1997 年 35 巻 12 号 p. 1368-1371
血清学的に陰性であったが, polymerase chain reaction (PCR) 法を用いて診断に至った恙虫病の一剖検例を経験した. 症例は54歳男性. 長野県に単身赴任中に感冒症状を訴え近医受診, セフェム系抗菌薬の投与を受けたが改善しなかった. 胸部X線写真上の異常陰影と高度の肝機能障害を呈し, 対症的治療に反応せず集中治療目的で当救命センター入院となった. 両上下肢に紅斑散在, 右大腿内側, 左足甲の痂皮の存在より恙虫病を疑いミノサイクリンの投与を開始したが症状の改善無く, 経皮的心肺補助等の積極的治療の甲斐なく死亡した. 従来の血清学的検索では診断がつかなかったが, 血液, 死体肺組織を用いたPCR法により Karp 型リケッチアのDNAを証明し, 恙虫病と診断した. 剖検では従来報告されていない, 急性の出血性膵炎が認められた. PCR法は今後志虫病の急性期の診断に有用と考えられた.