2024 年 85 巻 8 号 p. 993-998
特発性前骨間神経麻痺(spontaneous anterior interosseous nerve palsy:sAINP)は原因不明の末梢神経麻痺であり,突然発症することが多くウイルス感染やストレス,患肢の酷使や手術・外傷等が誘因とされる.
今回われわれは,乳房温存術後に前骨間神経麻痺をきたした稀な症例を経験したので報告する.症例は55歳の女性で,右乳癌に対して右乳房部分切除および腋窩郭清を施行.術後診断はpT1cN1M0 pStage IIAであった.術後経過は良好で術後7日で退院となったが,術後20日目より右肘関節の疼痛,さらにその2週後(術後34日頃)より母指指節間関節の過伸展,示指遠位指節間関節の屈曲不能が特徴的なtear drop signが出現した.上肢神経超音波で患側の前骨間神経の腫脹が見られ,針筋電図検査では前骨間神経の神経障害が示唆され,炎症性の神経障害と考えられた.前駆痛を伴う前骨間神経支配筋の筋力低下による特徴的な身体所見および炎症性神経障害の所見から,特発性前骨間神経麻痺と診断された.稀な病態であり,若干の文献的考察を加え報告する.