日本鼻科学会会誌
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最新号
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線毛機能不全症候群の診療の手引き
総説
  • 市村 恵一
    原稿種別: 総説
    2023 年 62 巻 1 号 p. 109-118
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/21
    ジャーナル フリー

    オスラー病患者のほとんどが症状として持つ鼻出血であるが,耳鼻咽喉科医ですら適切な対処が取られていない。厄介な鼻出血の原因にオスラー病があると知識には持っていても,治療に懸命になっている最中に本疾患を思いつく耳鼻咽喉科医は少ないのが実情である。そこで,耳鼻咽喉科医がオスラー病だと判定するためのコツと,鼻出血への対処法の要諦を述べる。オスラー病が見過ごされてしまう理由は,診断基準の理解不足,病歴聴取の不足,局所所見のとり方の不徹底に尽きる。診断にはキュラソー診断基準が用いられる。鼻出血患者においては,鼻出血以外の3項目中2項目を満たせば確定例となる。鼻出血を反復している患者さんの鼻の中を見て,血管拡張があると分かった時点でもう臨床診断の疑い例に該当する。あとは問診で,鼻出血の家族歴があったり,肺の血管塞栓や脳梗塞の既往歴があれば確定になるので,そう診断は難しくない。肉眼上血管病変は千差万別で,変化もするので,病歴に比して病変が軽度の時は時期を変えて観察するのがよい。出血のほとんどは鼻腔最前部粘膜からなので,出血時には母指で鼻翼を数分間圧迫させる。止まらないときにはカルトスタット®などを緩めに多めに,血液が染みてこなくなるまで挿入していけば止血する。現状では確実な治療法は存在しないので,出血を予防し,症状を軽減するのが治療目標で,血管壁やその周囲の結合織の強化,それに刺激の減少を図る。

原著
  • 齋藤 善光, 赤羽 邦彬, 多村 悠紀, 川島 孝介, 室井 良太, 藤谷 博人, 肥塚 泉, 小森 学
    原稿種別: 原著
    2023 年 62 巻 1 号 p. 119-128
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/21
    ジャーナル フリー

    スポーツ業界では,自転車エルゴメーターやトレッドミル等を用いた運動試験において,マラソン競技の様な持続的運動が,鼻呼吸障害により運動能力へ影響を及ぼすと報告されている。しかし,サッカー等の競技時間の中で,休息時間となる低強度運動と,無酸素運動を伴う高強度運動を何度も繰り返す,間欠的高強度運動においては,鼻呼吸障害による運動能力への影響が明らかにされていない。今回我々は,鼻呼吸障害,いわゆる鼻閉状態を人為的に作成し,鼻呼吸障害が及ぼす持続的運動と間欠的高強度運動への影響を検討した。運動試験の手法としては,よりスポーツ現場に近い環境下での測定を考慮し,持続的運動に対しては20 mシャトルランを,間欠的高強度運動に対してはYo-Yo IRを選択し,走行回数や心拍数,アンケートによる調査を行った。結果は両運動において,正常状態に比し,強制的鼻閉状態で有意に走行回数の減少を認めた。同様に,アンケート調査でも,両運動共に強制的鼻閉状態で,有意に高負荷となる結果が得られた。また,心拍数の検討では,経時的な心拍数変化は両運動共に,正常状態と強制的鼻閉状態で同等の変動であったが,運動終了直後の心拍数は強制的鼻閉状態においてより低い結果となった。加えて,アンケート結果では,有意に呼吸状態の悪化を認めた。以上から,鼻腔の通気性は持続的運動のみならず,間欠的高強度運動へも影響を与える因子であり,運動能力のみならず,精神的にも影響を及ぼす可能性があると示唆された。

  • 秋山 貢佐, 寒川 泰, 星川 広史
    原稿種別: 原著
    2023 年 62 巻 1 号 p. 129-134
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/21
    ジャーナル フリー

