全日本鍼灸学会雑誌
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最新号
全日本鍼灸学会雑誌
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巻頭言
原著
  • -ランダム化クロスオーバー試験による検討-
    村越 祐介, 藤本 英樹, 松浦 悠人, Chuluunbat Oyunchimeg, 谷口 博志, 安野 富美子, 古賀 義久, 坂井 友 ...
    2023 年 73 巻 3 号 p. 176-185
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2024/01/25
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究の目的は鍼刺激感覚が片脚立位時の重心動揺に及ぼす影響を明らかにすることである。 【方法】対象は健常成人16名 (平均21.8±1.6歳) とした。 研究デザインはランダム化クロスオーバー試験を用いた。 バランス能力の評価として、 片脚立位の保持をフォースプレート上で40秒間、 各介入前後に行った。 重心動揺の項目は外周面積、 矩形面積、 実効値面積、 総軌跡長、 単位軌跡長、 単位面積軌跡長の計6項目とした。 また測定時の主観的な下肢の力の入れやすさはVisual analog scale (以下、 VAS) を用いて評価した。 鍼刺激条件では測定脚の下肢筋群に単刺術を行い、 その際の刺激感覚のVASを刺激時と測定終了時に評価した。 鍼刺激はステンレス製の鍼 (長さ50mm、 直径0.20mm) を用いた。 刺激部位は被験脚の伏兎穴 (ST32)、 殷門穴 (BL37)、 上巨虚穴 (ST37)、 承山穴 (BL57)、 光明穴 (GB37) に目的の深さまで刺入しひびきを感じた時点で抜鍼した。 コントロール条件は5分間の仰臥位とした。 統計は鍼刺激条件の鍼刺激前後およびコントロール条件の安静前後の重心動揺の各測定項目と下肢の力の入れやすさVASの比較、 鍼刺激条件の鍼刺激時と測定終了時の鍼刺激感覚VASの比較を算出した。 【結果】重心動揺の各項目に有意差はみられなかった。 しかし、 下肢の力の入れやすさのVASでは介入前後で78.0±14.9mmから63.1±17.0mmとなり有意に低値を示した (p<0.05)。 一方、 コントロール条件では有意差は認められなかった。 鍼刺激感覚のVASは刺激時で50.4±14.3mm、 測定終了時に9.8±9.0mmで有意に低値を示した (p<0.05)。 【考察および結語】下肢筋群への鍼刺激感覚は鍼刺激前後のバランス能力に影響を与えなかったが、 鍼刺激により一過性に力が入りにくい感覚が出現する可能性が示唆された。

症例報告
  • 堀部 豪, 溝井 令一, 小内 愛, 井畑 真太朗, 山口 智
    2023 年 73 巻 3 号 p. 186-191
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2024/01/25
    ジャーナル フリー

    腰痛の慢性化には心理社会的要因などが関わる。 しかし、 腰痛治療に際して心理社会的要因を評価し、 かつ鍼治療と漢方薬治療を併用した報告は我々が渉猟した限りない。 今回、 右殿下肢痛を訴えた慢性腰痛患者の心理的要因を評価し、 鍼治療と柴朴湯を投与した結果、 Quality of Life (QOL) が改善したので報告する。 症例:38歳女性。 主訴 右殿下肢痛。 X-1年8月に主訴を発症。 近医整形外科を受診し腰椎椎間板ヘルニアと診断された。 同年11月にふらつきを自覚し近医精神科を受診、 適応障害と診断されブロマゼパムが処方された。 X年2月に当院整形外科で坐骨神経痛と診断された。 ブロマゼパムの減薬を希望し3月に当院精神科を受診、 4月にうつ病の可能性を指摘された。 患者が腰痛に対する鍼治療を希望し、 同月に当科を受診した。 神経学的所見・整形外科的徒手検査は異常無く、 梅核気・胸脇苦満を認めた。 病態を非特異的腰痛と捉え、 鍼治療を右のL2/3直側、 仙骨外縁部、 梨状筋相当部、 殷門 (BL37)、 委中 (BL40) に実施した。 また、 漢方医学的には気滞と捉え柴朴湯を投与した。 所見・経過:Keele STarT Back Screening Tool はMedium risk、 Roland-Morris Disability Questionnaire (RDQ)は16点、 偏差得点1.22点であった。 2回目の鍼治療の際に、 左右の期門 (LR14)、 内関 (PC6)、 太衝(LR3)と巨闕(CV14)への刺鍼を追加した。 3回目の鍼治療後にRDQ 2点、 偏差得点50.14点に改善した。 考察:鍼治療と柴朴湯による鎮痛機序の賦活や精神症状への作用が推察され、 その結果症状が軽減し、 QOLが改善したと考える。 鍼治療と柴朴湯は、 心理的要因を抱え、 殿下肢痛を有する慢性腰痛患者に対して有用である可能性が示唆された。

その他(論考)
  • 古屋 英治
    2023 年 73 巻 3 号 p. 192-197
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2024/01/25
    ジャーナル フリー

    【目的】現代の鍼灸医学教育の基礎のひとつになっている臓腑経脈は 『霊枢』 「経脈篇」 で登場した。 しかし紀元前の古代中国では臓腑と経脈はそれぞれ独立して発達した経緯がある。  本研究では臓腑と経脈の関係性を成立させ、 両者が結合して臓腑の名を冠した経脈となる過程を紀元前の 『素問』 の記載内容から調査した。 【方法】底本は 『重広補注黄帝内経素問』、 紀元前の篇は丸山昌朗著 『鍼灸医学と古典の研究』 (創元社) に準拠した。 調査項目は臓と腑の名称、 臓と腑の関係、 臓腑と手足三陰三陽の表裏関係とした。 【結果】臓の名称は肝・心・脾・肺・腎、 腑の名称は小腸・膀胱・胆・大腸・胃・三焦があった。 臓と腑の関係は肺と大腸、 脾と胃、 心と小腸、 腎と膀胱、 肝と胆、 久 (病) と三焦があった。 臓腑と手足三陰三陽の表裏関係として足太陽は少陰と表裏を為すとあり、 同様に足少陽は厥陰、 足陽明は太陰、 手太陽は少陰、 手陽明は太陰、 手少陽は心主であった。 治を主る関係から肝は足厥陰少陽、 心は手少陰太陽、 脾は足太陰陽明、 肺は手太陰陽明、 腎は足少陰太陽があった。 手足と陰陽の表裏関係で臓と腑を結合させて、 これらを一括りとした表現とした太陰陽明表裏為脾胃脈也があった。 また完全な形ではないが少陰者腎也と陽明者胃脈也があった。 【考察】臓腑と経脈を結合させた臓腑経脈は脾胃から始まっていた。 他方、 完全な形ではないが他の臓腑と経脈においても結合した表現があった。 当時の医学が陰陽論と五行説で整理統合される中で、 臓腑と経脈の関係性を成立させ、 両者を結合させた新たな医学体系へと発達する過程がこの時代に存在したと推察する。 【結語】紀元前の素問において臓腑と経脈の関係性は成立し、 結合した表現は太陰陽明表裏為脾胃脈也から始まった。

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