抄録
遺伝性出血性疾患であるvon Willebrand病(以下vW病と略す)を合併する男性の甲状腺癌に対する甲状腺切除術の麻酔管理を経験した.vW病による異常出血を防ぐために,内因性に凝固因子を増加させる抗利尿ホルモン(ADH)の誘導体であるDDAVPを使用した.DDAVPを使用すると,術中乏尿をきたす可能性があるので,術中尿量の測定,中心静脈圧モニタリングと血清電解質のチェックを頻回に行ない,慎重な輸液管理を行なった.その結果,術中の循環動態は安定し,血清電解質,腎機能を正常に保つことができた.術後は当日夜に血圧の軽度低下がみられたが,尿量は翌日には正常範囲内に回復し,術中術後の良好な経過が得られた.