全日本鍼灸学会雑誌
Online ISSN : 1882-661X
Print ISSN : 0285-9955
ISSN-L : 0285-9955
報告
耳鳴に対する鍼治療の効果:症例集積による検討
耳鳴の自覚的評価に及ぼす影響
安藤 文紀
著者情報
ジャーナル フリー

2015 年 65 巻 2 号 p. 99-106

詳細
抄録

【目的】耳鳴の自覚には多様な因子が関係するが、 鍼治療が耳鳴の大きさ、 気になり方、 あるいは耳鳴による日常生活の障害など、 耳鳴患者のどのような要素に影響するかは検討されていない。 そこで症例を集積し、 鍼治療効果の特性を分析・検討したので報告する。
【方法】対象は平成 16 年4月より平成 26 年3月まで明治東洋医学院専門学校附属治療所鍼灸科の耳科領域の専門外来を受診した耳鳴患者 46 症例の内、 鍼治療を5回以上継続できた 31 症例について分析した。 対象の年齢の中央値は 60 歳、 耳鳴の罹病期間は1カ月以上が 81%を占め、 10 年以上も 16%含まれていた。 29 例は耳鼻咽喉科を受診し、 23 例は聴力低下を指摘されていた。 耳鳴の大きさは Visual Analog Scale (VAS)などにより、 持続、 気になり方などは標準耳鳴検査法 1993 の自覚的表現の検査により、 耳鳴による日常生活の障害は Tinnitus Handicap Inventory (THI)の日本語訳を用いて評価した。 鍼治療は週1回の間隔で5回単位で行い、 完骨など患側乳様突起周辺の経穴や頭頸部の圧迫により耳鳴が変化する反応点などに置鍼を行った。
【結果】鍼治療終了時には、 VAS・自覚的表現の検査などで評価した耳鳴の大きさは有意な低下が生じた。 気になり方、 THI も有意な低下が生じたが、 持続は変化なかった。 頭頸部の圧迫時に耳鳴が変化した6症例は鍼治療終了時は全例で改善が生じた。 頭頸部の圧迫時に耳鳴が変化しなかった 21 症例の鍼治療効果は、 改善 57%、 不変 14%、 悪化 29%であった。
【考察、 結語】鍼治療は耳鳴の罹病期間にかかわらず、 耳鳴の大きさ、 気になり方、 耳鳴による日常生活の障害を軽減する可能性が示された。 頭頸部の圧迫時に耳鳴が変化する体性感覚刺激が耳鳴の発生に関与していると考えられる症例では、 鍼治療が有効と考えられた。

著者関連情報
© 2015 社団法人 全日本鍼灸学会
前の記事 次の記事
feedback
Top