日本鼻科学会会誌
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原著
視力消失を来した乳癌の副鼻腔転移例
佐々木 崇博川島 佳代子服部 賢二藤田 茂樹
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キーワード: 副鼻腔転移, 乳癌
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2019 年 58 巻 4 号 p. 691-697

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抄録

【症例】81歳女性【主訴】左視力消失【既往歴】20XX年に乳癌に対し他院乳腺外科にて手術およびホルモン療法を施行され,以降,局所再発所見なく外来経過観察中。【現病歴】20XX+6年,左視力消失を主訴に住友病院眼科を受診。鼻副鼻腔CTにて左鼻副鼻腔から頭蓋底に及ぶ腫瘍を認め,精査加療目的に当科紹介受診となった。【経過】当科初診時,左嗅裂から上咽頭側壁にかけて易出血性の腫瘤を認め,当科外来にて内視鏡下に左鼻腔腫瘍の組織生検を実施し,免疫染色を含めた病理学的検査にて乳癌の鼻副鼻腔転移の診断となった。乳腺外科で放射線照射およびホルモン療法を施行し,腫瘍の縮小効果が得られ,視力は光覚弁まで回復。現在,乳腺外科および当科外来にて経過観察中である。【考察】鼻副鼻腔悪性腫瘍は大部分が原発性腫瘍であり,転移性腫瘍は0.7~1.5%とまれである。転移性腫瘍の原発部位としては,腎臓あるいは肝臓が大半を占め,その他の部位からの転移はまれである。また,乳癌の転移部位としては,所属リンパ節,骨,肺,肝臓,脳が多く,頭頸部への転移は少ないとされている。本症例は,乳癌治療終了後5年以上が経過し,局所再発は無かったものの,鼻副鼻腔に遠隔転移が出現し失明を来したまれな症例である。乳癌は治療終了後,長期間を経たのちに遠隔転移を認めることもあり注意を要する。また鼻副鼻腔腫瘍は原発性腫瘍が大半であるものの,転移性腫瘍の可能性も念頭において診断を行うことが重要である。

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