2019 年 80 巻 6 号 p. 1089-1093
鈍的外傷による胸部大動脈損傷は,救命が困難であることが多い.同時に多発外傷を伴うことが多く,複数の病態に対する治療戦略が重要となる.症例は71歳,男性.転落外傷のCT検査で胸部大動脈損傷による仮性瘤,腸管穿孔,肝損傷と診断した.開腹後,腸管穿孔部を修復し,肝損傷部からの出血コントロール目的にガーゼパッキングによるdamage control surgeryを行った.その後止血を確認し,胸部大動脈ステントグラフト内挿術にて血管損傷の治療を行った.術後,55日目にリハビリ目的で他院へ転院となった.本症例では,全身状態に大きく関与していた腹腔内損傷を優先して治療し,大動脈の治療を二期的に低侵襲で行うことができた.胸腹部両方に及ぶ多発外傷の治療においては,それぞれの重症度を的確に把握することが肝要である.また,大動脈損傷にはステントの使用が有用であり,適応を拡げて使用すべきである.