2014 年 75 巻 3 号 p. 726-730
症例は抗凝固療法を受けていた80歳,女性.転倒後10日目に腹痛を主訴に当院受診.精査により血性腹水を認め,腫瘤性病変は結腸壁内血腫と推定された.保存的治療により全身状態は改善し,腹部症状も消失した.転倒後16日目に再度腹痛が出現し,腹部CT検査によって消化管穿孔による急性汎発性腹膜炎と診断し緊急手術を施行した.緊急手術の所見では横行結腸脾彎曲部の壁内血腫と穿孔を認め,結腸部分切除術と人工肛門造設術を施行した.病理組織学的検査では固有筋層の断裂と肉芽組織への置換がみられ,また,比較的慢性の虚血性変化が認められた.本邦では腹部鈍的外傷後の遅発性結腸穿孔4例が報告されているが,その原因には腸管壁の虚血が関与していることが示唆された.自験例でも,外傷による腸管損傷と抗凝固療法に伴う出血傾向によって血腫が増大し,結腸壁の虚血変化を増悪させた結果,脆弱化した部位が穿孔に至ったものと考えられた.