日本鼻科学会会誌
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原著
蝶形骨洞炎の波及による下垂体膿瘍に起因するADH不適合分泌症候群(SIADH)例
加藤 照幸荒井 真木水田 邦博野澤 美樹
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キーワード: SIADH, 蝶形骨洞炎, 低Na血症
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2021 年 60 巻 4 号 p. 516-521

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抄録

抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(以下SIADH)は血漿浸透圧が低下しても抗利尿ホルモンの分泌が十分抑制されず,水利尿不全から体内水貯留が進行して希釈性の低Na血症を呈する。原因に中枢性疾患,肺疾患,異所性ADH産生腫瘍,薬剤性がある。中枢性疾患は脳腫瘍,脳炎,髄膜炎,クモ膜下出血,頭部外傷等があり視床下部からのADH分泌が直接刺激されるためである。今回,蝶形骨洞炎から下垂体へ膿瘍形成を生じ,SIADHを呈した症例を経験したので報告する。症例は75歳女性,尿失禁,便失禁,意識混濁のため当院救急搬送された。Na 103.2 mEq/lと著名な低Na血症と頭部CTでトルコ鞍底部に骨溶解を伴う右蝶形骨洞炎が疑われ入院となった。頭部MRIで右蝶形骨洞から下垂体に連続する下垂体膿瘍を疑う陰影を認めた。内分泌内科医により水制限とNa補充が行われ,入院7日目に当科と脳神経外科で拡大蝶形骨洞手術を施行した。蝶形骨洞内は膿が充満し,トルコ鞍底部の骨は溶解していた。髄液漏出はなく開窓部を鼻中隔から採取した遊離骨移植で再建した。術後経過は良好で血清Naは基準値内となり臨床症状も改善し術後14日目に退院となった。本症例はトルコ鞍底の骨溶解部から炎症が下垂体へ波及しSIADHを発症したと考えられる。本経験から意識混濁を伴う低Na血症の鑑別にSIADHを考え,蝶形骨洞炎の頭蓋内への波及に注意を払うべきと考えた。

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