2003 年 53 巻 2 号 p. 159-166
糖尿病は、一旦発症すると治癒が困難であり、血糖コントロールの状態によってはさまざまな合併症を伴い、患者のQOLを著しく損なうのみでなく、医療費の増加にも大きく関わっている。しかし糖尿病発症前段階といわれる耐糖能異常では食事療法や運動療法などによる積極的な改善が可能であり、未病治としての鍼灸治療の適用によくあてはまる段階であると考えられる。糖尿病患者における鍼灸治療は症例報告や症例集積の形で報告されてきたが、糖尿病患者の性質上、インスリンや経口糖尿病薬など通常の医療を併用せざるを得ない場合が多く、鍼灸治療の付加的価値を明確にするには至っていない。動物やヒトにおける実験的研究も一部で報告され鍼刺激によりインスリン分泌が亢進する可能性が示されているが、経穴や対象の相違からさらなる検討の余地がある。
一方、糖尿病発症予防における鍼灸治療のアプローチとして肥満の是正、あるいはインスリン抵抗性の是正などが考えられるが、最近のいくつかの報告は、鍼刺激によるインスリン抵抗性の改善の可能性を明確に示したものがあり、未病治としての鍼灸の適用の可能性を拡大するものである。