2010 年 30 巻 4 号 p. 497-505
大動脈外科に伴う脊髄虚血は,分節動脈由来栄養動脈の非再建により発生すると考えられてきたが,最近は,豊富な側副血行路の存在により,脊髄灌流圧(動脈圧-脳脊髄圧)を高く維持すれば分節動脈をすべて犠牲にしても脊髄虚血には陥らない,というコンセプトが主流となっている.本コンセプトにおいては,モニタリング結果に応じた血圧管理やCSFDなど,脊髄灌流圧維持のために麻酔科が果たす役割は非常に大きい.本稿では,現代のコンセプトに基づく脊髄保護戦略を概説し,その戦略下で外科医が麻酔科医に期待するものを述べるとともに,どのような症例で側副血流が不十分になるのかに関する最近の知見と自験例の手術成績を紹介する.