日本臨床外科学会雑誌
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巻頭言
綜説
  • 山田 岳史
    2026 年87 巻1 号 p. 1-6
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    本稿では,大腸癌におけるprecision medicineの現状と展望を概説する.ヒトゲノム計画やPrecision Medicine Initiativeを契機に,がんゲノム医療が急速に進展し,分子異常に基づく個別化治療が現実化した.一方で,がんの空間的・時間的不均一性が治療抵抗性の主要因として認識され,これを克服する手段としてliquid biopsyが注目されている.特に,循環腫瘍DNAを用いたminimal residual disease(MRD)評価は,再発リスクや術後補助療法の有効性を予測しうる新たな指標であり,TNM分類に血液学的情報を加えた「TNMB分類」への発展が期待される.また,precision surgeryの概念が登場し,AI・画像解析・分子情報を統合して根治性と機能温存の両立を図る外科医療が進みつつある.今後は,費用対効果や地域格差の是正を含む“equity-based precision medicine”の実現が,真の精密医療の鍵となる.

臨床経験
  • 高 賢樹, 宮本 剛士, 西田 保則, 小田切 範晃, 田内 克典
    2026 年87 巻1 号 p. 7-11
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    目的:膵切除後の生存期間延長に伴い,術後膵外分泌不全(PEI)が注目されている.これに対し,膵酵素補充療法としてパンクレリパーゼ(リパクレオン®:以下,リパクレオン)が処方されているが,投与開始や減量の明確な基準はない.本研究では実臨床における投与の目安を明らかにすることを目的とした.方法:当科で膵切除を施行した223例を対象に,リパクレオンの開始時期,要因,処方期間,投与量,術式,中止因子を検討した.結果:術後PEIと診断されリパクレオンが処方されたのは70例(31%)であった.投与例のうち58例(83%)は術後1年以内に開始され,主因は脂肪肝と下痢であった.処方期間は1カ月~4年(中央値6カ月)で,約7割に900mgが投与され,推奨用量の1,800mgは少数であった.結論:術後1年以内の下痢や脂肪肝に注目することで適切な処方が可能であり,推奨量の半量でも有効性が得られる可能性が示唆された.

症例
  • 和久 利彦
    2026 年87 巻1 号 p. 12-16
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    症例は橋本病と甲状腺囊胞性腫瘤の既往のある52歳,女性.甲状腺左葉の急速な腫大,嚥下困難,呼吸困難を主訴に近医より当院へ紹介.超音波所見では,無エコーの囊胞や充実成分のある囊胞が混在する多房性囊胞性腫瘤が甲状腺左葉の大部分を占め,右葉には一部に充実成分,大部分が充実成分で占められた2つの囊胞性腫瘤を認めた.両葉の囊胞性腫瘤の穿刺吸引で,やや粘調・黄白色混濁調で無臭の液体が採取され,細胞診所見は多数の泡沫細胞と血液成分のみであった.穿刺吸引後に囊胞は短期間で増大して症状も継続し,囊胞とリンパ管・胸管との交通の可能性から,甲状腺全摘術を行った.囊胞内容液の検査ではコレステロールが高値を示し,病理結果はリンパ上皮囊胞の組織像であった.超音波所見,囊胞液の性状やコレステロール値に注意すれば術前診断は可能と考えられた.

  • 藤井 雅和, 末田 侑香, 上田 晃志郎, 原田 栄二郎, 林 雅太郎, 須藤 隆一郎, 中島 好晃
    2026 年87 巻1 号 p. 17-23
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    51歳の女性.右乳癌に対し右乳房全切除術+センチネルリンパ節生検(SLNB)を施行し,術後補助療法としてタモキシフェン+LH-RHアゴニストを施行した.術後5年目に出現した右胸壁の約5mm大の結節を摘出したところ,乳癌再発の診断であった.放射線治療後のepirubicin+cyclophosphamide (EC)療法はアレルギー反応のため2クールで中止したが,weekly paclitaxel(PTX)は完遂した.続いて,レトロゾール+アベマシクリブを内服開始したが,内服2カ月後に右上腕の張りと右肩のこわばりを認めた.放射線照射野に一致する症状であり,画像上も放射線治療によるリコール現象として矛盾せず,原因薬剤としてアベマシクリブが考えられた.アベマシクリブの中止と,機能改善目的のリハビリで,120°程度に制限されていた右肩の自動挙上が速やかに改善した.その後,レトロゾールの内服を継続し,再発や右上肢の症状も出現なく経過している.放射線治療後にアベマシクリブを使用する場合は,リコール現象を生じうる可能性がある.