    嗅覚検査法として本邦ではT&Tオルファクトメーター(T&T)を用いた基準嗅力検査が一般的である。オープンエッセンス(OE)や日常のにおいアンケート票(SAOQ)による嗅覚評価では基準嗅力検査との相関性は高いとされている。手術加療を行った好酸球性副鼻腔炎(ECRS)105例を対象とし手術前および術後3か月で施行された各検査間の相関性,治療効果判定結果について検討を行った。T&T平均認知域値(T&T値)とOE,SAOQの相関係数は−0.81,−0.74であり強い相関を認めた。T&T値を基に回帰分析を行い,OE,SAOQの治療効果判定基準を設定し,症例ごとにT&T値,OE,SAOQそれぞれで治癒・軽快・不変・増悪の判定を行うと,OEおよびSAOQではT&T値に比べ治癒判定が多く軽快判定が減少する傾向を認めた。治癒・軽快(改善)と不変・増悪(非改善)に大別して各検査法での判定を行うと改善率はT&T値71.4%,OE 69.7%,SAOQ 62.2%となった。T&T値とOEでは改善/非改善の結果が不一致であったものは16例(16.2%),T&T値とSAOQでは23例(23.5%)であった。OEによる検査やSAOQを用いた自覚的評価はT&Tの結果をある程度反映しうるが,各検査間では結果に乖離が生じる場合があることに留意する必要がある。

  • 乾 崇樹, 寺田 哲也, 菊岡 祐介, 高木 春花, 須藤 智之, 堀井 翔平, 鈴木 英佑, 野呂 恵起, 鈴木 倫雄, 河田 了
    原稿種別: 原著
    2023 年 62 巻 1 号 p. 135-142
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/21
    ジャーナル フリー

    副鼻腔真菌症は病態により急性浸潤性,慢性浸潤性,慢性非浸潤性,アレルギー性の4つに分類され,このうち慢性非浸潤性が最も頻度が高い。これは通常一側性で上顎洞に多く,しばしば保存加療抵抗性で,病変除去のみならず浸潤性真菌症への移行を防ぐ目的で内視鏡下手術が行われる。

    本研究では,慢性非浸潤性上顎洞真菌症の術前診断精度を評価するため,慢性非浸潤性上顎洞真菌症(真菌症群)と一側性慢性副鼻腔炎(CRS群)について後方視的に比較検討した。結果,副鼻腔単純CTで計測した上顎洞骨壁厚は後壁では真菌症群で有意に肥厚が強く,前壁では両群間に差はなかった(前壁;p=0.21,後壁;p=0.04)。またCTにおける洞内の石灰化濃度病変は真菌症群に有意に多く見られた(p<0.001)。さらに,副鼻腔単純MRIのT2強調画像における洞内の無信号域は真菌症群に有意に多く見られた(p<0.001)。対象例における画像診断精度は,CTにおける石灰化濃度病変の有無では感度0.688,特異度0.839で,MRI T2強調画像における無信号域の有無では感度1,特異度0.968であった。またCTで石灰化濃度病変を認めなかった例は真菌症群で有意に女性が多かった。

    以上より慢性非浸潤性上顎洞真菌症の画像診断において,単純CTに加えて単純MRIを施行することが診断精度の向上に寄与し,特に女性においてその傾向が強いと考えられた。

  • 赤澤 仁司, 長井 美樹
    原稿種別: 原著
    2023 年 62 巻 1 号 p. 143-147
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/21
    ジャーナル フリー

    【はじめに】外傷性嗅覚障害とは頭部・顔面外傷に伴い,脳実質の損傷等により生じる嗅覚障害である。予後因子の1つとして,受傷から受診までの罹病期間が報告されているが,その期間について検討されている報告は少ない。そこで,今回我々は外傷性嗅覚障害における受傷から受診までの罹病期間について調査し,その調査結果を踏まえて,罹病期間に影響を与えた因子についても検討したので,報告する。

    【対象と方法】2015年7月から2020年12月までの間に堺市立総合医療センター耳鼻咽喉科・頭頸部外科を受診し,外傷性嗅覚障害と診断された患者21名を対象とした。対象の受傷から受診までの罹病期間や,その期間に影響を与えた因子等について後方視的に調査した。

