2018 年 38 巻 2 号 p. 142-147
胸腺腫摘出術術後の抜管時に冠動脈攣縮から心停止に至ったと考えられる1例を経験した.症例は60歳,男性.術前評価で冠動脈器質的異常を認めなかったが,喫煙など複数の冠攣縮危険因子を有していた.腫瘍の浸潤性や術中循環動態の不安定性から,胸骨正中切開,静脈バイパス併用下胸腺腫摘出手術を行った.手術終了後にST上昇先行の心停止を発症したが,蘇生後の心機能回復は良好で,後遺症なく独歩退院した.術後の冠動脈攣縮誘発試験陽性から,心停止の原因は冠攣縮が強く疑われた.高侵襲手術などの手術因子,麻酔覚醒や薬剤投与などの術中因子が合わさり,冠攣縮に伴う心停止に至ったと考えられた.