全日本鍼灸学会雑誌
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パネルディスカッション
日本の鍼灸を取り巻く国際情勢
小野 直哉田上 麻衣子高澤 直美東郷 俊宏
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2013 年 63 巻 1 号 p. 17-32

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抄録

 現在、 鍼灸をはじめ、 伝統医学を取り巻く国際環境は、 従来の我々の認識を超え、 急激に変化している。 近年、 極東アジアのいくつかの国々では自国の伝統医学の古典医学書や伝統医学の一部分を、 国連教育科学文化機関 (UNESCO) の世界記録遺産や無形文化遺産へ登録した。 また、 世界保健機関 (WHO) では疾病及び関連保健問題の国際統計分類 (ICD) のICD-10からICD-11への改訂に伴い、 伝統医学をICD-11に盛り込む作業が行われている。 更に、 国際標準化機構 (ISO) では極東アジアの伝統医学の国際標準化の作業が進められている。 WHOと公的関係を持つ世界鍼灸学会連合会 (WFAS) でも鍼灸の国際標準化の作業が進められている。 更に、 生物多様性条約 (CBD) では伝統医学にも関わる遺伝資源と伝統的知識の議論が行われている。 伝統医学に関する事柄は、 他にも世界知的所有権機関 (WIPO) や世界貿易機構 (WTO/TRIPS)、 国連食糧農業機関 (FAO) など、 多岐に亘る国際機関で個別に議論されている。
 本パネルディスカッションでは、 最初に、 CBD及び名古屋議定書における伝統的知識の保護に関する要点を整理し、 WIPOにおける議論の状況と伝統医学に関わる伝統的知識のUNESCOでの無形文化遺産の登録の現状を明らかにし、 鍼灸の伝統的知識の保護に関する今後の課題について検討した。 次に、 WFASがWHOから委託された形で鍼灸の国際標準化を進めている現状と経過を整理し、 JSAMの立場とWFASの鍼灸の国際標準化作業における問題点を明らかにし、 WFASでの鍼灸の国際標準化作業とISOでの鍼灸の国際標準化作業の関係について検討した。 最後に、 WHOで鍼灸の国際標準化が初めてなされた1980年代から、 ISO/TC249において鍼灸の国際標準策定が進行している現在までの鍼灸の国際標準化の流れを整理し、 鍼灸の国際標準化を主に担っている国々における伝統医学の国際標準化の現況を概観し、 伝統医学の国際標準化の背後に潜む伝統医学のヘゲモニー争いの様相と今後の伝統医学の国際標準化の課題について検討した。

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© 2013 社団法人 全日本鍼灸学会
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