    【結果】受傷から受診までの罹病期間は,0か月から23か月に分布しており,中央値は5か月であった。受傷から嗅覚障害の自覚までの期間については,8例で受傷2か月以降に嗅覚障害を自覚しており,受傷後直ぐには嗅覚障害を自覚していなかった。また,嗅覚障害自覚後に他診療科で無治療のまま経過観察とされていたために受診までの期間が延長した症例も存在していた。

    【結論】頭部・顔面外傷患者は自覚症状がなくとも嗅覚障害を合併している可能性があることを念頭に置き,診療にあたることが外傷性嗅覚障害の早期発見に繋がる。耳鼻咽喉科のみならず,頭部・顔面外傷患者と関わる診療科へ外傷性嗅覚障害の病態等について啓発していくことも受傷から受診までの罹病期間を短縮することに寄与すると考える。

症例報告
  • 高木 大樹, 本多 伸光
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 62 巻 1 号 p. 148-152
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/21
    ジャーナル フリー

    顎変形症に対する矯正手術として上顎骨切り術(Le Fort I型骨切り術)は頻用される術式である。顎顔面外科領域では術後合併症として鼻閉を生じた報告が主に海外で散見されるものの,耳鼻咽喉科学的見地からの報告は少ない。今回我々はLe Fort I型骨切り術直後より生じた鼻閉に対して鼻腔形態改善手術を行い,良好な経過をたどった一例を経験した。

    症例は26歳女性,顎変形症による咬合不全の改善目的にて,当院形成外科にてLe Fort I型骨切り術を施行した。術直後より鼻閉症状を生じ,改善を認めないため,術後5日目に当科紹介され受診した。CTでは上顎が骨切りによって4 mm上方移動したのに伴い,鼻中隔軟骨が右方向に大きく偏位し高度の前弯を形成していた。薬物療法やネブライザーなどの保存的治療で改善なく,形成外科術後4か月でhemitransfixion approachによる鼻中隔矯正術および両側粘膜下下鼻甲介骨切除術を施行した。術後鼻閉は著明に改善し経過良好である。

    Le Fort I型骨切り術では上顎骨の上方移動に伴い鼻腔の上下幅が短縮されるため,鼻中隔弯曲症や鼻閉をきたす可能性がある。顎顔面外科医と耳鼻咽喉科医の間で情報共有を行う必要があると考える。

  • 岩村 泰, 荒井 康裕, 松本 悠, 和田 昂, 波多野 孝, 折舘 伸彦
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 62 巻 1 号 p. 153-158
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/21
    ジャーナル フリー

    腎細胞癌は血行性転移が多いとされているが,鼻副鼻腔への転移は比較的稀とされる。鼻出血を契機に発見された腎細胞癌副鼻腔転移の1例を経験したので報告する。

    症例は74歳男性。既往歴として,60歳時に腎細胞癌(淡明細胞癌)で右腎摘出,転移に対して66歳時に右副腎摘出,67歳時に左副腎摘出,71歳時に傍下大静脈周囲リンパ節摘出術を施行された。X日に右頬違和感を感じていたが改善した。X+90日に鼻出血を認め,持続するためX+117日に前医を初診した。右下鼻甲介後端付近から出血を認め焼灼止血を行った。止血後の診察で,徐々に下鼻道外側壁が腫脹してきたためCTを撮影したところ,上顎洞内を充満し周囲を圧迫する腫瘍性病変を認め当科紹介受診した。MRIでは,T1強調iso intensity,T2強調iso–high intensityで内部まだら状の上顎洞後壁に基部が予測される42 mm大の腫瘍性病変を認めた。診断的治療目的で全身麻酔下に上顎洞腫瘍摘出術を施行した。術中迅速病理では,高悪性度腫瘍は否定的であり,内視鏡下で腫瘍を適宜減量しながら骨面から剥離し肉眼的に全摘術を行った。術後病理診断の結果,淡明細胞癌であり,腎細胞癌の副鼻腔転移と診断した。術後22か月時点で再発を認めていない。