  • 青野 真由子, 野田 令菜, 田口 加奈, 村上 朱里, 亀井 義明, 楳田 祐三
    2026 年87 巻1 号 p. 24-27
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    症例1は67歳,女性.右乳癌Stage IIBに対し術前化学療法のドキソルビシン+シクロホスファミド(AC)療法とトラスツズマブ+ペルツズマブ+ドセタキセル療法を完遂後に手術を施行し,術後補助治療としてトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)を開始.4コース目を施行予定の外来受診時に両側流涙と違和感を訴え眼科に紹介,両側涙点狭窄を認め,涙管チューブ挿入術を施行し眼症状は速やかに改善,T-DM1を完遂した.症例2は63歳,女性.左乳癌Stage Iに対し術前化学療法のAC療法とトラスツズマブ+ドセタキセル療法を完遂後に手術を施行し,術後補助治療としてT-DM1を開始.6コース目を施行予定の外来受診時に両側霞目・流涙を自覚し,眼科にて角膜障害と涙道障害を認めた.涙管チューブ挿入術を施行し速やかに流涙は改善され,T-DM1を完遂した.2症例とも早期に眼科的治療介入を行うことで,T-DM1を完遂できた.T-DM1の副作用に涙道障害があることを考慮し,早期の症状認識と眼科的介入が肝要だ.

  • 加藤 達史, 佐多 律子, 松本 弥生, 中川 顕志, 久下 博之
    2026 年87 巻1 号 p. 28-32
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    患者は72歳,女性.58歳時に左乳癌に対し腋窩リンパ節郭清を伴う左乳房部分切除術が施行され,術後治療と外来経過観察の後,定期健診となっていた.術後14年目,温存乳房に腫瘤を自覚し受診.精査にて温存乳房内再発乳癌と診断されたが,対側腋窩リンパ節転移を伴っていた.初回乳癌の組織型およびサブタイプとは異なるため新規発生の乳癌と考えられたが,全身検索で他の病変を指摘されず,初回手術によるリンパ流の変化で生じた領域リンパ節転移と考え,根治目的に左乳房切除術および右腋窩リンパ節郭清術を施行した.術中にICGを用いてリンパ流を確認したところ,左乳房から右腋窩へ流入したリンパ流が,摘出したリンパ節に直接に到達していることを確認した.温存乳房内再発乳癌に対側リンパ節転移を伴う場合,ICG蛍光法はリンパ流を術中に直接観察することができるため,手術の根治性を考慮する上で有用ではないかと考えられる.

  • 田中 理絵, 宮里 恵子, 藏下 要, 宮良 球一郎
    2026 年87 巻1 号 p. 33-39
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    神経線維腫症1型(NF1)は皮膚・骨・神経等に多彩な症候を呈し,脳脊髄や消化管,副腎等に悪性腫瘍を合併する遺伝性疾患である.近年,NF1合併乳癌の報告が散見され,当院でも2例経験したため報告する.症例1は42歳,女性.乳癌検診で石灰化病変を指摘され,精査で右の非浸潤性乳管癌の診断となった.右乳房切除術とセンチネルリンパ節生検を施行し,術後ホルモン療法中である.症例2は55歳,女性.腫瘤の自覚で前医を受診し,精査で右乳腺化生癌,トリプルネガティブタイプ,cT4bN1M0 stage IIIBの診断となった.術前化学療法中に皮膚浸潤の増大を認め手術の方針となり,右乳房切除術,腋窩郭清術(Level 2),皮膚移植術を施行した.NF1合併乳癌は一般集団と比較し若年発症で予後が悪いため,特に若年のNF1患者にはMRIを含めた定期検査を行うことで,早期発見と予後の改善につながると考えられる.

  • 内藤 一樹, 井村 仁郎, 巾 芳昭, 安達 亙
    2026 年87 巻1 号 p. 40-45
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    結腸脾彎曲部軸捻は稀な疾患であり,結腸の固定不全を有していることがある.今回われわれは,S状結腸軸捻術後に結腸脾彎曲部軸捻を発症した1例を経験したので報告する.症例は87歳,男性.2年前にS状結腸軸捻に対し,S状結腸切除術を施行.今回腹部膨満を主訴に来院し,CTで結腸脾彎曲部軸捻と診断した.同日内視鏡的整復を施行し,1カ月後に待機的手術の方針とした.結腸脾彎曲部を含む余剰結腸を切除し,機能的端々吻合で再建を行った.全結腸を検索したところ,盲腸から上行結腸の固定不全も認めたため,後腹膜との腸管固定術を併施した.術後経過は良好であった.結腸脾彎曲部軸捻は稀であるが,結腸固定不全を有する可能性がある.結腸軸捻手術時には全結腸を検索し,必要に応じて腸管固定術を併施することが有用であると考える.

  • 吉田 光一, 村田 仁美, 桒原 佳奈, 武田 重臣, 松下 英信, 大河内 治
    2026 年87 巻1 号 p. 46-50
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    症例は41歳,女性.当初,子宮筋腫合併妊娠の診断であり,8cm大の子宮筋腫として経過観察されていた.妊娠中の経過に問題はなく,経腟分娩に至った.分娩後に筋腫の増大,炎症反応高値および腹痛を認めたため当院を受診した.変性子宮筋腫の感染を疑い,保存的治療は困難であると判断し,開腹手術を行った.術中所見でS状結腸間膜原発の腫瘍と判明し,S状結腸の合併切除を伴う腸間膜腫瘍切除術を行った.病理組織学的検査では免疫染色にてSMA弱陽性,desmin・caldesmon陽性.c-kit・DOG1・myogeninは陰性であり,S状結腸間膜平滑筋肉腫と診断した.術後経過は良好で,術後第9病日に退院した.MIB-1標識率は90%以上で,悪性度は高いと判断し,術後補助化学療法を施行する方針となり,ifosfamide/adriamycinを4コース投与した.補助化学療法終了後は慎重な経過観察をしており,術後9カ月現在,無再発である.

