全日本鍼灸学会雑誌
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セミナー
福祉における鍼灸の役割
矢野 忠熊谷 忠和渡邊 一平松本 勅
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2008 年 58 巻 1 号 p. 51-66

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抄録

 鍼灸医療は、 健康維持・増進からターミナル・ケアに至る非常に幅広い領域で応用可能な伝統医療である。 一方、 現代医療は、 疾病治療を中心に展開されてきた。 しかし、 高齢社会の到来や疾病構造の変化による慢性病の増加に伴い、 予防医療やアメニティー医療、 さらにはwelfare としての医療が求められるようになってきたが、 現代西洋医学による一元的医療システムでは、 それらの要望に十分応えることができなかったことから、 様々な観点から患者をケアすることが展開されるようになってきた。 また全人的医療の観点からも伝統医療や補完代替医療、 いわゆるCAMが注目され、 様々な目的で利用されるようになってきた。 いずれにしても、 患者中心の医療、 全人的医療、 社会福祉、 こうした医療と社会との観点から患者を総合的にケアすることの重要性・必要性が認識されるようになってきた。
 本セミナーのタイトルは 「福祉における鍼灸の役割」 であるが、 そのことを議論するには福祉と医療との関係性・関連性について知ると共に鍼灸医療が福祉分野において一定の役割を担うには両者を結ぶ共通の眼差しが必要であると考える。 実際に鍼灸医療が福祉分野でどのような役割を担うことができるのか、 またその可能性について検討しなければならない。 そこで、 本セミナーでは、 こうしたことについて、 3人から下記のような内容で発表してもらうことにした。
 熊谷忠和先生には 「医療と福祉‐医療におけるソーシャルワーカーの発展史から」 と題して、 医療と福祉との関係性・関連性、 保険医療の場で社会福祉の立場から患者や家族の抱える経済的・心理的・社会的問題の解決と調整を援助し、 社会復帰の促進を図ったり、 在宅ケアを支援するソーシャルワーカについて、 その歴史も含めて述べていただくことにした。
 渡邊一平先生には 「東洋医学と介護福祉における共通理念としての"学"の構築」 と題して、 福祉と鍼灸医療に共通する理念、 眼差しについて述べていただくことにした。
 松本 勅先生には、 「福祉 (介護) 対象者および福祉従事者に対する鍼灸」 と題して、 福祉における鍼灸の役割について、 その実際を紹介していただき、 そのことから福祉分野における鍼灸医療の有用性と可能性について述べていただくことにした。
 これからの社会を展望したとき、 福祉と医療は独立から連携、 そして一体となって展開されることが望まれる。 そのためには各専門家の連携が必要不可欠である。 すなわち対象者に応じた充実したサービスを提供するための福祉-医療システムを構築することであり、 それを支える理念が必要である。
 以下に発表者の論文を掲げ、 これからの福祉における鍼灸医療の役割とその方向性および理念について提言したいと考えている。

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