻 1 号 p. 42-46
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    [早期公開] 公開日: 2023/07/26
    ジャーナル フリー

    ここ20年,特にスポーツ選手がセルフケアとしてフォームローラーを行う場面を多く見る。しかし,その効果については十分明らかになっていなかった。そこで我々は若年者を対象に即時的および長期介入効果の検討,また実際の理学療法現場を想定して損傷筋(遅発性筋痛)に対する効果の検討を行った。その結果,通常のフォームローラー介入では関節可動域は増加する一方,筋硬度の指標である筋弾性率に有意な変化は認められなかった。しかし,振動療法を同時にできる振動付きフォームローラー介入では特に筋腹部分を刺激することで筋弾性率が減少する可能性を示すことができた。また損傷筋に対するフォームローラー介入においても疼痛や関節可動域の改善効果が認められる結果となった。以上より,今後,臨床現場でフォームローラー介入がストレッチングに変わって用いる有用性を示唆することができた。

  • -麻痺上肢の不使用に対する新しいリハビリテーションを目指して-
    平山 健人, 大須 理英子
    原稿種別: 総説
    2023 年 26 巻 1 号 p. 47-52
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    [早期公開] 公開日: 2023/08/03
    ジャーナル フリー

    私たちは,日常生活の中で,目の前のコップをつかむ時などに,無意識のうちに使う上肢の選択を行っている。脳卒中後に生じる片側上肢の麻痺は,リハビリテーションによって,ある程度の機能が回復する。一方で,麻痺上肢の機能が回復しても,日常生活などの麻痺上肢の使用を強制されない状況では,非麻痺上肢で代償し,麻痺上肢を使わなくなってしまうことがある。この麻痺上肢の不使用は,麻痺上肢の機能を低下させる要因となる。このため,麻痺上肢の使用を強制されない状況でも,無意識のうちに麻痺上肢を使わせるような介入を提案することが重要となる。我々は,上肢の選択に関する神経メカニズムに着目し,上肢の選択に影響を及ぼすニューロモジュレーション法について検討してきた。本稿では,上肢の選択に関する決定要因についてまとめ,後頭頂葉への経頭蓋直流電気刺激が上肢の選択に及ぼす影響に関する研究成果について紹介する。

  • 中西 智也
    原稿種別: 総説
    2023 年 26 巻 1 号 p. 53-59
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    [早期公開] 公開日: 2023/09/16
    ジャーナル フリー

    パラリンピック・アスリートは,喪失した心身機能を代償し,高いパフォーマンスを発揮するために,神経システムの可塑性を最大限に発揮していると考えられる。本稿では,脊髄損傷アスリートと下肢義足アスリートの脳構造・機能に関する研究結果を概観し,適応の背景にある神経機序について議論する。脊髄損傷アスリートでは,一次運動野の上肢支配領域が拡張し,また,一次運動野と上頭頂小葉間の機能的結合性が増強し,高い上肢運動機能を発揮する神経基盤となっている可能性が示された。また,下肢義足アスリートでは,断端部収縮時に同側一次運動野の脳活動が増強し,前部帯状回や背外側前頭前野といった意欲-運動ネットワークとの相関が見られた。これらの結果は,パラアスリートの脳再組織化には,障害由来性代償的変化と使用頻度依存性可塑的変化の両方の要因が関与しており,その相互作用が特異的な脳再組織化を誘発していると考えられる。

  • 吉岡 潔志, 今井 眞一郎
    原稿種別: 総説
    2023 年 26 巻 1 号 p. 60-65
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    [早期公開] 公開日: 2023/09/28
    ジャーナル フリー

    NAD+(nicotinamide adenine dinucleotide)は,老化・寿命の制御因子であるサーチュイン活性をはじめ,エネルギー生産,DNA の修復等様々な反応に用いられる。全身の組織のNAD+ は加齢とともに減少し,「老化」として捉えられる機能低下の重要な一因となることがわかってきた。そこで,NAD+ の補充は有効な抗老化医療の手段として期待されている。組織におけるNAD+ 合成は主に,NAMPT(nicotinamide phosphoribosyl-transferase)を律速段階とする経路に依存している。近年,脂肪組織のNAMPT は細胞内のNAD+ を合成するだけでなく,EV(extracellular vesicles)に内包されeNAMPT(extracellular NAMPT)として血中に放出されていること,代謝の中枢として知られる脳の視床下部のNAD+ 合成を高めること,さらに,eNAMPT の増加は寿命延長など全身性に顕著な抗老化作用をもたらすことが報告された。我々は,運動による全身性の抗老化作用にeNAMPT を介したNAD+ 合成が関与している可能性を考え研究を進めている。本稿ではNAD+ 代謝と老化制御について整理し,運動と健康長寿を結ぶ可能性を持つeNAMPT について概説する。

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