    転移性鼻副鼻腔腫瘍の原発巣として,腎細胞癌は最多とされる。悪性腫瘍の既往のある症例に鼻副鼻腔腫瘍を認めた場合,転移の可能性を念頭に置く必要があると考えられた。

  • 高林 宏輔, 片岡 信也
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 62 巻 1 号 p. 159-166
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/21
    ジャーナル フリー

    外傷性視神経症は頭部顔面外傷に合併して起こりうるまれな疾患である。外科的治療として視神経管開放術が,保存的治療としてステロイド投与が施行されるが,定まった治療法はない。それゆえ症例ごとに治療の選択や導入のタイミングを判断していくことが大切である。今回われわれは受傷時に意識障害を伴う外傷性視神経症例について報告する。

    症例は36歳,男性。交通事故により受傷して当院に救急搬送された。意識障害を認め,視力は光覚弁であった。Computed tomography(CT)では右視神経管に骨折の所見を認め,外傷性視神経症と診断された。即日ステロイドパルス療法を開始しつつ意識障害の改善を待つこととした。意識障害は改善し,入院4日目には視力も改善傾向であったが,右視神経管骨折のためと思われる右眼の視野障害を認めたため5日目に内視鏡下視神経管開放術を施行した。術後から再度ステロイドパルス療法を施行し,14日目に退院となった。術後3ヶ月での視野検査では視野障害は改善し,視力は0.1まで改善した。

    CTで骨折を認める外傷性視神経症であったが意識障害のために手術を遅らせることとなった。受傷後5日目の手術であったが視機能は改善した。意識障害を伴う外傷性視神経症では,ステロイドパルス療法を先行させつつ意識障害の回復を待ってから外科的治療を導入することは有効と考えられた。

  • 徳永 貴広, 植田 芳樹, 坂下 雅文, 高林 哲司, 成田 憲彦, 真鍋 恭弘, 藤枝 重治
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 62 巻 1 号 p. 167-172
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/21
    ジャーナル フリー

    サルコイドーシスは原因不明の肉芽腫性疾患で,鼻腔に病変が生じる例はおよそ1%程度と比較的稀である。発症すると鼻閉や痂皮形成,鼻出血,嗅覚障害などの症状や鼻涙管閉塞などを呈し,生活の質が低下する。今回我々は慢性副鼻腔炎と鼻涙管閉鎖症に対し手術を要した鼻腔サルコイドーシスの一例を経験したので報告する。

    症例は39歳男性。すでに他院でサルコイドーシスと診断されていたが,流涙,涙嚢部の腫脹,鼻閉を主訴に当院眼科および耳鼻咽喉科を受診した。鼻粘膜は痂皮と肉芽形成により腫脹し,副鼻腔炎および鼻涙管閉鎖を認めた。保存的治療での改善は困難と判断し,まず内視鏡下鼻副鼻腔手術IV型を施行した。術後からステロイド内服を開始し炎症をコントロールした後,副鼻腔手術術後10日目に涙嚢鼻腔吻合術を施行した。涙道は鼻涙管下端で閉塞しており,特に左側の涙嚢部は癒着が強く鼻腔からの距離が遠く,癒着を解除して涙管チューブを挿入した。術後はステロイド内服を漸減しながら継続した。術後2カ月目には涙管チューブを抜去し,その後は鼻腔内の痂皮形成は続いているものの,副鼻腔炎の再発も吻合部の再閉塞もなく経過している。

    サルコイドーシスによる肉芽および痂皮形成にともない,副鼻腔炎および吻合部の閉塞が再発する可能性は高いことが予想されるため,今後も慎重な経過観察が必要である。

第61回日本鼻科学会総会・学術講演会
会長講演
日本鼻科学会賞受賞講演
招待講演(Invited lecture)
Presidential lecture of KRS, TRS
日韓台シンポジウム1(JKT symposium 1) Olfactory training
日韓台シンポジウム2(JKT symposium 2) Type2 Rhinosinusitis
International session 1
International session 2
International session 3
International session 4
特別企画:海外留学のすすめ
特別講演
シンポジウム1:嗅覚障害 研究最前線
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