  • 奥 裕美, 藤吉 健司, 村井 麻衣, 大塚 裕之, 吉田 武史, 藤田 文彦
    2026 年87 巻1 号 p. 51-58
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    動脈腸管瘻は稀な疾患で,緊急度・重症度ともに非常に高い疾患である.62歳,女性.S状結腸癌再発に対して,bevacizumab-FOLFOX療法後に根治切除術を行った.術後自宅退院していたが,多量下血による出血性ショックで救急搬送された.救命処置にもかかわらず,急速に死亡に至った.病理解剖により左総腸骨動脈腸管瘻による失血死の診断となった.潜在的に結腸吻合部の縫合不全が生じ,縫合不全に伴う感染性炎症が左総腸骨動脈の剥離面にまで及び,左総腸骨動脈腸管瘻をきたしたと示唆された.発症から死に至るまでが非常に急速であり,救命が極めて困難な病態であった.腰痛と左鼠径部痛の非典的な症状であり縫合不全の診断に至らず,一時的にはショックを離脱したことで,消化管内視鏡検査や血管造影検査などの迅速な対応へ至らなかったことが反省すべき点である.

  • 西山 大貴, 北沢 将人, 中村 聡, 宮﨑 暁, 本藤 奈緒, 副島 雄二
    2026 年87 巻1 号 p. 59-65
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    症例は78歳,男性.腹部膨満感を主訴に前医を受診し,腹部造影CTにて後腹膜腫瘍を認め,手術目的に紹介となった.初診時身体所見は,左上腹部に腫瘤を触知した.腹部造影CTにて,左上腹部に15cmの造影効果を伴う腫瘤を認めた.腫瘍の栄養血管は左第4腰動脈,左腸腰動脈,内腸骨動脈分枝であった.EUS-FNAを施行し,病理にて孤立性線維性腫瘍(solitary fibrous tumor:以下SFT)と診断された.出血のリスクを考慮し,腫瘍血管である左第4腰動脈・左腸腰動脈・内腸骨動脈分枝を術前に径動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization:TAE)にて塞栓し,手術を施行した.術中所見では,左腹部に弾性軟な腫瘤を認め,左腸腰動脈と左内腸骨動脈分枝を結紮切離し,腫瘍を一塊に摘出した.病理組織学的検査にて,紡錘形細胞が密に増殖し多数の血管が介在しており,SFTと診断された.稀な症例と考え報告する.

  • 清水 駿, 赤井 隆司, 金子 学, 豊島 明, 佐々木 愼
    2026 年87 巻1 号 p. 66-70
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    成人臍ヘルニア破裂は腹水等による腹腔内圧上昇が誘因であり,本邦では比較的稀である.症例は73歳,女性.肝硬変に対し近医加療中であった.2019年に臍ヘルニアに対して手術を受け,2020年より臍周囲の再膨隆を認めていたが,自己判断で放置していた.2022年,破裂音と共に臍ヘルニア部からの腹水の漏出,腸管露出が出現したため救急搬送となった.緊急手術の方針となり全身麻酔下に臍ヘルニア修復術を行った.術後に発熱し血液培養にてmethicillin-sensitive Staphylococcus aureus (MSSA)陽性となったが,抗菌薬開始後は良好に経過した.術後2年に肝硬変増悪により死亡するまでの間,臍ヘルニアの再発は認めなかった.

  • 丹羽 こころ, 高野 博信, 和田 秀之, 新田 健雄, 七戸 俊明, 平野 聡
    2026 年87 巻1 号 p. 71-74
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    症例は79歳の男性.63歳時に前立腺癌に対し鏡視下前立腺全摘除術,74歳時に術後腹圧性尿失禁に対し人工尿道括約筋埋め込み術を施行されている.4カ月前から右鼠径部の膨隆を自覚し,疼痛も出現してきたため当科を受診.右鼠径ヘルニアと診断した.腹部CTでは人工尿道括約筋の圧調整バルーンとコードが鼠径管の近傍を走行しているのが確認された.手術はmesh plug法を施行し,合併症なく術後5日目に退院した.人工尿道括約筋留置側鼠径ヘルニアは埋め込まれたデバイスの保護が肝要であり,onlay meshを用いた鼠径部切開法が有用な術式である.

国内外科研修報告
会報
日本臨床外科学会会則
日本臨床外科学会内規
日本臨床外科学会支部に関する規定
日本臨床外科学会臨床研究の利益相反に関する指針
日本臨床外科学会個人情報取扱基本指針
第86巻総目次,筆頭著者名および総索引用語
編集後記
日本臨床外科学会役員等氏名
第87回日本臨床外科学会学術集会演題:取下げ,変更,追加
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