日本鼻科学会会誌
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原著
硝酸に長期間曝露した症例に生じた前頭洞嚢胞の手術例
志村 智隆野垣 岳稔粟倉 秀幸浜崎 泰佑滝口 修平伊藤 彩子山田 良宣門倉 義幸洲崎 春海
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2014 年 53 巻 4 号 p. 572-577

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抄録

今回,我々は硝酸に長期間曝露した症例に生じた前頭洞嚢胞に対して手術加療を行った。症例は66歳男性。鼻手術の既往なし。職業歴は主にステンレスを扱う加治工50年であり,溶接した金属の洗浄の際に高温・高濃度の硝酸を使用していた。当時(昭和40年頃)は防護マスクの着用習慣はなく,患者は長期間気化した硝酸や付随して生じる窒素酸化物に曝露していた。2013年1月中旬に出現した左眼周囲腫脹を主訴に近医受診。頭部MRI検査にて前頭洞嚢胞を指摘され,当院当科を紹介受診した。画像上は貯留嚢胞が疑われ,初診時は視力障害や眼球運動障害を認めなかったが一部骨浸食の所見があり早期の手術が必要と考えた。同年1月下旬に左前頭洞根本手術(Draf 2b)施行。左前頭洞嚢胞を解放するも左上眼瞼の腫脹は改善せず,眼瞼皮膚に対する表皮切開のみ加えたが少量の膿汁流出を見るのみであった。その後の経過は問題なく,術後3日で退院。左上眼瞼の腫脹は退院後約1週間で消失。この腫脹は嚢胞からの炎症波及によるものと思われた。経過は良好で現在外来管理中である。我々が渉猟し得る限りこれまでに硝酸曝露と前頭洞嚢胞・鼻中隔穿孔の発症との直接的な因果関係を証明する論文報告はなされていないが,硝酸が生体の粘膜障害を起こすことは知られている。本症例では鼻手術の既往がなく,硝酸への長期間の曝露が前頭洞嚢胞・鼻中隔穿孔の一因をなしている可能性が示唆された。

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