2021 年 41 巻 7 号 p. 559-562
76歳,男性.3年前よりインスリンなどで糖尿病治療中であった.早期胃癌に対し,2回の内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が施行された.非治癒切除のため,腹腔鏡下幽門側胃切除術が予定された.術前絶飲食時間は12時間であった.全身麻酔を導入し気管挿管を施行した.挿管時口腔内に異物はなかった.経鼻胃管からは約200mLの食物残渣が吸引できた.手術開始後は胃の膨満を認めた.胃切除後に残胃内の食物残渣を約700g除去した後,胃十二指腸吻合を行い,手術は終了した.2回の広範囲なESDや糖尿病により,胃内容排出遅延が生じ,予期せぬ胃内容充満があった.幸いにも誤嚥はなかったが,麻酔科医へ警鐘を鳴らす症例であった.